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開始5分でサービス終了した伝説のバグゲーに転生したんだが攻略できない!  作者: 那須 儒一
第三章 陰謀と選択

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第49話 寄す処

寝ぼけ眼で一階に降りると、いい匂いが漂ってくる。


「アーシャさん、何作って……」


台所には、エプロン姿のスターナが立っていた。

そうだ……アーシャさんはもうこの家にはいないんだった。


「悪かったわね。ママじゃなくて……」


「……ごめん。寝ぼけてた。

ところで何を作っているんだ?」


「プロシェットよ」


「プロ……なんだだって?」


「もう、集中してんだから、邪魔しないでよ」


スターナは鉄串に肉やら魚、野菜を通していた。

彼女の手は絆創膏だらけだった。


スターナは回復魔法は覚えていないんだったな。


スターナはアーシャさんがいなくなった穴を必死に埋めようとしてくれている。



朝食を4人で囲む。


机の上には、真っ黒に煤けた鉄串と食材たち。


「妾、ダイエット中だから今日はいらないかな……」

ミスティは席を立ち部屋に戻っていった。


「いっただっきまーす!」

怖いもの知らずのリリムは一口……。


「にっがーい! こんなの、食えなーい!」


リリムが怒り出す。


「ごめんねリリムちゃん……ごめん……」

スターナが顔を伏せる。


「リリム、外で食べてくる……」

リリムは外へ出ていってしまった。


せっかくスターナが作ってくれたんだ。

俺はプロシェットとやらに手を伸ばそうとするが……彼女は大皿を持った。


「ダイチ、食べなくていいよ……ごめんね」


俺は伸ばしかけた手を引っ込め、代わりにスターナの腕を掴んだ。


「えっ……」


「スターナが頑張っているのに作ってくれたんだ。食べさせてくれ」


「でも……」


俺は鉄串に刺さった何かを頬張る。


「炭火焼きと思えば、ギリ食べられるな」


「……」

スターナは何も言わなかった。


席に座り直し、同じ物を食べる。


「ダイチ、こんなの食べたら体に悪いよ」


「いやだ、食べる! その代わり、体を壊したらスターナが面倒をみてくれよな」


「うん。その時は面倒見てあげる」


食事を済ませ、二階に上がろうと階段に足をかける。


……キッチンからスターナのすすり泣く声が響いていた。


聞かなかったことにして、そのまま自室に戻った。



夜に一階に降りてみると、スターナがテーブルの上に鍋を置いていた。


中には煮込まれた食材が山盛りで残っていた。


「おっ、ご飯できてんじゃん。

呼んでくれよ……」


「リリムちゃんと、ミスティちゃん……外でご飯食べてくるって……」


スターナの声は震えていた。

顔を上げることなく、涙がこぼれ落ちる。


「ふーん。なら、俺が一人占めできるな」


俺は食材をよそって、一人で食べ始める。


うーん。

まずくはないが……味が薄い……なにより旨味が足りない。


「ダイチ……美味しくないよね?」


スターナはこっちを見ない。


「うん。まずいよ」


「なら……無理に食べなくてもいいよ……」


「スターナが作ったやつだから食べているんだよ。俺はスターナの手料理がたべたいんだから」


「……」

スターナは何も言わない。


俺なりに元気づけようとしているが、言葉選びが難しい。


沈黙が気まずい……。


「なんか、新婚みたいだね?」


俺の軽口をかき消すように、スターナが机を叩いた。


「ダイチの冗談、聞きたくないから止めてよ!」


スターナがこんなに声を荒げたのは初めてだ。


「ごめん……」


彼女は部屋に戻ってしまった。


「はぁ……やっちまった」


すると、リリムとミスティが気まずそうに玄関から入ってきた。


「スターナお姉ちゃん。怒っているね……」


リリムが食卓の椅子に座る。


「たぶん自分に怒っているんだと思う。

アーシャさんの代わりになれない自分に……」


「そうなのか……ともかく、食べよう!」


ミスティが鍋を器によそおい、食べ始めた。


「お前ら、ご飯を食べてきたんじゃないのか?」


「ちょっと食べたけど……途中で美味しくなくなった」

リリムがよくわからないことを言い出す。


「スターナのことが気になっての……二人で食べていても楽しくなかったから……帰ってきた」


ミスティの言葉を聞いて、少し笑ってしまった。


「なんだ、ぬし様!

なにか言いたいことでもあるのか!」


「まあ、食事は味と香りだけじゃないってことさ」


どこで、誰と食べるか……それも味付けの一つなんだろう。



食事を終え、皆、部屋に戻った。


スターナの部屋をノックする。


「スターナ……入っていい?」


「だめ……」

短く、かすかな返答。


俺は扉を開け、スターナの部屋に入った。


スターナはベッドの上で布団に包まっていた。


「スターナ、隣に寝ていい?」


「だめ……」


俺はスターナの隣に潜り込んだ。


「スターナ、抱きしめるよ?」


「だめ……」


彼女の言葉を流して、俺はスターナを後ろから抱きしめた。


彼女は回した俺の腕を握った。


「ダイチ……私じゃママの代わりになれないよ……」


回した手にスターナの涙が伝う。


「スターナがアーシャさんになったら、

誰がスターナの代わりをしてくれるんだ?

俺の好きなスターナは、他の人には務まらないよ」


彼女の体が震えているのがわかる。


「ダイチ……ダイチ……」

スターナは俺の名前を繰り返し呼び続ける。


「それに、アーシャさんの代わりは誰にも務まらない」


あれ……。

視界が歪む。


頬を触れると、濡れていた。


……俺も寂しかったのか。

アーシャさんがいないことを、俺も受け止められていなかった。


スターナが寝返り打つ。


真っ暗な部屋の中……彼女の表情までは見えなかった。


俺たちは互いに慰め合うように、互いの涙を拭った。


スターナの手が、俺の頬に触れ、互いに顔の輪郭を確かめる。


手のひらから伝わる彼女の体温を受け入れる。


俺にも、スターナにも代わりはいない。


言葉は交わさなかった。


それが、分かっただけで充分だったから。

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