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開始5分でサービス終了した伝説のバグゲーに転生したんだが攻略できない!  作者: 那須 儒一
第三章 陰謀と選択

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第50話 遠い日

最近、レメリアの姿を見ない。

もともと、家にいない日も多かったが………

彼女に聞かなければいけないことがある。


「リリム、レメリアはどこにいるか知らない?」


「むー……ママなら、家にいると思う」


「家って、リリムの家だよな?」


「うん!」


「サンキュー!」



王都郊外のリリムの家に向かう。


ここに来るのも久しぶりだ。


墓前に彼女はいた……確か、リリムのお父さんの墓だ。


解いた赤毛が、風に揺れている。

彼女は目を閉じ、届かない祈りを捧げているようだった。


「おい、ジロジロ見られるのは好きじゃないんだ」

彼女は目を開かずに低い声を飛ばす。


「なんだ、気づいてたのか」


「なにか用か?」


「少し、聞きたいことがあって……立ち話もなんだから家に入らないか?」


「お前なあ……ここは、《《私たち》》の家だぞ」

レメリアはため息交じりに部屋へ通してくれた。


椅子に腰掛けると、香り立つ紅茶が前に差し出された。


「最近、屋敷にあんまりいないみたいじゃん。

リリムが寂しがってたぜ」


「ああ……どう接していいのか分からなくてな」


「俺で良ければ、話聞くけど?」


「せめて、そのセリフが似合う男ならよかったのだが……」


「悪かったな、イケメンじゃなくて」


「いや……顔もそうだが、中身もなあ……」


「うぐっ……」

ダブルパンチで傷つけられた気がする。


そうは言いつつも、レメリアは遠い目をしながら語り始めた。


「あの人と幼かったリリムを抱えて、王都郊外の森を歩いててな……その時、地面が……その、すり抜けて……。

すまない、自分でも変なことを言っているのは分かっている。だが、気づいたら魔界にいたのだ」


「ああ、信じるよ」

俺も同じ床抜けバグで魔界まで落とされたからな。


「落下する瞬間、私は手を伸ばすリリムを突き飛ばした」

彼女は自分の手をさすりながら、話を続けた。


「魔界は地獄だった。高レベルのモンスターに魔王の幹部たち……それでも、夫と娘に会うために死に物狂いで生き抜いた」


「それで、気づけば幹部まで上り詰めていたと……」


「ああ、だが……それでも……地上に帰ることは叶わなかった。魔王が封印されている今、誰も地上に出る方法はわからない」


「魔王か……その件でファフニールと対峙した時、かすかに魔界特有の不穏なマナを感じた」


「ほう、鋭いな。

ファフニールは魔王の体の一部だ」


「体の一部?」


「……魔王は勇者との戦いに敗れ、体を七つに裂かれた。そして、その内の一つがファフニールだ」


「あれ、倒して良かったんだよな?」


「……七つ全ての魔王の欠片を倒した時、魔王の封印は解き放たれ、完全復活する」


他に倒されてなければ、残りの封印は六つ。

なら、復活する恐れは低いか。

それに、ファフニールレベルのモンスターを倒せる奴なんてそうそういないだろう。


「ファフニールを王都に送ってきた何者かがいそうだな」


「魔王復活を目論んでいる者がいる……か」


この世界が少しずつ紐解かれてきた。

今までの、歴史や背景、世界情勢なんて全くわからない。


でも、ストーリークリアを目指すなら……知っておく必要がある。


「レメリア、ありがとう」


「なんだ、聞きたいことってそれだったのか?」


「そうだな。今後のストーリー展開をある程度予想しておきたかったから」


この世界ほど、予想が無意味なものはないが……行き当たりばったりで挑むよりはマシだ。



「ただいまー!」


話し込んでいるとリリムが玄関の扉を開け放つ。


「おっ、リリムじゃん!」


「ダイチー!」

リリムが俺に飛び込んでくる。


「レメリアの方には行かないのか?」


「うっ……ママ、ただいま……」


「ああ……おかえり……」


なんだか、ぎくしゃくしているな。

仕方ない、ここは一肌脱ぐか。



「あー、俺ってばお腹空いたなあ。

誰かの手料理がたべたいなー」


レメリアとリリムを交互に見る。


「はぁ、わかったよ。作ってやるよ」

レメリアが俺のわざとらしい棒読みにのってくれた。


「リリム、ママを手伝ってやりな」

俺はリリムにそっと耳打ちする。


リリムはレメリアの元へいそいそと歩いていく。

レメリアのラバー素材のショートパンツの裾を引っ張る。


「ママ……リリムも手伝う……」


「ああ、頼むよ」


初めは会話のなかった二人だったが、少しずつ、言葉を交わし始めた。



「お待たせ!」

レメリアがドンッと鍋を置く。


鍋の中身は……真っ赤だ……グツグツと煮えたぎる液体は溶岩のようだった。


「これ……食べれるの?」


「なんだ、ダイチ! 好き嫌いはよくない!」

リリムがバンバン机を叩く。


「好き嫌いってか、そういう次元を超えている気がする」


漂う湯気が俺の鼻腔を灼き尽くす。


これは、食べてはマズイやつだ。


リリムとレメリアは器によそって、美味しそうに頬張っている。


この親子は……。


「おい、貴様が食べたいって言ったんだぞ!

箸をつけないとはどういう了見だ?」


レメリアの鋭い眼光がこちらを睨みつける。


「いただきます……」

俺は意を決して赤い何かを一口……あれ?


「うまい!」


甘辛い口触りに……って辛っ!


「うごぁぁぁぁぁ! リリム、水、水!」

遅れて辛さが襲ってきた。


「はい!」

リリムから木のコップに入った水を手渡される。


ごくっ、ごくっ、ごくっ。


喉を鳴らし勢いよく水を飲み……

「ぎゃぁぁぁぁぁあ」


思わず水を吐き出した。

「なんだこれ、辛い……ってか、痛い!」


「ああ、これは私が作った唐辛子水だ」


「なんだその危険な飲み物は……」


「これ、うまうま!」

リリムは勢いよくコップの中の唐辛子水を飲み干す。


この親子……イカれてやがる。


「カタール家ではお残しは許されない……」


レメリアが唐突に俺を羽交い締めにする。


「ダイチお兄ちゃん! あーん!」

レメリアが甘い声で囁きながら、激辛鍋を俺の口に運ぶ。


「や、やめてくれ……た、頼む……」

赤い悪魔に挟まれ、俺の意識は限界を迎えた。



目覚めると俺はベッドの上に寝かされていた。


周囲を見渡すと、リリムはレメリアの膝を枕にしてソファで眠っていた。


レメリアはリリムの頭をそっと撫でていた。


「ようやく、親子らしくなったな……」


「ああ……」


リリムが少しだけ羨ましい。


俺は親との記憶は、怒鳴られた記憶しかないからな。

いや、それしか思い出せないってのが正しいか。


引きこもる前は、普通の親子だったのにな。


「ダイチ、今日はありがとう」

レメリアが柄にもなくお礼を言う。


「えっ?」


「な、なんだその顔は!

私だってお礼の一つぐらい言うさ」


「うーん……パパ……」

リリムが寝顔を漏らす。


「この子にとっては、パパとの記憶の方が強いのだろうな」


「なに、これからママとしての思い出を作っていけばいいさ」


「……」

レメリアが突然下を向いて、えづき出した。


「ごめん、俺、何かまずいこと言った?」


「いや、ダイチは悪くない……」


「なら、どうして?」


レメリアは呼吸を整え、ゆっくりと話し出した。


「ダイチが、あの人の代わりになるのが嫌なんだ……」


「あの人って……亡くなったご主人か……」


「ああ……あの人も辛い食べ物が苦手だった。それにスケベでデリカシーの欠片もない……」


「それを聞いて、俺を重ねるのはなんか心外だな」


「ふっ、お前も大差ないではないか……ただ、あの人はここぞってとこはキメるから、かっこよかった」


「ますます、俺だな」


「……」


「おい、ツッコんでくれないと、なんか本気でイタいヤツみたいじゃん」


「違うのか?」


「うっ……」


「ふふっ」

レメリアが軽く笑みをこぼす。


「しばらく、リリムと一緒に二人で暮らしなよ。

気が向いたら、いつでも屋敷で生活していいからさ」


「そうだな……親子の時間を作るとするよ」


「それじゃあ、レメリアの心を奪う前に俺は退散するよ」


「そんなこと……」


彼女はそこで言葉を止めた。


俺は後ろ手に手を振り二人の家を……いや、三人の家をあとにした。


「ありがとう……」


レメリアのかすかなお礼の言葉を背に受けて。

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