第45話 結婚報告
「はぁぁぁぁ!? 結婚!?」
「なんで、ダイチがそんなに叫ぶのよ……」
スターナが目を細めて俺を睨む。
「お父さんはそんなの許しません!」
「えっ!? ダイチって、アーシャさんのパパだったの?」
「リリム、このバカの冗談だ。
乗っかったら話がややこしくなる」
ミスティがため息をつく。
「カーリン君と言ったかね?」
「あ、ああ」
俺の威圧的な態度に、カーリンがわずかにたじろぐ。
「キミ……職業と年収は?
アーシャを幸せにできるのかね?」
「ちょっと、ダイチさん……失礼じゃない」
アーシャさんが慌てて、俺の質問を遮ろうとする。
「いや、話そう。アーシャの家族なんだ。
納得していただいた上で籍を入れたい」
カーリンはアーシャさんの手を握ると、ふっとほほ笑んだ。
それが、余計にムカついた。
「皆もご存知とは思うが、ギルド、蒼き海のギルドマスターを務める。カーリン・レイニーブルーだ。
年収はギルド稼業のためどうしても不安定たが、1000万はあるだろう。他には何か質問はあるかな?」
カーリンは毅然とした態度で、躊躇いなく答える。
「アーシャさんを幸せにできるのか?」
「無論だ」
――即答。
カーリンの銀色の眼光が、俺を真っ直ぐ見据える。
「ダイチ……それくらいにしとけ」
レメリアが諭すように、言葉を投げかける。
「くっ……わかったよ」
俺はそれだけ言い残し、自室に戻った。
くそっ、カッコ悪いな……俺。
別にアーシャさんとは何でもない。
それでも、彼女が誰かのものになるのはなんとなく嫌だった。
❇
みんな気を遣ってか、夜まで誰も部屋には来なかった。
一人になりたいのに、誰か来てほしい。
矛盾していると分かっているだけに、余計に自分が子どもじみていて恥ずかしくなった。
「ダイチさん……入っていいかしら」
アーシャさんの穏やかな声が、扉一枚を隔てて響く。
俺は布団に包まりふて寝を決め込んだ。
静かに扉が開き、温もりが隣に触れる。
俺の背中にアーシャさんがそっと手を触れる。
「家、出ていくの?」
「ええ……カーリンさんにも娘がいるの。
私は、彼の家に住むわ」
……娘?
確かに、この国は一夫多妻制だったはず。
カーリンには正妻もいるのか?
アーシャさんはそんな俺の考えを見透かすように続けた。
「カーリンさんの妻も、同じギルドメンバーでね。私の夫と同じクエストで……命を落としたわ」
アーシャさんも未亡人だったな。
この世界がダークファンタジーだってことを改めて思い知らされる。
「アーシャさん……そんな男をやめて、俺と結婚してくれって言ったら……どうする?」
我ながら無茶苦茶なことを言っているのは分かっている。
「ダイチさんの覚悟次第ね……」
暗に俺にはその覚悟がないと、突きつけられている気がした。
「すみません。意地悪な質問でしたね。
スターナも寂しがりますよ?」
「大丈夫よ。スタちゃんは私たちが思っているより、ずっと大人だから。それに……ダイチさんもいるしね」
「そうだけど……」
「ダイチさん。全部遅すぎたのよ……。
もしも、ダイチさんが私を早く選んでくれたら……」
アーシャさんはそこで言葉を閉ざした。
どれだけ、話しても詮無きこと。
「アーシャさん。もし、カーリンに愛想が尽きたら、いつでも戻ってきてください。
俺たち待ってますから……」
「ホントかなあ?
カーリンさんが先に亡くなって、私が80歳のおばあちゃんになっても、ダイチさんは愛してくれるの?」
「当然です! 僕が介護してあげますよ!」
「ふふ、じゃあその時はお願いしようかな」
「はい!」
アーシャさんは俺の頬にキスをして、部屋から出ていった。
何も始まっていないし、アーシャさんと恋仲だったわけでもない。それでも、胸にぽっかりと大きな穴が空いた気がした。




