第5話 公衆衛生
さてと……素材も集まったしクラフト発動だ!
視界の端でスキルツリーを操作――
「来い、ユニットバス(中級)!」
トイレとお風呂の複合クラフト……これで、ようやくお風呂に入れる!
トイレのクラフトツリーにどうしてお風呂があるのか気になったが……今さらツッコむ気にもなれない。
お陰でリビングの4分の1が潰れてしまったが……てかこの家に二階建ての一軒家なのに1LDKなのはおかしいだろ……。
「ダイチ……これ何?」
「風呂だよ」
「ふろ?」
「まさか、風呂をご存じない?
スターナ、お前……なんか臭いし先に入れよ……」
「く、臭くないもん! 怖いし入りたくないよ……」
くそ、設定上風呂の概念が存在しないのか……NPCはトイレをしないにしても、汗は普通にかいている。
まずい……このままでは、この世界――大衆の体臭でえげつないことになるぞ。
まずい、世界を――というか俺の鼻を救うために早急にクラフトスキルを習得する必要があるな。
「スターナ、風呂の入り方を教えるから、服を脱げ!」
「は、何言ってんのよ? イヤよ!」
「嫌って言ったって、どうすんだよ。
臭い人と一緒に歩きたくないんだけど?」
「だから、臭くないってば!」
アイドルだって、一週間も風呂に入らなかったら臭くなる。これは、公衆衛生を守るため、必要なことなんだ。
俺は、自分を正当化して強硬手段に出る。
視線でメニュー操作する。
パーティ→スターナ→装備→全解除。
スターナのローブが消え、下着姿となる。
薄いピンクのフリルがやけに眩しい。
「きゃあああああ!」
スターナは自分を抱きしめるような仕草で体を隠す。
「ほら、これで隠せよ」
バスタオルを投げ渡す。
「もう、お嫁に行けない」
「大丈夫だ。設定上、俺以外とは結ばれないはずだから」
「イヤだあ、亭主関白反対!」
「それなら別ヒロインを攻略するだけだから俺はいいんだけど?」
「それもイヤだ!
ううう……その、お風呂とやらに入ったら、私のこと嫌いにならない?」
「ああ……少なくとも臭いの面ではな」
「わかったわよ」
風呂の入り方が分からないなんて終わっている。
これ、全NPCに広めないといけないのか?
女性なら大歓迎だが、男にまで教える気になれない。
いや、これも公衆衛生を保つため……この苦行を乗り越えるしかない。
シャンプーとボディーソープは無いのか……仕方ない。
まずはシャワーだけで慣れてもらうか。
スターナを浴槽に立たせて、防水カーテンで隠す。
俺はトイレ部分から指示を出す。
「ダイチ……これ、本当に大丈夫なの?」
スターナは閉鎖空間ということもあってか、声が震えている。
「大丈夫だって、俺を信用できないのか?」
「うーん。ちょっと信用できない……」
あれ……もしかして、俺の好感度って低い?
少し、傷つくがそんな場合でもない。
一通り、シャワーの使い方をカーテン越しに説明する。
「ええっと……レバーをひねって……って、きゃああああ、冷たっ!?」
水流の音とスターナの叫び声が狭い浴室に反響する。
「うぁぁぁぁぁん……ダイチにまた騙されたぁ」
とうとうスターナが泣き出してしまった。
「スターナ、入るぞ……」
「うん……」
スターナは渋々承諾して、俺も浴槽に入る。
てか、下着を着けたままだったんだな。
まあ、慣れるまではこれでいいか。
「まずは、温度調整をしてお湯を出すんだよ。
好みにもよるが40度ぐらいが目安だ」
俺は背後からスターナの手を持ち、お湯を当ててやる。
一瞬、ビクッと体が跳ねたが、すぐにお湯を受け入れた。
「次は、全身にお湯をかけながら、頭と体を擦る」
スターナの髪をシャカシャカ洗う。
ふわりと柔らかい髪の感触が指先に絡まる。
「ダイチ……これ、気持ちいいかも……」
スターナの吐息が、恍惚を帯びる。
彼女の体も洗ってやる。
……スターナってかなり華奢なんだな。
「ん……ダイチ……くすぐったいよ」
「く……」
不覚にもスターナの甘い声に胸の鼓動が跳ねる。
くそっ、ここにきて前世で童貞だったのが響いてくる。
今まで、義務が勝っていたが、不意にスターナを異性として意識してしまう。
「ふぅ、終わったぞ! どうだった?」
「うん。気持ちよかった!
ありがとうダイチ……」
スターナの声は少し恥ずかしそうだった。
「本来は、下着は脱ぐからな。
先に出るから、ゆっくり着替えな」
俺は後ろ髪を惹かれる気持ちもあったが、ユニットバスから出た。
さて、スターナが入っている間、レベリングでもしてくるかな。
トイレは俺だけに関わる問題だが、
風呂が無いのは社会問題レベルだ。
ともかく風呂方面のクラフトを進めるか。
さっそく、俺は一人で王都近郊の森に向かった。




