第57話 四大藩主
「おう、シノメ! 帰ったぞ!」
シノメと呼ばれた少女は頭を下げたままだ。
「客人を客間に案内してくれ……」
「御意――」
少女は、鋭い目つきでこちらを一瞥すると、無言で先導する。
「口下手だが、可愛い奴なんだ。
彼女についていってくれ」
おっさんは手を振りながら、俺たちを見送った。
「なんか、おっさんってば……若様ってキャラじゃないのう」
ミスティの言う通りだ。違和感しかない。
「ガルデルド帝国は皇族の下に貴族がおる。
たぶん、おっさんも貴族なのだろう」
「詳しいなミスティ、年の功ってやつか?」
「ぬし様……次、妾をババア扱いしたら消し炭にするからの」
「冗談だって……」
「こちらになります。どうぞ、おくつろぎください」
シノメちゃんは頭を下げ、どこかへ行ってしまった。
青い石床の上に畳と座布団が置かれていた。
番傘もあるな……和な雰囲気だが、青い石にはミスマッチな気もする。
「俺とスターナは、以前この首都に来たんだよな?」
「何言ってんのよ、首都は初めてよ。私たちはナージャ王女を攫ったルミア組のアジトに乗り込んだのよ」
「なるほどね……」
ストーリーが飛ぶってのは厄介だ。
そもそも体験してないから記憶にも残っていない。
ただ、スターナとリリムが死んだのは間違いない。
俺たちの顔も割れているからルミア組に迂闊に近づくことだけは避けよう。
❇
「いやー、お待たせ!」
灰色の和装姿で、小綺麗になったおっさんが客間に訪れた。
「オルヴィエートさん。その格好お似合いですね」
「おっ、ロザリアちゃん!
俺のことを惚れ直したかな?」
「格好が変わっても中身は変わんないのね」
スターナが呆れてため息をつく。
「オルヴィエートさん……ここからどうします?」
ライドウの質問に、おっさんは顎に手を当てて考え込む。
「そうだな。ともかく、ナージャ王女暗殺の首謀者は四つの組の藩主だろう……」
「組というのは、家同士の集まりと解釈していいのかな?」
「ああ、優等生くんの言う通りだ。
藩主の掲げる信念の下に集った四大派閥だ」
「一つ目はカーリア組。さっき説明した通り、平和と平等を掲げている。
二つ目は、ラマハ組。武の追求を掲げている。
三つ目は、俺が率いているシュラ組。
自由と愛を掲げている。
そんで、最後はルミア組……ここは、富を掲げてたんだが……流浪の旅人に藩主が討ち取られてな。
……その旅人とやらが藩主になったらしいんだが、ここ最近は、表立って動いてはいないようだ。情報がない分、一番不気味だな」
「勢力が多すぎて頭がパンクしそうだ」
その上に、皇帝と十騎士がいるんだろ。
ガスタージャって意外と偉かったんだな。
……それが、魔界で給仕としてバイトしてたってのは、ちょっと面白い。
「ぬし様はバカだから仕方がない。
しかし、よもや、おっさんが藩主だとはのう」
「人は見かけによらないものね……」
ミスティとスターナは相変わらず辛辣だ。
「それで、これからどうしましょう?」
ロザリアちゃんの言う通り、どこから手を付ければいいかさっぱりだ。
「現実問題、暗殺犯がわかったところで、証明して、僕たちの冤罪を免れるだろうか。真犯人を捕縛してアルスタイン王国まで連れて行くのかい?」
ライドウの言いたいことも分かるが、その点はあまり心配していない。
この世界がゲームの物語である以上、落とし所が必ず存在する。
……ただ、このゲームに限っては完全には信用できない部分もあるが。
「ま、小難しいことは犯人を見つけてから考えようぜ」
「俺もおっさんに賛成だ。今は打てる手が限られている。それでも、無理だったら俺が国を立ち上げて居場所のない奴らを受け入れてやるよ」
「ふふ、ダイチらしいわね」
スターナがふっと笑みをこぼす。
「まあな」
「ぬし様はバカってことだの」
「うるせぇ。ミスティもいい勝負だろうが」
「なぬ! 妾は天才魔術師だぞ!」
「ほら、じゃれ合いはそれくらいにしとけって。
ともかく、ナージャ王女の暗殺で一番得をするのは、カーリア組だ。今シノメに探らせている。彼女の報告を待とうや」
今夜はシュラ組の屋敷の客間を借りることになった。
❇
日光の届かない、一日中夜の街……ざこ寝で俺たちは青い天井を見上げていた。
「ママに会いたい……」
スターナがぼそっとつぶやく。
「この件が片付いたら会えるさ」
「僕は授業の遅れを取り戻さないとね」
「ふふっ、お兄様ったら……」
「皆はおっさんのことどう思う?」
ミスティの言いたいことは分かる。
「完全に信用するには怪しすぎるな」
「でも、牢屋で会ったのは偶然じゃない?」
「スターナの言う通り、そこまで仕組んでいたとは思いたくないけど……」
でも、あまりにも話が出来すぎている。
「オルヴィエートさんはそんな人じゃありません!」
ロザリアちゃんが声を荒げる。
「ぬしは、あやつの何を知っておるのだ。
人は上辺だけで語れるほど単純ではないぞ」
ミスティの言葉には重みがある。
かつて……勇者に想い描いていた幻想を打ち砕かれたからこその言葉かもしれない。
「裏切られたなら、その時に対応すればいいさ。
なんせ、俺には心強い仲間がいるからな」
今、俺――最高に主人公っぽいこと言ったな。
「ダイチ……似合わないわね」
スターナの言葉にミスティが同意する。
「うむ」
「ダイチさんだってたまにはカッコつけたい時もありますよ」
ロザリアちゃん……それ、全然フォローになってないよ。
「さあ、そろそろ寝ようか。明日も早い」
俺たちがふざける中、ライドウは何やら考え込んでいた。
疑問は尽きないが、今は考えすぎるのはよそう。
逆に前に進めなくなる。




