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開始5分でサービス終了した伝説のバグゲーに転生したんだが攻略できない!  作者: 那須 儒一
第三章 陰謀と選択

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46話 望郷

翌朝、起きた時にはアーシャさんが家を出た後だった。屋敷が少しだけ広く感じた。


そういえばファフニール討伐後から、

梓には会っていなかったな。


様子が気になり貧民街へ赴く。

 

自力ではクエストも進められないこの世界で、NPCとして転生した梓は、何を楽しみに日々を過ごしているのだろうか。


ノックもせずに彼女の家の玄関を開ける。

家には誰もいなかった。

不用心だな。仕方ない、帰ってくるまで待つか。


彼女のベッドに潜り、掛け布団や枕から漂う梓の匂いに包まれて目を閉じた。



包丁の小気味よい音で目覚めると、

梓が台所で料理をしていた。


「あっ……起きたんだ。女子高生の家に侵入した挙げ句、勝手にベッドで寝るなんて……これが日本ならちょっとした事案よ」


梓は背を向けたまま、料理を続ける。


「別にいいじゃん。俺と梓の仲じゃないか」


「いつからそんな仲になったのよ。

それが許されるのは恋人か家族ぐらいよ」


「えっ、違うの?」


「断じて違うわ……」


梓が突然、包丁を握る手が震えていた。

それを抑えようと、反対の手で手首を掴む。


どうしたんだ?

彼女の顔は青ざめ、明らかに様子がおかしい。


俺はそっと近づき、梓の手を握った。

強張る彼女の指を包丁からゆっくりと引き剥がした。


「梓……大丈夫だから。俺が代わるよ……」


「ごめんなさい……」

先ほどの彼女とは別人のようだ。


震える手を押さえながら、梓は椅子に腰掛けた。


「ファフニールに殺されてから……時々手が震えるの……」


確かに普通の女の子には、あの体験はトラウマもんだ。


「ストーリーは俺が進めるからさ。梓はしばらく休んどけ」


「……大地は強いね」


「そんなことねえよ」

アーシャさんの結婚一つで、不安定になるぐらい弱い。めでたいことなのに素直に祝えない器の小さい男だよ。


「……あんたの包丁捌きの方が危なっかしいわね」


梓が俺の隣に立ち、軽く手を添える。


「抑える手は猫の手で……ゆっくりでいいから、等間隔に切って」


梓の指示通り、食材を切り鍋に入れる。


「てか、これ何作ってんだ?」


「お味噌汁よ」


「へぇー、この世界に来てから一度も食べてなかったな。味噌汁とか作れるんだ」


「うん。たまたま市場で味噌を見つけたのよ!」


味噌汁か……引きこもってた俺の部屋の前に、いつも母さんが置いててくれたっけ。


あの頃は鬱陶しかったけど……不思議と恋しく感じる。


「ダイチ、味噌は火を止めてから入れるのよ」

「風味が逃げるから。味見もちゃんとしてね」

「ちょっと唾液が付いたスプーンは入れないで!」


小姑のようにまくし立てられる。



二人で食卓を囲む。

ご飯と味噌汁、きゅうりの浅漬け……日本だと質素な食事だが、唾液が溢れてくる。


「「いただきます」」

二人で手を合わせる。


「いただきますっていいよな。日本の食卓って感じがする」


「なによ突然。私は毎食言っているわよ」


「そっか。この世界でも広めようかな」


「いいんじゃない」


梓と会話を楽しみながら、きゅうりを口に入れる。


「うまっ! 梓、お前は天才か!」


「浅漬けぐらいで大袈裟ね」


「いや、これはお嫁さんにしたいランキング25位には、食い込む浅漬けだ」


「なんかそれ微妙な順位じゃない?」


「いや、梓しか勝たん」


「はぁ、あんたと話してたらどっと疲れるわ。

……ま、一人よりいいんだけどね」


梓は軽く鼻で笑ったあと、付け加えるように、ぼそっと呟く。


「今流行りの冷笑系ってやつね」


「なんか、最近知った言葉を使おうとして、若い子の気を引きたいおじさんみたい」


「なんだよその妙に生々しい例えは……」



昼食を終え二人で、ベッドに並んで腰掛ける。


「大地……私、もう戦場に立てない。

だから、大地ももう戦わなくていいよ……」

梓の声は震えていた。


「あれだけ日本に帰りたがっていたのに?」


「でも、自分ができないことを大地に強要したくないし……」

彼女は肩を上下させ、声を殺して泣き出した。


壁にかかっている手作りのカレンダー。

この世界に転生した日から、彼女は日本での日付を忘れないようにチェックをつけていた。


自分自身忘れかけていたけど、既に転生してから半年は経過していた。


梓の頭を軽く撫でてやる。


「梓は休んどけよ。

俺がぱぱっとこんなクソゲー終わらせてやるから」


彼女は涙を拭い、ふっと微笑んだ。


「大地って稀にカッコいいわよね。

流星くんがいなかったら大地のこと、好きになってたかも」


「くそっ、こんなに頑張っているのに、

イケメンサッカー部には勝てないのか」


「そうね。現実はゲームのように甘くないわよ」


このバグオラの世界は例外な気もするが。


「まあでも、もしも日本に帰れなかったら、大地は私がもらってあげるわよ」


「えっ……」

突然の告白に思考が停止する。


「ちょっとマジにならないでよ。顔がキモいってば」


「キモくて悪かったな。なら、ストーリークリアは諦めようかな。そうすれば梓ルートもあるってことだ」


「あんたがモテないのはそういうところよ」


グーの音も出ない。


梓の小さな家は、味噌汁の香りで満たされていた。

不思議と彼女の震えは収まっていた。

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