第44話 繋がり
空から降ってきたファフニールの卵――あれが結局何だったのかは分からない。
災厄の傷跡が癒えぬ中、早くも一週間が経過した。
HPは回復魔法か一晩寝れば全回復するが……メンタルはそうもいかない。
誰もストーリーを進めようとは言い出さなかった……梓でさえも。
ゲームの世界だっていうのに、綺麗な星空だ。
テラスに出て、夜空を見上げガラにもなくセンチメンタルに浸る。
一歩間違えれば俺以外の全員が結晶化していた。
再戦しようにも主力メンバーが削られた状態じゃ実質不可能に近かっただろう。
あの時、仲間を失っていたかと思うと背筋に悪寒が走る。
「ダイチ……」
か細い声に振り向くと、パジャマ姿のリリムが枕を抱えて立っていた。
「寝れないのか?」
「うん……一緒にいていい?」
「いいよ」
リリムは、テラスに設置してある、ビニール製の白いリクライニングチェアーに寝そべる。
「ここで寝るのか? 風邪引くぞ」
アルスタイン王国は一年中穏やかな気候だが、夜は少しだけ冷える。
「ダイチ、温めろ!」
リリムがリクライニングチェアーの上をポンポン叩く。
「わかったよ」
リリムを膝に抱え、椅子に寝そべる。
「リリム……あの時はそれどころじゃなかったけど……今際の際――レメリアのこと、ママって呼んでなかったか?」
「うん……自分でもなんでそんなこと言ったのかわんない……気づいたら言葉が出てた」
確かにレメリアとリリムは、二人とも赤毛のサイドテールだ。
でも、それだけで親子と結論付けるのもな。
確かに、レメリアは地上に来てから、やたらリリムを気遣っていた気がする。
「リリム、一緒にレメリアのところに夜這いするぞ!」
「よばい? うん。よくわかんないけど了解!」
さっそくレメリアの部屋に向かい、扉をノックする。
「……開いているぞ」
「レメリア! よばいに来たー!」
部屋に入るやいなや、リリムが両手を上げて、レメリアの元へ駆ける。
「おい、ダイチ……子どもに変なことを教えるな」
鋭い眼光が俺を射抜く――この二人、性格は真逆な気がする。
「悪かったって」
「何か話があるんだろ?」
レメリアは飛び込んできたリリムの頭を撫でながら、俺を見る。
「察しがいいな」
「ママはママなの?」
リリムらしい聞き方だ。
「……」
レメリアは何も言わなかった。
……沈黙がリリムの言葉を肯定していた。
レメリアの手が、そっとリリムの頭に伸びる。
リリムもがしっと彼女の体を抱きしめた。
なんで娘に母だと伝えなかったのか、
レメリアが魔界で魔王軍幹部をしていたのか……何もわからない。
でも、親子の時間を邪魔しないでおこう。
軽くレメリアに微笑んで部屋をあとにした。
レメリアも俺の意図を察したのか、何も言わずリリムの頭を撫で続けた。
❇
そろそろ寝ようかと自室に戻ると、
何故か俺のベッドの上にスターナが寝息をたてていた。
どいつもこいつも寂しがり屋だな。
彼女を起こさないように、隣に潜り込む。
スターナが腕を伸ばしてきて、俺に抱きつく。
彼女を二度失いかけた。
今後、これ以上の鬼畜な展開が来た時――このままじゃみんなを喪ってしまう。
バグで経験値が見込めない俺は、成長すら許されない。
残ったのは膨大なクラフトスキルだけ。
あと……魔剣とmodか……使える手段はなんでも使わないと。
チートでもバグでも……全て利用してやる。
スターナの寝顔を見ながら、決意を固める。
❇
「ダイチ……そろそろ起きようよ」
すっかり明るくなった部屋に、スターナの声が響く。
「嫌だ……まだ寝たい……」
モゾモゾと動くスターナを、俺は抱きしめて離さなかった。
「もう、仕方ないな」
俺は、スターナの白く柔らかい頬に手を添える。
「スターナ、助けられなくてごめん」
「なに言ってんのよ。私がガルデルド帝国で殺された時も……ファフニールに殺された時も……最後には助け出してくれたじゃない」
ガルデルド帝国……ストーリーバグで話が飛んだ時か……俺はそのことを経験していないから、気づいたらカタリーナとリリムが死んでいた。
あの時は、二人を助け出せるなんて思ってもみなかった。ただ、二人を喪った憎しみをゲームにぶつけていただけだ。
あの無機質な白い空間――明らかにゲーム世界ではなかった。
誰かを喪って、もう一度あそこに辿り着けるかはわからない。駄目だ、まとまらない。今は、余計なことは考えないようにしよう。
「ダイチってば、寝てんの?」
スターナが頬を引っ張る。
「いでっ」
「起きてんじゃない。返答しなさいよ。
バックログでもう一回、ボイスを再生しようか?」
「またお前は、そんなメタいことを言ったら、せっかくの情緒が台無しだろ」
「いいんだよ。私はゲーム世界の人間だから」
自分がゲームのキャラだと自覚しておるのもどうかと思うけど、そんな簡単に言われると、少しだけ寂しい気もする。
「おい、いつまで寝ているんだ!
アーシャが呼んどるぞ!」
ミスティがノックもせずに部屋の扉を開け放つ。
俺とスターナを順番に睨む。
「ぬし様……行くぞ!」
「おい、ミスティ……どうしたってんだ」
ミスティはバツの悪そうな顔をして、俺の手を強引に引っ張る。
ミスティに連れられ一階の客間に行くと、
アーシャさんとカーリンが並んで座っていた。
カーリンがなんでここに?
リリム、レメリアも既にテーブルを囲み座っていて、スターナが俺の後を追うように部屋に入る。
これで全員だ。
ファフニールの件か……ストーリーに関する話かどっちだ?
アーシャさんは全員の顔を順番に見ると……ゆっくりと口を開いた。
「私……カーリンさんと結婚します」




