第48話 学園ライフ
「ロザリアちゃーん! 遊びましょー!」
早朝にライドウの家を尋ねる。
「ダイチさん!」
玄関が開くやいなやロザリアちゃんが抱きついてくる。
「おい、往来では止めろって言っているじゃないか」
「ごめんなさい。ダイチさん……」
最近、ロザリアちゃんの俺への好感度がMAXに近い気がする。
「あれ? ライドウは?」
「兄様は学園に行きましたよ」
「さすが、優等生だな。俺なんて授業をほぼほぼ受けてないぞ」
ま、授業があるかすら怪しいが。
「ダイチさんは、枠に縛られない自由な方ですからね。それより、今日は何かご用ですか?」
「一緒に素材集めしようぜ!」
最近、クラフトの使いすぎで素材が不足してきたからな。
「は、はい!
私も木こりの仕事があるので、ご一緒させてください」
彼女を誘ったのには訳がある。
パーティーで素材集めをした場合、材料が均等に振り分けられる。ロザリアちゃんを使った方が効率よく材料を集められそうだからな。
森に着くと、さっそくロザリアちゃんが木の前で構える。
「あれ……斧は?」
「斧ですか? 壊れるし、あんまり切れ味が良くないんです」
「それなら、どうするんだ?」
ロザリアちゃんは俺の疑問にあっさりと行動で示した。
「せいっ!」
彼女は木の幹に手刀を見舞う。
滑らかな断面を見せながら、木が切り落とされる。
凄い……これなら、確かに斧は不要だ。
俺の腕力じゃ、斧を使っても20回は攻撃しないといけない。やっぱりロザリアちゃんを誘って正解だった。
岩を正拳突きで砕き、地面を足踏み一つで掘り起こす。もはや、ロザリアちゃんは王都の最終兵器に近い。
❇
昼前に一通り、素材を集め終わり、二人で露天風呂に浸かる。
もちろん、ロザリアちゃんはスク水衣装だ。
「ダイチさん……学園ってどんなところなんでしょう?」
「なんだ、興味あるのか?」
「はい……私、魔力の数値が足りなくて……入学できませんでしたから。同年代の子を見て少し羨ましいなって」
この国では、15歳から魔法学園に入学するのが一般的だ。確かに同年代で木こりなんてしているのは、ロザリアちゃんぐらいだ。
「私、落ちこぼれですから……」
「ロザリアちゃんには他の人にない魅力があるだろ?」
「……怪力とか言わないでくださいね」
そうだった、ロザリアちゃんは力が強いことを気にしていたんだ。
そして、俺の言葉を期待するような目で待っている。
「ええっと……巨乳?」
「ふふ、ダイチさんは、やっぱり最低ですね」
何故かロザリアちゃんは笑っていた。
「ロザリアちゃん、せっかくだから、お昼から学園に行って、ライドウを驚かせてやろうぜ」
「えっ! いいんですか!」
「ああ、幸いにも学園の制服もクラフトできるから、ロザリアちゃんも、制服を着られるよ」
「やったー! 嬉しいです!」
転生前の俺は、選択肢があったのに学校には自分で行かなかった。
ロザリアちゃんは、その選択肢すら奪われている。
自分がどれだけ贅沢な立場だったのか、
今になってわかるとはな。
さっそく、彼女を連れてメノウ魔法学園を訪れた。
「私、授業、受けてもいいですか?」
「ああ、行ってこいよ!」
メノウ魔法学園の授業は、クラス分けはされているものの、授業の形式は大学の講義に近い。
正直、自由参加のため、潜り込んでもバレない。
……恋愛ゲーム『どきどきキャンパス』でそんなことを言ってた気がする。
かくいう俺は、当然大学なんて行ったことはない。
「ダイチさんは行かないんですか?」
「ああ、俺は授業嫌いだからさ」
「二人で受けたら楽しいですよ!」
ロザリアちゃんが手を伸ばす。
確かにロザリアちゃんみたいな、可愛い幼馴染がいたら俺も、高校は皆勤賞だったかもな。
「俺はいいって……」
ロザリアちゃんは、少しだけ頬を膨らませてむっとする。
「一緒に来てください!」
彼女は強引に俺の手を引っ張り教室に引き込んだ。
はぁ、仕方ない。
❇
やむなく、講義を受ける。
はぁ……ため息をこぼす俺の隣で、ロザリアちゃんはピンっと背筋を伸ばして、授業を聞き入っていた。
……まあ、そんな彼女を見る分には、
たまの授業も悪くはないかな。
「それでは皆さん、今日の授業は“魔種”を利用して自身の魔力を測りましょう。魔力に応じて魔種は発芽し大きくなります。己が力を知ることが優秀な魔術師になるための第一歩となります」
そうか、俺以外はステータスなんて見れないもんな。みんな、自身の魔力なんて知らないんだ。
先生が手をかざすと、一瞬で目の前に銀杏のような種子が配られる。
「さあ、魔力を込めてみて!」
先生の合図で、生徒たちの種子が一斉に芽吹く。
「わぁ!」
隣でロザリアちゃんの声が跳ねる。
彼女の手のひらには種子から小さな芽がちょこんと生えていた。
「ふふっ、ダイチさんもあんまり変わりませんね」
「俺はレベル1だからな」
他の生徒たちは苗木ぐらいには成長していた。
「一流の魔法使いになると、大樹にまで成長させる者もいます」
教師の説明に皆、感嘆の声を上げる。
既に成長要素が断たれた俺には無縁の話だな。
「凄いです!
それなら、木が生えるまで待つ必要がないですね」
ロザリアちゃん。発想が木こりなんだよな。
授業を終え、ロザリアちゃんは大満足のようだ。
白いローブのままくるりと回ってみせる。
「ダイチさん! 似合ってますか?」
「うん。可愛いよ!」
「えへへ……そうですか」
ロザリアちゃん。本当に学園に行きたかったんだな。普段より明らかにテンションが高い。
「おい、そこの陰キャ二人!
ここは、お前らみたいな才能のない奴が来るところじゃないんだよ!」
NPCの女子生徒三人組が突然絡んでくる。
「ダイチさん、お友達ですか?」
「知らん。モブの顔なんて覚えてられるか」
名前を確認すると、A子、B子、C子と雑な名前がつけられていた。
「なっ、陰キャのくせに!」
三人組のうち、取り巻きのB子が、俺のローブの襟首を掴む。
「やめてください!」
ロザリアちゃんがB子の手を払い除けた。
「きゃー!」
B子はギャグ漫画のように大回転を披露しつつ、吹き飛ばされる。
そのまま、廊下の壁に激突して、泡を吹いて気絶した。
「なっ! 貴様よくも!」
取り巻きのC子が魔法の詠唱を始める。
クラフト:和式便所×2
C子の両足に和式便所をクラフトして、彼女の両足が便所の穴に突っ込まれる。
「きゃっ! なにこれ、汚い!」
俺がトイレを普及させてから、何故かNPCもトイレに行くようになった。
お陰でトイレ=汚いという認知が広まったみたいだ。いつの世も変わらぬか。
C子は両足が引っ掛かったことにより、前に倒れ込む。
クラフト:和式便所×3
俺はC子の両手が付く位置と顔面の位置に、和式便所を華麗にクラフトする。
C子は両手も和式便所に突っ込み、顔面にも便所の水が迫る。
「ひっ……き、汚い」
新品だから綺麗なんだけどな。
認知とは不思議なものだ。
俺はC子に歩み寄り、頭を便座の中に押さえつける。
「ご、ごめんなさい。た、助けて……ガボボボボ」
C子の頭を便所の穴に突っ込む。
「ちょっと、やめなさいよ……」
リーダー格のA子の声が震えていた。
腰が抜けたのか、地面にへたり込む。
「おい、あのA子に言われてやったんだよな?」
俺は取り巻きのA子を指差す。
「は、はい。全てはアイツの指示なんです」
「なら、俺の側につけ。C子、A子を拘束して、連れてこい」
C子はあっさりとA子を裏切った。
「お、おい! C子……ウチら友達だよな?
や、やめてくれ……」
「A子……ごめん」
C子は、A子の腕を掴み、俺の元へ無理矢理引っ張って連れて来る。
「ひっ……お、お願いです……アタシらが悪かったから許してください!」
「誠意が足りんなあ。おい、C子、やれ!」
「ごめん……A子……」
「や、やめ……ガボボボボッ」
C子は泣きながら、A子の頭を和式便所の穴に突っ込ませる。
「あれ……ダイチくんに、ロザリア?」
振り返るとライドウがいた。
「兄様! 虐められているんです!」
ロザリアちゃんがライドウの胸に飛び込む。
「ええと……誰が?」
確かにこの絵面をみたら、俺とロザリアちゃんがA子、B子、C子を虐めているようにしか見えない。
「ら、ライドウ様……」
C子の顔が引きつっている。
その間にロザリアちゃんが事情を説明する。
「君たち……僕の妹なんだ……仲良くしてもらえないだろうか?」
「は、はい! すみませんでした!」
C子はB子を引きずり逃げていった。
便座から顔を上げたA子もライドウに気づく。
「すみませんでした、ライドウ様……あなたの妹だとは知らずに……」
「A子ちゃん……キミには幻滅したよ」
「そ、そんな……」
A子は泣き出してしまった。
さすがイケメンライドウ。
女子生徒のファンが多そうだな。
「あんたら何してんのよ……」
今度は梓が通りがかる。
「あ、梓お姉様!」
A子は今度は梓に反応する。
「お姉様って……お前らどんだけ充実した学園ライフを送ってんだよ」
ロザリアちゃんが今度は梓に事情を説明する。
「イジメなんて最低ね!」
「う、うわぁぁぁん!」
A子は泣きながら走り去っていった。
なんか、可哀想な気もするけど。
「あんたら、相変わらずトラブルメーカーね」
「まあ、主人公の運命ってやつかな」
俺は、ここにいる理由も含めて梓とライドウに説明した。
「そうか……ダイチくん。妹が世話になったね」
ライドウはロザリアちゃんの頭を撫でながら微笑む。
「せっかくだから、食堂でご飯を食べましょうよ!」
「うっ……」
食堂といえば昨日のプリンバラバラ殺●事件を思い出す。
「ありがとうございます。梓さん!」
まあ、今日のところはロザリアちゃんが、楽しめて良かったよ。
「ダイチー! 置いていくわよ!」
梓の声が廊下に響く。
「ダイチさん! 行きましょう!」
ロザリアちゃんに手を引かれる。
俺の高校生活もこんな仲間たちがいたら、違ったのかもしれないな。
ガラにもなく、感慨に耽りながらみんなと歩き出す。




