第53話 おっさん
牢屋を出てからは早かった。
魔法が使えるようになったため、
魔剣ヨグ=ソトースの力で空間を裂き、
ゴンドラ要塞の外へ逃げ出した。
❇
「おっさんはこれからどうすんだ?」
「どうするって、君たちと一緒に逃げるでしょ」
「アルスタイン王国に来るのか?」
おっさんは俺の言葉にしかめっ面で返す。
「ダイチくん……その方の話が本当なら、僕らは王女暗殺の重罪犯だ。そのまま国に帰っても極刑は免れないだろう」
「確かに……」
ライドウの言う通りだ。よくあるゲームのストーリーなら、直接弁明したところで通用しないことが多い。
ならば、どうする。真犯人を捕まえる?
ともかく、このおっさん。ここで出会うには偶然過ぎる。
たぶん、こいつについていけばストーリーは進行するだろう。
「おっさんは何か案がないのか?」
「ちょっと、おっさんおっさんって、君たちはいつまでこの歩く史書と呼ばれた俺っちを雑に呼ぶのさ。俺っちはオルヴィエート・ゼンブルングス・マルコローズ・アヴェンハルト……」
「長げえよ! 面倒だからおっさんでいい」
「そんな、ご無体なあ」
おっさんは仰々しく肩を落としてみせる。
「ねえ、こんなところで雑談している場合じゃないんじゃない?」
スターナの言う通りだ。本来なら。
まあ、追っ手もストーリーが進まないと来ないだろう。
「そうですね。ともかく、アルスタイン王国から離れるべきかと思います」
「ロザリアの言いたいことも分かるが、ならばどこへ行く?」
ミスティが腰に手を当て、ため息をつく。
「こっから逃げるにしても、一番近い街はガルデルド帝国の領土だがどうするよ?」
「仕方ない。ひとまずおっさんの案に乗るか」
最悪、遠くに行っても、ヨグ=ソトースで瞬時にファストトラベルできる。
「うむ。冒険の始まりだな!」
ミスティは何故か楽しそうだ。
国に残したリリムとレメリア……そして、梓とアーシャさんが心配だけど……今はほとぼりが冷めるまで身を隠そう。
「ならば、国境であるカナリア鉱山を抜けるベし!」
このおっさん……正直胡散臭い。
率先して前を行くおっさんに、警戒しつつも後をついていく。
❇
ひんやりと冷たい岩肌に、暗闇に潜む影……不穏な気配を孕んだ洞窟を進む。
そらかしこにピッケルや剣、砕けた鎧が散らばっていた。
「生々しい戦場のあとだね」
ライドウの言葉をロザリアちゃんが継ぐ。
「カナリア鉱山はガルデルド帝国とアルスタイン王国が戦争をするきっかけとなった鉱山ですからね」
「懐かしいのう。あの頃は活気で満ちておったわ」
「ミスティちゃん。まるで見てきたようじゃない?」
おっさんが茶化したように、ミスティに絡むが、実際見てきたのだろう。
「おっさん、臭いから話しかけんでくれ」
「ちょっと、俺たち仲間じゃない。
心の対話をもっとしようよう」
おっさんはクネクネしながらミスティに擦り寄る。
「ちょっと、おっさん動かないでってば。加齢臭を撒き散らさないでよ」
スターナも辛辣だ。
「お前ら、もう少し手心を加えてやってもいいんじゃないか? おっさんだって人間だぜ?」
自分の行く末を見ているようでいたたまれない。
「おっ、少年。中年の気持ちが分かるとはなかなか、将来有望じゃない。おっさんが管理職だったら即、昇進を推すねえ」
「ったく食えないおっさんだ」
「オルヴィエートさんは、かっこいいと思いますけど……」
ロザリアちゃんが奇特なことを言う。
「おっ、ロザリアちゃんってば、俺っちの溢れ出る魅力に気づいたか。俺っちも罪な男だぜ……」
おっさんは無精髭を掻きながら、モデルのような立ち姿で壁に寄りかかる。
「ロザリア! お兄ちゃんはこんな男認めません!」
ライドウのお兄ちゃんスイッチが入り、食い下がる。
「ぬしら、騒ぎすぎだ……来るぞ……」
ミスティが暗闇に声を向ける。
開けた広いスペース。明らかにボス戦用の地形だ。
ズンっ!
土煙とともに何かが降ってきた。
赤い甲殻、無数の足……百足か!?
黄色い眼光が闇を照らす。
ステータスを確認。
武者百足――
レベル782か……正直、そこまでの強敵って感じはしないな。
ムシャムカデの甲殻から多種多様な武器が飛び出す。
武器が赤い軌跡を描きながら宙を舞う。
「これは厄介だな……」
おっさんが腰から小太刀を抜く。
“影縫い”
おっさんが闇に溶け、舞い飛ぶ武器を描きくぐるようにムシャムカデに詰め寄る。
「一点突破……星魔法:アクセラブースト!」
スターナの魔法でおっさんが加速する。
ザンッ!
歪な金属音が走り、おっさんがムシャムカデの脳天に一閃!
ムシャムカデが体をうねり仰け反る。
ライドウがすかさず詠唱を始める。
「闇夜を照らせ――炎魔法:ブレイズトーチ」
暗闇を人魂のような炎が無数に浮かび照らす。
無数の武器が四方八方に舞い、全方位から俺たち目がけて飛んでくる。
クラフト:三男の家
とっさに赤レンガの家を周囲にクラフトする。
外壁に無数の武器が突き刺さる。
「無数に連なる雷光よ――無限の矛を持ち、神を討て!」
“雷魔法:サンダーランス・エクサ”
ミスティの魔法で無数の球体が発光し、数多の雷の矛が放たれる。
「グギャァァァァ」
矛は武器を撃ち落とし、ムシャムカデに直撃する。
「とどめ!」
家を飛び出したロザリアちゃんが一気に詰め寄る――しかし、突如ムシャムカデが立ち上がった。
無数の武器が吸い寄せられるように集まり、一振りの巨大な野太刀へと姿を変えた。
次の瞬間、宙に浮く野太刀が振り上げられ、ロザリアちゃんの頭上に振り下ろされる。
「きゃあ!」
「ロザリアちゃん!」
刹那――おっさんがロザリアちゃんの前に立った。
“空蝉”
何が起きたかは分からない……おっさんが小太刀を構えるとこまでは見えた……結果、野太刀は二人の真横を空しく薙ぎ払っていた。
「さあ、行ってきなさい」
おっさんがロザリアちゃんの背中を軽く叩いた。
「はい!」
ロザリアちゃんがムシャムカデの頭上に飛び上がる。
「星よ、縛れ! 星魔法:グラビティ」
スターナの魔法でムシャムカデの上から、
見えない力が降り注ぐ。
ロザリアちゃんの一撃がムシャムカデの脳天に振り下ろされた。
「グギャァァァァ」
断末魔とともに頭部は凹み、赤い巨体が崩れ落ちる。
「ふぅ……なんとか、片付いたな」
レンガの家から外に出ると、おっさんが床に座り込んでいた。
「いやー、老体には堪えるねえ」
「オルヴィエートさん、ありがとうございます」
ロザリアちゃんがおっさんに手を差し出す。
なんか、おっさんが格好良く見える。
ずるいな。俺なんて家を建てただけだぞ。
「いやー、それにしても少年!
君は錬金術師だったのか! 錬成速度もさることながら、このレンガの家のディテール!
やるじゃないか」
おっさんがばしばしと俺の背中を叩く。
人間的にも負けている気がした。
「にしても、オルヴィエートさんはすごいですね。あれがガルデルド帝国に伝わる武術ですか……」
ライドウの言う通りだ。アルスタイン王国には存在しない武術――今思うと、マナが少ない土地だからこそ、魔術ではなく剣術が発達したのだろう。
「てか、おっさんガルデルド帝国の人間だったのか」
「あれ、言ってなかったけ?」
ったく……相変わらず適当だな。
「おい、ぬしら!
妾は疲れたぞ! お家で休むからな!」
ミスティが地団駄を踏み、レンガの家に入っていった。
「休むためにクラフトしたんじゃないんだけど……」
「まあ、いいじゃない。休みましょうよ!」
スターナに手を引っ張られる。
これから先、どうなる?
ゲーム展開に期待しつつも、スターナを喪う恐怖が拭えなかった。




