第47話 メノウ魔法学園殺●事件
【メノウ魔法学園にてDクエストが発生しています】
Dランククエスト:魔法学園殺●事件。
……なんだ? クエスト?
通知で目覚めると、視界の左上に不穏なタイトルが表示されている。
クエスト内容:事件を起こした犯人を特定せよ。
……なんだこれ……なんもわからん。
パーティー参加上限が四名か。
スターナ、リリム、ミスティを加入してメノウ魔法学園を目指した。
メノウ魔法学園……学生設定がまったく活かされないまま、ここまで来た。正直、学生設定が必要なかったのではと思う。
それにメノウ魔法学園自体も終わっている。
階段は無限に存在するのに、実際に立ち入ることのできる部屋はわずかだ。
「ぬし様、今日のクエストはなんだ?」
「俺にもよくわかんねえんだけど、誰かが殺されたらしい」
「えっ、殺された!
学校で殺人が起きたってこと?」
スターナの声が跳ねる。
「スターナ……リリム怖い……」
リリムがスターナの腰に抱きつく。
「リリムちゃん。大丈夫だよ……私がついているから」
今思うと、この二人も仲良くなったものだ。
怯える二人をそっちのけで、感傷に浸っていた。
学園の門を潜るとさっそく景色が暗転した。
ここは……白い石レンガの大広間。
規則正しく並べられた、長方形の柏の長机……初めて見る場所だ。
俺の疑問はあっけなく、クエスト進行ログが明かしてくれた。
【メノウ魔法学園にて食堂が解放されました】
食堂に着くと、4人の人物が何やら言い争いをしており……銀髪の切れ目の男……カーリンがその場を諌めていた。
カーリンの後ろ姿を見て、一瞬アーシャさんの顔がよぎる。
「何ごとだ?」
彼は俺の呼びかけに振り向く。
「ダイチ殿……今朝方、事件が起きてな……」
「誰が殺されたんだ?」
クエスト名でなんとなく察していたが、
まさかのミステリー展開か?
「第1発見者の給仕の者……もう一度、話してくれ」
カーリンに促され、白のチュニックを着た若い給仕の青年が、青ざめた顔で話し出す。
「私は給仕のマルスといいます。今朝方、生徒の昼食の仕込みをしようと思った際……冷蔵庫の中にぐちゃぐちゃの……うっ、おえっ……」
彼はえづき出した。
「大丈夫か……」
リリムが背伸びをして、優しく彼の背中をさすってやる。
冷蔵庫の中にぐちゃぐちゃの遺体か……冷蔵庫といえば、転生当初を思い出すな。
「他の4人は、容疑者ですか?」
スターナが前に出て睨みを利かせる。
「ああ……昨晩の21時から今朝方まで、食堂を通った者は給仕を入れて、この4名のみだ」
「でしたら……その四人の中に犯人がいるということですね!」
スターナが次第にノリノリになっていく。
「スターナ……事件の匂いがする!」
「ミスティ、もう事件は起きてんだよ、お前まで変なノリに感化されるな」
俺はミスティの頭を軽く叩く。
「あだっ! ぬし様……ひどい……」
ミスティは後頭部を抑える涙目になる。
「他の者たち、一人ずつ何故、夜中に食堂に入ったのか教えてくれる?」
もういいや、ここはスターナに任せよう。
端正な顔立ちの、いかにも育ちが良さそうな青髪ロングの女子生徒が、赤いカチューシャを整え口を尖らせる。
「私は二年のカルベラだ。昨晩、この食堂に現れるという怪異の存在を確かめるべく、このクルフと一緒に食堂を見張っていたのだ」
カルベラは鋭い視線でクルフと呼ばれた生徒を睨みつける。
「は、はい……僕、二年のクルフです……カルベラさんに言われて仕方なく……」
茶髪におかっぱ。気弱な男子生徒はカルベラの顔を窺いながら目配せをする。
「最後は私ね……」
紫髪のくせっ毛に丸眼鏡……この女性は、俺たちの担任のクラウゼル先生だ。
「昨夜は見回りの当直だった。それで戸締まりを確認しただけだ。不審な者はいなかったわ」
「私たちも不審な者は見かけなかった」
カルベラの言葉にクルフも頷く。
さて、全くわからない。
「被害者と面識のあった者は?」
「それが、判別のつかないぐらいぐちゃぐちゃで……」
カーリンが口を抑える。
「リリム見てくるー!」
リリムが突然、厨房へ駆け出した。
「おい、リリム! 見ちゃ駄目だ!」
リリムを慌てて追いかけるが――間に合わなかった。
既に冷蔵庫の扉が明け放たれていた。
「本当だ! ぐちゃぐちゃだ!」
リリムは嬉々として冷蔵庫の中身をまじまじとみる。
お前、よくそんな平然としていられるな。
怖いもの見たさで、俺も恐る恐る中を覗き込む。
確かに、ぐちゃぐちゃだ……残骸からそれがプリンだったとわかる。
はっ!? プリン!?
「なるほど、茶番か……俺は帰るぞ」
「なっ、ダイチ! このままではプリンが浮かばれないではないか! それに、犯人を野放しにしてていいのか?」
リリムがもっともらしいことを言うが……一切感情移入ができない。
「もう、いいでしょ、私は帰らせてもらうわ!」
食堂にカルベラの声が響く。
「待ってください! 犯人が分かるまでここからは出ないでください!」
スターナがカルベラの前に立ち塞がる。
「ちょっと、どきなさいよ!」
「できません!
この謎は、じっちゃんの名に掛けて私が解き明かしてみます! 真実はいつも一つ!」
「なんか、いろいろ混ざってないか?」
名探偵スターナがやりたい放題している。
「というか、妾の追跡魔法で昨晩の足跡をたどれるぞ……」
「「えっ……」」
一同、沈黙が走る。
「違うの……私は、そんなつもりじゃなかったの……」
カルベラが突然泣き崩れた。
「カルベラさんは悪くありません!」
クルフが泣きながらカルベラを庇うように立ち塞がった。
「カルベラさんは、僕が細い女性が好きだって言ったから、ダイエットをしていた……でも、昨晩、怪異調査の際、冷蔵庫の大量のプリンを見て……」
「自分を抑えられなかったの。
気づいたら貪るように、柔らかい彼の体に手をかけていた……」
彼……?
被害にあったプリンは男なのね……。
もう、心底どうでもよかった。
「謝れば許されるものではない……盗み食いは……罪だ」
カーリンがよくわからない追い打ちをかける。
「大丈夫です。あなたに後悔の気持があれば、きっとまたやり直せる……」
なんにもしていない、名探偵スターナがカルベラの肩に手を乗せる。
「むっほー! うまうまー!」
なんか、厨房からリリムの嬉々とした声が響いている。
「おい、何をしている!」
クラウゼル先生がリリムを羽交い締めにして、持ち上げる。
「ああー!? 代替えで用意していたアップルパイが!」
「リリム……悪くないもん!」
リリムは口周りにパンの残骸をつけ、開きなおる。
「リリムちゃん。ちゃんと自分の罪と向き合って!」
スターナが泣きながら、リリムをビンタする。
もうめちゃくちゃだ。
「クルフ! 逃げるわよ!」
隙をついて、カルベラが逃亡を図る。
「ま、待ってよー! カルベラさーん!」
「おい、待たないか!」
逃げるカルベラとクルフをカーリンが追う。
勝手にしてくれ……呆れて言葉が出ない。
「リリム……盗み食いは立派な校則違反だ。
学園の罰則に照らし合わせてキミを処分する」
「ダイチー! 助けてー!」
リリムが泣きながら嘆願する。
「よくわからんが、甘んじて受けろよ」
【Dランククエストクリア】
報酬:ぐちゃぐちゃになったプリン×100g
(食べられません)
俺は報酬を破棄して、スターナとミスティを連れて帰宅した。




