第4話 形見
さてと、次のクラフトを試してみるか……
「素材は……木材10にオークラフトの羽根5枚?
オークラフトってなんだ?」
スターナに尋ねると、彼女は顔を背ける。
「どうしたんだ?」
「教える代わりに、おんぶして……」
スターナは甘えるように両手を伸ばす。
最初のツンデレ設定はどこにいったのやら。
もはやデレをカンストしてんじゃないのか?
「はぁ、わかったよ」
俺はため息を突きながらしゃがむ。
ゲーム感覚で雑に扱っていたが、彼女の反応に少しずつこの世界が現実味を帯びてきた。
もう少し、優しくするか。
「わーい! ダイチ、大好きだよ!」
スターナが勢いよく、俺の背中に飛び乗る。
「知ってるよ、ヒロインだしな」
「私は、別に設定上ダイチを好きになっているわけじゃないんだよ。運命を感じたんだからね!」
「運命という名のプログラムだな」
背中に感じる体温が、ゲーム世界だということを否定しているような気がした。
「オークラフトは王都周辺の森で出現する鳥型モンスターだよ」
「モンスターか……強いのかな?」
スターナの指示に従い、城門から出る。
ちなみに30分歩いてようやく城外に到着した。
「あっ、あれだよ!」
スターナの指し示す先に、1メートルほどの白い怪鳥が飛んでいた。
飛んでいるから、物理攻撃が届かないな。
HP150か……魔法でちまちま削るのも面倒だ。
「スターナ……お前をおんぶして疲れたから、倒しといてくれ!」
物理攻撃は飛行型の敵との相性が悪い。
こっちの攻撃を当てるのが大変だ。
「えっ、ダイチも手伝ってよ!」
「俺、魔法数発しか撃てないし、木材を集めてくるから、そいつは頼んだ」
「もう、仕方ないな」
ぶぅぶぅ言いながらも、お願いを聞いてくれる。
そんな、スターナがだんだんと可愛く見えてきた。
素材集めはスターナに任せて、俺は木陰で昼寝を決めこむ。ちなみに、木材10はワンパンで集まった。
マジで物理最強。
❇
「ぐすっ……ぐすっ……」
スターナの啜り泣く声で目覚める。
城壁が茜に染まっていた。
「ふぁー、よく寝た」
ぐっと背伸びをして、スターナに歩み寄る。
「素材は集まったのか?」
「うん……でも髪留めが……」
スターナの左の髪留めが壊れていて、解けた髪が風になびく。
「大事なものだったのか?」
「うん……亡くなったお父さんが誕生日に買ってくれたの……」
俺はスターナの頭を撫でてやる。
「道具屋に行って相談してみようぜ」
「うん……」
落ち込むスターナをお姫様抱っこする。
「えっ、ちょっと。一人で歩けるってば……」
「素材、ありがとな。これぐらいさせてくれ」
形見が壊れたのは、俺がスターナに任せっきりだったのもあるから、少し悪い気もした。
「ダイチ、ありがと……」
そう言って、スターナは俺の腕で静かに泣いていた。
道具屋に行ったが……ゲームのように都合良くはいかなかった。
「………」
かける言葉が見当たらない。
「仕方ないよね。戦場で付けてた私が悪い……」
スターナって結構いい子なんじゃないか?
彼女の今まで意識していなかった一面に気づき、なんとかしてやりたいと思いつつ帰路に就く。
❇
翌日――昼過ぎになっても、スターナは二階の寝室から降りてこなかった。
「スタちゃん、どうしたのかしら?」
アーシャさんは心配そうに二階へ続く階段を見つめる。
「昨日、お父さんにもらった髪飾りが壊れたみたいで……」
「ふふ、あの子はお父さんっ子だったから」
アーシャさんが、窓の外を見て微笑む。
彼女の瞳は、届かない過去に思いを馳せているようだった。
俺が間違っていた。
スターナもアーシャさんも、一人の人間なんだ!
「アーシャさん……少し出てくる」
「えっ、わかったわ。今夜はステーキよ!」
遠くなるアーシャさんの声に見送られ、冷蔵庫の中をくぐる。
今日は――というか、今日もステーキが正解だろ。
さすがに飽きてきた。
王都中を駆け回り――買い物を済ませる頃には、既に日は落ちかけていた。
俺は、一日中駆け回り帰宅する。
――スターナはまだ、寝室にいるみたいだ。
二階に上がると、彼女は布団を被って、声を押し殺し泣いていた。
「スターナ」
「……」
返事はない。
掛け布団に手をかける。
「お願い、見ないで……今、ブサイクだから」
彼女は必死に掛け布団を掴み、顔を隠す。
「多少泣き腫らしたって変わんないよ」
「どうせ、いつもブサイクって言いたいんでしょ!」
「違うよ……スターナはいつも可愛いよ」
「……ありがと」
彼女は小さくお礼をこぼす。
「背を向けてていいから、布団から頭を出して、座ってくれないか?」
「なんでよ?」
「素直に聞いといたほうがいいぜ」
「はぁ、わかったわよ」
スターナは渋々、起き上がり背を向けて座った。
白いキャミソールが暗がりに揺れる。
彼女の淡く細い背中が、いつもより小さく見えた。
俺は鏡台に置いてあった櫛を取り、スターナの下ろしていた髪を梳く。
一瞬、彼女の体がビクッと震えたが、
すぐに俺に体を預けた。
街で買った星型の髪留めで、スターナの髪をまとめ上げた。
彼女の金髪の髪と同じように、かすかに煌めいている。
スターナは自分の髪留めを触り、ベッドから飛び起きた。鏡台の前に走り、覗き込んだ。
「ダイチ、私のために買ってくれたの?」
「ああ、お前は俺のヒロインだからな」
「……ダイチ!」
スターナが泣きながら胸に飛び込んできた。
「うおっ……」
「……これ、ダイチの形見にするね!」
「おい、死ぬ前提かよ……」
「ふふ……ダイチ……好きだよ」
スターナは下を向いたまま、小さくこぼした。
「なんだよ。気色悪いな……」
口ではそう言いつつも、満更でもなかった。




