第54話 ファストトラベル
外壁に無数の傷跡を負ったレンガの家で俺たちは一夜を共にした。
いつもならハーレム状態なのに、男性陣と女性陣で部屋を分けられた。
たぶん、おっさんの加齢臭のせいだろう。
「いやー、久々の風呂は染みるねえ」
おっさんがタオルで体を拭きながら、パンツ一丁で出てきた。
「きゃあ!」
ロザリアちゃんが手で目元を隠す。
しかし、指の隙間からおっさんの肉体を凝視している。
意外と鍛え抜かれている。
俺みたいなヒョロガリとは大違いだ。
「ちょっと、おっさん!
その汚い体を隠しなさいよ!」
スターナが顔を背けながら容赦ない罵声を浴びせる。
「スターナは初心だのう」
ミスティがしたり顔でニヤつく。
「なによ! ミスティだって見たくないでしょ?」
「うむ。見たくはない」
「なんか、活躍したのに、おっさんの扱いが酷くない?
うっ……古傷が……」
おっさんが突然、しゃがみ込む。
「大丈夫ですか?」
ロザリアちゃんがおっさんに肩を貸す。
おっさんはロザリアちゃんの腰に手を回す。
「ロザリアちゃん、いい腰付きだねえ」
「もう、オルヴィエートさんったら……」
あれ……ロザリアちゃんも満更でもないみたいだ……。
❇
夕食を済ませ、皆、思い思いの時間を過ごす。
ミスティは部屋で就寝。
おっさんとロザリアちゃんが二人で談笑。
ライドウとスターナはクッキーを食べながら歓談していた。
……あれ、俺、主人公じゃなかったっけ?
なんだろう。便所飯をしていた高校時代を思い出す。
俺だけ誰も話し相手がいない……。
パーティー解散→ヨグ=ソトース→アルスタイン王国→梓の家。
俺は温もりを求めて梓の家に飛ぶ。
「ただいま……」
「ちょっと、大地! 大丈夫だったの?
ナージャ王女の暗殺で指名手配されているわよ」
案の定、アルスタイン王国では大ごとになっていた。
そんなことはどうでもいい俺は梓を抱きしめた。
「何があったの?
いいから、話してみなさい……」
梓は俺を拒絶しなかった。
彼女の小さな手が、俺の頭をそっと撫でる。
俺は、経緯をかいつまんで説明した。
「えーっと? ん? 王女暗殺の濡れ衣を着せられたとこまでは分かったんだけど……帰ってきたのは、誰も相手にしてくれなかったから?」
俺は泣きながら頷いた。
「はぁ……心配して損した」
「なんだよ! 俺にとっては大事なことなんだよ!」
「はいはい。分かったから。
でも、私だっていつも一人なんだからね……これが当たり前なのよ……」
「梓……寂しい思いをさせてごめん……」
俺は梓の肩に手を置き、唇を近づける。
「痺れろ! 妨害魔法:パライズ」
「ふぎゃゃゃゃ……あ、梓……なぜ……?」
「なぜじゃないわよ!
私がキスしたいのは流星くんだけなんだから!」
「そ、そんな……あぶれた者同士、慰め合おうぜ……」
「あんたが学校で孤立していた理由が何となく、わかったわ。まあ、情けで追い出さないであげるから、床で寝てなさい」
「梓……せめて、一緒にベッドで……何もしないからあ」
「いやよ!
……それよりも、打開策を考えるのが筋じゃない?」
「はぁ、仕方ない……」
❇
暗闇の中、梓はベッド……俺はベッド脇の床で、薄い布を掛け布団代わりに横になる。
「私も、そっちに一緒に行こうか?」
「いや、何が起こるか分からないし……危ない……」
「だからこそみんなで行くんじゃない?」
「ただ、ストーリーが終わるまではパーティー制限が掛かっている。メンバーの交代はありだが、指名手配ってのがパーティーメンバーにも影響があればまずいな」
ともかく、梓とリリム、レメリアにはアルスタイン王国の状況と皆の安否を伝える程度に留めておこう。
「辛くなったらすぐに帰ってきてね。
ここを拠り所にしていいから」
「ああ……梓はなんだかんだ言って優しいな」
「ま、アンタには少なからず恩があるから……」
「それなら、隣に寝ていい?」
「どんだけ、一緒に寝たいのよ……はぁ、仕方ないわね」
梓は俺の麻痺を解いてくれた。
俺は意気揚々と梓の隣に潜り込む。
「26のおっさんが寂しがり屋なんて、救えないわね」
梓がため息をつく。
「26はお兄さんだろうが……そうだ、おっさんで思い出した……」
俺は梓に、おっさんのことも伝えた。
おっさんは正式なパーティー加入ではなく、アザーメンバーのような扱いになっていた。
「ふーん。怪しいおっさんね……私、ゲームとか漫画見ないから、胡散臭いおっさんキャラってのがよくわかんないけど……」
「まあ、裏切りキャラっぽくはある」
「どっちみち、彼に従うしかストーリーは進まないんでしょ?」
「そうなんだよなあ、先手が打てないのがネックだよなあ」
「まあ、最悪ここに連れてきなさい。
私が拷問して吐かせるから」
梓の低い笑い声が暗闇に響く。
彼女のサデスティックな一面が見え隠れする。
「まあ、今のところ助けられているから、いよいよ胡散臭くなったら頼むよ………」
「任せてよ!」
梓が動くと掛け布団の中で手が触れ合う。
俺はそっと梓の手を握った。
「もう……」
梓はそれだけ言って特には嫌がらなかった。
「いや、やっぱり握らないで!」
梓は突然俺の手を振りほどいた。
「よくよく考えたら、スターナちゃんとロザリアちゃんに相手にされなくて、仕方なくキープ役の私のところに来ているってことじゃない」
「あーあ、確かに……」
状況だけ見るとそうとも取れる。
「せめて否定しろよ!」
梓が俺の足を蹴る。
「おい、狭いんだから暴れるなって!
てか、梓だって俺が二番目だからいいんじゃないか?」
「なんか、添い寝フレンドみたいで嫌よ。
それに、あんたは4番目ぐらいよ?
ライドウくんとカーリンさんの方がタイプだもん」
「ううっ……そんな、ひどい……数少ない男性キャラなのに……俺は誰にも勝てないのか?」
「まあ、仕方ないわよね。イケメンは強いわ。
あんたって性格も終わっているし」
「うぐぅ……梓なんて嫌いだ!」
俺は背を向けて、涙で枕を濡らす。
「そう言って、ベッドからは出ないのね……」
梓はかすかに笑っている気がした。
❇
気づけば微睡みの中に溶けていた。
夢か願望かは分からない。
「そういうところは、少し可愛いんだけどね……」
梓がそう言って、俺の頬に柔らかく湿った何かが触れた……気がした。
たぶん、都合のいい夢だ。




