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開始5分でサービス終了した伝説のバグゲーに転生したんだが攻略できない!  作者: 那須 儒一
第三章 陰謀と選択

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第60話 付き人

ナージャ王女が生きている。

……それだけでいてもたってもいられなかった。


……彼女と過ごした輝かしい日々……いや、噛みつかれた思い出しかないな。


このどうしようもない状況をどうにかするため、とりあえずおっさんの下へ戻る。


「お前……エマ藩主を次元の狭間に飛ばしただと……」


おっさんは口をあんぐりと空けている。


「悪気はなかった」

エマの法衣をおっさんの目の前に置く。


「なんて馬鹿なことを……」

おっさんは頭を抱えている。


「わ、若様、私がついていながら、も、申し訳ございません」

いつもクールなシノメちゃんがあたふたしている。


「まあいい、やってしまったことは仕方ない。

作戦を提案した俺っちの責任だ」


おっさんは、ため息をつく。


「そうだ、そうだ!

妾たちを利用しようとしたつけだ」


「ミスティ……この状況で、よく強がれるな」

飛ばした張本人の俺が言えたことではないが。

まあでも殺したわけじゃないし、この世界のどこかで彼女は生きている。



「ナージャ王女が生きている……その可能性にオルヴィエートさんも気づいてたんじゃないかな?」


ライドウが神妙な面持ちでおっさんにカマをかける。


「ああ――想定はしていた。だが、想像の域はでなかったさ」


「どうだかな。そもそも、おっさんが俺たちに協力する意図が分からない」

正直、おっさんからすれば、デメリットでしかない。


「あらら、もしかして俺っちてば疑われている?」


「うん。胡散臭いし」


「ちょっと、スターナちゃん。身も蓋もない」


「私は、信じていますから……」

ロザリアちゃんが、まっすぐおっさんを見つめる。


「ははは、そんな言い切られたら少し照れるなぁ」

おっさんは伏し目がちに、目を逸らした。


「まあいいや。ダメ元でもいい――俺たちはナージャ王女を探す。おっさん。ここまでありがとな」


「えっ! 俺っち、ここで切り捨てられるの?

ここまで一緒に苦難を乗り越えた仲じゃない。

こうなりゃ最後までとことん付き合おうじゃないの」

おっさんは、年甲斐もなくおどけて見せる。


「協力してくれるならありがたいが、すぐにでもナージャ王女を助けに行きたい……」


「青年の熱意は伝わったが、今は身を潜めてた方がいい。カーリア組の連中が躍起になってエマ藩主を探している。下手に探りを入れていると、ナージャ王女への道のりが遠くなるぞ」


おっさんは、軽く笑いながら無精髭を掻く。


「ダイチくん。僕もオルヴィエートさんの意見に賛成だ」


「はぁ、わかったよ。俺が招いたミスだ」


「でも、エマを野放しにしといても、動きづらくはなったと思うがの……」


「私もミスティちゃんの言う通りだと思う。

あの陰険僧侶……絶対、許してくんなかったわよ。

ダイチが下着姿にさせたし……」


「あれは不可抗力だろ」


「なにっ!」

おっさんが今日一の大声を上げる。


「これは、情報収集のために、詳しく聞かねば!

エマ藩主の下着の色と柄――スリーサイズは?」


「男って……」

「どうしてこうなんですかね」

ミスティとロザリアちゃんが呆れてため息をつく。


「俺まで一緒にしないでもらいたい」

心外だ。俺は、別におっさんほど色欲に溺れちゃいない。


「私……こいつに下着を見られて……それをネタに脅されてる」


シノメちゃんが爆弾発言をする。


「ダイチ! あんた、またそんなことを!」


やばい、スターナの握りしめた拳が震えている。


「許してくれ……未遂だし……」


「ほほう。

シノメの下着か……少しだけ興味があるな」


「若様まで、悪ノリは止めてください!」


シノメちゃんが頬を赤らめ、おっさんに怒鳴る。


「シノメちゃんの下着は、くまさ……ぐへぁっ!」

シノメちゃんのドロップキックが俺の腹部につきささる。


忍びがドロップキックって……。


圧倒的な物理ダメージにより、俺は死んだ。



リスポーンした俺は、客間の布団の上で目覚める。

復活地点が更新されていてよかった。


ぐっ……デスペナルティの筋肉痛が……全身を蝕む。


「あの……先ほどはすみません……」


シノメちゃんが布団の脇で正座していた。


「別にいいよ。俺が悪いし」


「ダイチさんって、弱っちいんですね」


「それを言われると心も痛くなるな。

レベル1だから仕方ない」


「レベル?」

シノメちゃんがきょとんとした表情で首をかしげる。


そっか、レベルって概念は主人公――すなわちプレイヤーしか見れない。彼女が知る由もない概念だ。


「それより、他のみんなは?」


「若様と居酒屋に行かれました」


「くそっ、あいつら俺を置いていきやがって……

あれ、そういえばシノメちゃんも置いていかれたのか?」


「はい……私は若様や他の者に嫌われてますから」


そんなことないと思うけど……ま、赤の他人が口を出す問題じゃないか。


「俺はシノメちゃんと、お近付きになりたいけどな」


「な、何を仰るのです! 私のような下賤な女……若様だって、私がそばに寄るのを嫌がりますから」


シノメちゃんは顔を伏せる。


照れているというよりは、少し落ち込んでいるようにも見える。まったく、あのおっさんは、こんな可愛い子を悲しませるなんて……そう思ったが、俺も仲間をよく悲しませている気がするから、強くは言えないな。


「シノメちゃん、俺とデートしない?」


「それは、脅しですか?」


そう言えば、くまさんパンツで脅してたっけ。


「いや、これはお願いかな。

俺もこの国のこと、それに、シノメちゃんのことをもっと知りたいんだ」


「わかりました。若様には、ダイチ殿のおそばに居ろとのご命令でしたので……ご希望とあらば、お供します」


これは、俺を見張ってろってことだろう。

まあ、せっかく出会ったんだ。利害関係だけのやりとりなんて寂しいだろ。



「いだだだだ」

痛みを堪えながらも、街に出た。


しかし、雪洞の中って意外と暖かいのな。

街全体を覆う巨大なかまくらみたいだ。


「大丈夫ですか?

先ほどは手荒な真似をして申し訳ございません」

シノメちゃんは薄紫のポニーテールを揺らし、頭を下げる。


「茶化した俺が悪いから」


「いいえ、命令外の行動をとってしまったので……若様にはお叱りを受けました」


おっさんとシノメちゃん……仲間っていうよりは、本当に主従関係なんだな。


「シノメちゃん。俺といるときは好きに動いていいから」


「それは、命令ですか?」


「ふっ、そうだ――これは命令だ」


「了解しました」


可愛らしい付き人――シノメちゃんに連れられるまま大衆食堂に訪れた。


店の外まで並べられた氷の椅子――夕食時の店内は既に客で賑わっていた。



この国では、時間の感覚が薄れていく。

ほんのりと薄暗く、時計なんてものは存在しない。


「うわー! 私、こういうところ初めてなんです! 何を頼めばいいですか?

命令してください!」


「命令って……好きなものを頼んでいいよ。

今日は俺の奢りだから」


この子、もしかしてずっと命令だけで動いてきたのか?

この国の文化は知らないが、やっぱりおっさんとは歪な関係な気がする。


「好きなものですか……」

彼女はすっととあるメニューを指差す。


「ひつまぶしか……これはまたなかなか渋いチョイスだな」


「若様が好きな食べ物……」


「そっか。なら、主の好みの味も把握しとかないとな。頼んでいいよ」


「本当ですか! ありがとうございます!」

こうして話してみると、年頃の可愛らしい女の子だ。


「さて、なら俺は、銀鮭定食かな……」

このガルデルド帝国は和の世界観だ。懐かしい日本食で溢れかえっている。


「私、誰かとご飯を食べるの初めてです!」


「えっ!? 普段はどうしているの?」


「普段ですか……普段は暗くて狭い部屋で、一人で御膳をいただいています」


「おっさんと食べないの?」


「若様は……食事時は一人を好みますから」


おっさん、俺たちといる時は普通に一緒にご飯を食べていたんだけどな。


「なら、その間くらいは俺と食べようぜ!」


「えっ、いいんですか?」


「ああ、食事は華があったほうが何倍も美味くなるんだぜ!」


「はな?」


「えーっと……誰かと食べるってのは最高の調味料ってことだ」


俺も長年便所飯と薄暗い自室に引きこもって、一人でご飯を食べてきたから、シノメちゃんの気持は分かる。


……やっぱり、食事はみんなで食べたほうが美味い。


「華は調味料……なるほど……」


「華ってのはシノメちゃんみたいな、華のある女性ってことさ」


「わ、私……そんなことないです」

マスク越しでも彼女の頬が紅潮しているのが、分かる。


この子、本当は素直で可愛い子なんだな。


歓談していると、料理が運ばれてきた。


ひつまぶし――おひつに入ったご飯の上に、刻んだ鰻の蒲焼きがこれでもかと敷き詰められてきた。


黄金色に輝くタレが、甘い匂いとともに食欲をくすぐる。


その横に、薬味や器、だし汁が添えられていた。


「これがひつまぶし……なんか、手強そうです」

シノメちゃんは箸を持ったまま、躊躇っている。


「確かに初見で食べるには難易度の高い料理かもな。ここはひつまぶし奉行の俺が、とっておきの食べ方を伝授してやるよ」


「おおー! 御奉行様!」

シノメちゃんのリアクションがいちいち面白い。


「まずは、しゃもじでお櫃の中のひつまぶしを四等分にするんだ」


「はっ!」

シノメちゃんは、お櫃内のひつまぶしをしゃもじで十字に刻む。


「そうそう。それで四分の一をまずそのまま食べて、二杯目は薬味を混ぜて食べる。

三杯目はだし汁に浸して、お茶漬け風にして、最後は自分の好きな食べ方で食べるんだ」


「ひつまぶし――恐るべし」

シノメちゃんの表情がだんだんと色味を帯びてくる。


「ま、好きな食べ方で食べるといいさ」


俺は銀鮭に箸を通す。

鮭の皮がパリッと小気味の良い音を立てる。


シノメちゃんは黙々とひつまぶしを食べ進める。


「どうだ?」


「おいしいです!」

彼女が笑っている顔、初めて見た。


「そうか、よかったな」

シノメちゃんの口元にご飯粒が付いている。

それを取ってあげる。


「ありがとう。

……それ、美味しいのですか?」


銀鮭を見つめるシノメちゃんの口から、涎が溢れ出そうになっている。


仕方ない。

銀鮭を半分こにして、小皿に乗せる。


「ダイチ殿、ありがとうございます……」


彼女を見ていると何となくリリムを思い出す。


これで、シノメちゃんと少しは仲良くなれたのかな。


そう思ってたのは俺だけだったのかもしれない――。

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