第6話 やはりクソゲー
このゲームは本当にクソゲーだ!
声を大にして叫びたい!
モンスターを1000体討伐して上がったレベルはわずか1……。
しかも、リポップが渋いため、王都周辺から魔物の影が消えた。
ふぅ、ともかくレベル4になり新たなスキルツリーだ。
正直ステータスアップよりクラフトスキルの方が魅力的だった。
物理を上げればいいクソゲーだから。
素材はたんまりある。
俺はさっそく家に帰って、クラフトメニューを開く。
バスルーム――クラフト!
ふぅ、これでようやく、トイレとお風呂を別にできた。
問題はリビングの二分の一を占めているところだけど……背に腹は代えられない。
「あらあら、ダイチさん、これは何かしら?」
アーシャさんがお風呂をもの珍しそうに覗き込む。
そっか、アーシャさんにも教えないといけないのか。
結局、スターナの時は自分の体を洗えなかったし一緒に入るか……。
「スターナは?」
「部屋で寝ているわよ」
シャワーを浴びて疲れたのかな。
とりあえずアーシャさんに一通りお風呂について説明する。
「ふーん。面白そうね。もちろん、ダイチさんも一緒に入って教えてくれるのよね?」
「当然でございます! 公衆衛生は我が使命!」
世界のためと自分に言い聞かせ、アーシャさんとお風呂に入る。
スキル習得してよかった。
この浴槽、二人でも難なく入れるな。
俺はアーシャさんの体を直視できなかったため、アーシャさんに背を向けて湯船に浸かる。
「ふぅー、これ凄く気持ちいいわね」
アーシャさんの吐息が俺の耳にかかる。
「どうしたの、ダイチさん。耳が真っ赤よ?」
「お、お風呂に入ると血行が良くなってですね……」
やばい、上手く呂律が回らない。
くっ……スターナと比べると破壊力が凄すぎる。
「ダイチさん……」
アーシャさんが俺の背中に体を寄せる。
「ひぃっ!」
自分でも素っ頓狂な声が出たと思う。
「ふふ、そうよね。
……こんな、おばさん……嫌よね……」
アーシャさんの声が湯船に沈むように落ちる。
そんなわけない。
今までゲームをしていて、NPCに感情移入したことなんてなかった。でも、いい加減認めないといけない。
ここは現実なんだと。
「アーシャさん。そんなことないですよ。
貴方は綺麗だ……」
「ダイチさん!」
背後からアーシャさんの腕が回る。
うっ……色んなところが当たって、これ以上は耐えられそうにない。
「ちょっと、何騒いでんのよ?」
この声は……まずい……。
俺は、慌てて風呂の扉を押さえる。
「ダイチ、一人なの?」
「あ、ああ!
新しいお風呂をクラフトしたから試しているんだ」
「ああっ……ダイチさん……娘の前で……そんな、激しくしないで!」
突然、浴槽に入っているアーシャさんが艶めかしい声をあげる。
先に断っておくが、俺はアーシャさんに触れてもいない。
「ちょっと、ダイチ! なんで、ママがいるのよ! それに、二人で何してんの!」
「スターナ、誤解だ! 俺は断じて何もしていない!」
「嘘よ、ならなんで一人だって嘘ついたの……」
「ダイチさん……私、もうダメ……」
俺がアーシャさんを睨むと、にやにやしていた。
この人わざとやっている。
「ダイチ! 許さないから!
閃け――雷鳴!」
“ライトニング”
脱衣所で雷が爆ぜる。
――しかし、なんともない。
「ふっ、馬鹿が……オブジェクトはクラフトメニューからしか解体できないんだよ。
お前にそんな機能ないだろ?」
「……」
ガチャ――スターナは無言のまま脱衣所から出ていった。
「あらあら、やり過ぎちゃったかしら」
アーシャさんはテヘッと舌を出す。
「俺も言い過ぎたかも……アーシャさん、あとで誤解を解いておいてくださいよ」
「あら、誤解なの?」
まったくこの人は……。
――ガチャ。
すると、スターナが再び戻ってきた。
ガンッ、ガンッ、ガンッ!
スターナが擦りガラス越しに何かを打ち付けている。
「開けろ、開けろ、開けろ、開けろ、開けろ……」
それは、まるで呪詛を帯びた呪文の如く、感情の読めない低い声で繰り返される。
「ひっ……」
分かった、彼女が持っているのは包丁だ。
まずい、物理最強のこの世界で、あれに刺されたら一撃で死ぬかもしれない。
「スタちゃん。ご、ごめんなさい!
ダイチさんに、強引に迫られて……私は嫌だって言ったのに……ぐすっ……無理矢理……」
こ、こいつ……アーシャさんは、自分が助かるために被害者ムーブを始めた。
「ダイチ殺す、ダイチ殺す、ダイチ殺す!」
やばい、スターナが完全にヤンデレ化している。
だめだ、手が震えて……ドアノブを抑えてられない。
まずいっ――ついにドアが押し開けられた。
スターナが真顔で立っている。
浴槽で泣いている……いや、泣き真似をしているアーシャさんを見て、俺に包丁が突き立てられた。
「ぎゃあああ!」
ゲーム世界という設定のせいか、痛みはさほど無かった。
アーシャをデコピンで殺しかけたんだ。
俺も殺されても文句は言えない。
でも、初めてNPCの気持ちが分かったよ。
後悔とともに、俺はこの世界で初めて死を迎えた。




