第51話 護衛任務
【チャプター6c-3 要人護衛】
クエスト名:要人護衛
パーティー制限:5名
クエスト内容:ゴンドラ要塞まで要人の警護をせよ。ただし、決して荷馬車の中を覗いてはいけない。
クエストを受注していたある日、メインストーリーが進行した。
俺は、スターナ、ミスティ、ライドウ、ロザリアの4名を同行させ、さっそく任務に臨んだ。
王都西門からゴンドラ要塞を目指す。
俺たち5人は、ゲームによくある演出で、突然現れた貴賓馬車の周囲を固め、ゆっくりと歩き出す。
「王都からの初遠征、いやっほー!」
新ロケーションってのはワクワクする。
これは、ゲームでもリアルでも変わらない。
「何言ってんのよ、ガルデルド帝国にナージャ王女を助けに行ったじゃない」
スターナは呆れたようにため息をつく。
スターナの言うことは半分正しい。
ただ、ストーリーがバグで飛んだせいで、
物語のダイチはガルデルド帝国に行ったが、
俺自身はこの体験をしていない。
この時、スターナとリリムが物語によって殺された。その瞬間は見なくても済んだのは不幸中の幸いだったのかもしれない。
「ダイチさん、あんまりはしゃぐと転びますよ」
ロザリアちゃんが俺の腕を支える。
「ふん! ダイチったら鼻の下伸ばしちゃって……きゃっ!」
背後でスターナの悲鳴が聞こえる。
「大丈夫かい? スターナさん」
振り向くと、ライドウが躓きかけたスターナの手を引き、支えていた。
「ライドウくん……ありがと……」
「足元、ぬかるんでいるから気をつけてね」
「うん……」
なんだ?
この二人からラブコメの波動を感じる。
「おい、ライドウ……スターナに手を出したら、お前の親友やめるから」
「だ、ダイチくん心配には及ばないよ。
スターナさんだってそんな気はないと思うよ。ね?」
「う、うん……」
ものすごくそんな気がありそうなんだが?
「まったく、ぬし様はアホ勇者と同じだのう。
気が多いというか、なんというか……」
ミスティが呆れたように、ため息をこぼす。
俺たちがこれだけ騒いでいるというのに、
客室からは、何の反応もない。
馬を引く御者は、
こちらには見向きもせずに無言を貫く。
ストーリー進行とは関係のないことは話さないのか?
なんだか……言いようのない気味の悪さを感じる。
❇
西に進むにつれて、草木は枯れ、空から雪が舞う。
数日――道中にモンスターとの遭遇や盗賊の襲撃もなく、あっさりとゴンドラ要塞へ到着した。
堅牢な双門を構えた、雪を被った白き要塞。
「ううっ……寒いわね……」
スターナの口から白い吐息が漏れる。
「ゴンドラ要塞はガルデルド帝国の国境付近だからね」
ライドウが解説を入れる。
「それが、雪と何か関係があるのか?」
「ガルデルド帝国はマナが少ない土地のため、気温も低いんです」
ロザリアちゃんが補足を入れる。
なるほどそういう世界観ね。
「ぬし様……門が開いたぞ」
ミスティが俺のローブに潜り込む。
「妾は寒いのが……苦手なんだ」
「まったく、仕方ない」
「ううっ……ダイチも痩せてるから、温かくない。
……妾の魔法で、一帯を業火で包もうか」
ミスティが唇を震わせ不穏な発言を漏らす。
「ちょっと、ミスティちゃん、本気じゃないよね?」
スターナがミスティから距離を取る。
「ミスティ、そんなことしたら、お前だけ夜ご飯抜きだからな」
「ぬし様、そんな殺生な……」
「殺生なのはどっちだよ」
「皆様、コルドー大魔導師が来ましたよ」
ロザリアちゃんが俺たちを律する。
彼女の視線の先には禿げ頭に白いローブ――象る縁は蛍光赤。
「軍神コルドー……Aランクの魔術師ね」
「魔術師って割にガタイがいいな」
スターナの言葉で、そんな設定があったことを思い出す。
「いでっ!」
コルドーは、道を譲った俺をわざとらしく、ぶつかってきた。
踏ん張れず、思わず尻もちをつく。
「小僧、邪魔だ……」
冷たい目が俺を見下ろす。
コルドーは、貴賓馬車の客室に向き直る。
こいつ……。
喉元まで出かかった文句を飲み込む。
「ナージャ王女……失礼します」
コルドーは客室の扉に手をかけた。
ナージャ王女!?
まさか、乗っていたのか?
それなら、声を掛けてくれてもよかったのに。
要人護衛ってクエストだし、何か事情があったのだろう。
扉が開く瞬間――空気を裂くような甲高い音が響いた。
次の瞬間、世界が暗転した。
❇
「ううう……」
自分でも驚くほどに、かすれたうめき声が漏れる。
何が起きた?
思考が定まらない。
気づけば、地面に這いつくばっていた。
動かない首を上げ、眼球を必死に周囲に目を向ける。
立ちのぼる黒煙――悲鳴と怒号が交じり人々が駆け回る。
鼻をつく嫌な焦げ臭さが、肉の焼けた臭いだと知ったのは後になってからだった。




