第40話 六の秘宝
残り二枚……これは俺にしかできないクエストだ。
やり遂げなければ。
結局、梓には慰謝料込みで2000万円支払った。
そろそろ、俺の懐事情も危ない。
六の秘宝はロザリアちゃんか……彼女を傷つけない方法は……駄目だ……どうしたって傷つけてしまう。
俺はライドウの家を訪問した。
「やあ、ダイチくん!
妹と仲直りしてくれて良かったよ!」
ライドウの笑顔が眩しい。
「ああ、ライドウにも迷惑かけたな」
「いいんだよ。僕たち親友じゃないか」
「ロザリアちゃんは?」
「ああ、妹なら木こりの仕事に出たよ!
お昼には帰ってくると思う」
「なら丁度良かった。ライドウ……実は、親友のお前にしか頼めない相談がある……」
「深刻な話みたいだね。僕に任せてくれ!」
部屋に案内された。ライドウにクエスト内容を共有する。
「こんな、馬鹿げたクエストがあるものか」
彼は、珍しく憤慨して机を叩く。
ライドウにはクエスト画面も直接見せている。
秘宝の所持者以外には、内容を話せないが、対象者ではないライドウには話しても問題ない。
「つまり……自分の妹の下着を盗む手伝いをしてくれということか……」
「すまない。酷だとは思うが、世界のためだ」
「くっ……」
ライドウは血が滲むほど下唇を噛み締めていた。
「分かった……ダイチくんのためだ。僕も腹を括るよ」
❇
作戦内容は単純だ。
庭に子供用プールをクラフトで設置して、
俺とロザリアちゃんは水着に着替えて遊ぶ。
部屋に脱衣ボックスを設置して、ロザリアちゃんにはそこに衣服を入れてもらう。
俺が注意を引いている間に、ライドウが脱衣ボックスから下着を回収するというシンプルなものになる。
先日の梓の時よりも、確実な作戦だ。
この作戦の強みは、万が一ロザリアちゃんにバレても、ライドウのせいにできるところだ。
我ながら完璧な作戦。
そうこうしているとロザリアちゃんが帰ってきた。
「あれ? ダイチさん! どうしたんですか、これ?」
ロザリアちゃんは早速、庭の子ども用プールの存在に気づいた。
「ロザリアちゃん、汗かいただろ。
このプールで一緒に遊ばないかなって?」
「プールってなんですか?」
「水浴びみたいなもんだよ」
「えっ、庭で裸になるんですか!?」
「そこは安心してよ、専用の着衣があるから。
ロザリアちゃんにプレゼントするよ」
ソロ縛りのため、パーティー編成はできない。
ロザリアちゃんに直接、スク水を手渡す。
「へぇー、こんなのがあるんですね」
大丈夫だ。今のところは、疑われていない。
「部屋に脱衣ボックスを設置しているから、着替えてきなよ」
「は、はい!」
彼女はスク水を抱えて、小走りに自宅に入っていった。
俺も今の内に、メニューを操作して水着に着替える。
「ダイチさん……これ恥ずかしいです」
しばらくして、ロザリアちゃんが胸を隠すように出てきた。
俺はライドウに目配せして、彼は入れ違いで家に入る。
「大丈夫だよ。俺だって上半身、裸だぜ?」
「そうですけど……あっ……」
俺はロザリアちゃんの手を引き、狭い子ども用プールに二人で浸かる。
「これ……楽しいですか?」
「うーん。まあ、涼しくはある」
「そうですけど……」
目の前に二つの巨大な凶器が揺れている。
……け、けしからん。
我ながら、おじさんみたいなリアクションだ。
「あれ……兄様……なにを叫んでいるのでしょうか?」
本当だ。家の中からライドウの叫び声が聞こえる。
「な、なんだこれは! ほぼ紐じゃないか!」
なるほど、ロザリアちゃんの下着のインパクトがすごかったのか。
「何を言っているのでしょう?」
まずい、あのバカ!
ロザリアちゃんに聞かれたら一発アウトじゃないか!
俺は慌ててロザリアちゃんの耳を塞ぐ。
「だ、ダイチさん! 突然、こ、困ります!」
ロザリアちゃんは、なにを勘違いしたのか、狼狽えている。
俺は彼女の肩を掴んだ。
「ロザリア……今は、周囲なんて気にしないで、俺だけを見てくれ!」
「ひゃい……」
ロザリアちゃんが頬を赤らめ、奇妙な返事をする。
「ダイチさん、プールとはどうやって遊ぶのですか?」
「そうだな……水を掛けたりかな……」
確かに子ども用プールってどうやって遊ぶんだ?
とりあえずライドウが出てくるまで時間を稼がなければ。
「くらえっ!」
俺はロザリアちゃんに水を掛ける。
「きゃっ! ダイチさん、やりましたね!」
ロザリアちゃんもようやく乗ってきたのか、俺に向け水を飛ばす……。
ロザリアちゃんの掛けた水が俺の横を逸れて、庭にかかる。
ドンッ!
庭の土が衝撃波で削れた……
「えっ……ロザリアちゃん……えっ?」
まともに直撃していたら死んでいた……。
「わわわ、ダイチさんごめんなさい!」
「やっぱり……水遊びは止めようか」
気まずい沈黙が続く。
「ぐす……ぐす……」
ロザリアちゃんが嗚咽を漏らす。
「ごめんなさい……私、私……ダイチさんがせっかく誘ってくれたのに……人並みの遊びもできなくて……」
目的がパンツだけに、こっちの方が申し訳なくなる。
俺は、ロザリアちゃんの頭を撫でてやる。
「俺は、楽しいよ。ロザリアちゃん、力の加減はこれから覚えればいい。俺が一生そばで付き合ってあげるから……な?」
「は……はい! ダイチさん……!」
ロザリアちゃんが俺に抱きつく。
今度は、力の加減を意識しているか……不思議と痛くなかった。
「おーい! ダイチくーん! 妹の下着を盗ったよー!」
感動の抱擁を交わしている中、ライドウが紐状の何かを持って、それを振りかざしながら走ってきた。
「あのバカ!」
「お、お、お、お兄様……何をしているんですか!」
それは、一瞬の出来事だった。
目の前にいたロザリアちゃんが消えた――。
気づいたらライドウが、吹き飛ばされていた。
遅れて、突風が吹き荒れる。
風に呑まれ、白い紐が芝生の上に落ちた。
ライドウへ175000ダメージ。
驚愕の数字に、恐怖で膝が動かない。
ロザリアちゃんの拳が速すぎて……まったく目で追えなかった。
「お兄様……ベッドで復活しますよね?」
「あ、ああ」
俺は相槌を打つことしかできなかった。
ロザリアちゃんが歩く度に、大地が揺れる。
そのまま、部屋で復活したライドウの元に向かっていった。
動け……今しかない。
俺は、慌てて紐パンを拾い、その場を後にした。
親友……お前のことは忘れない。
俺は、涙を拭い最期の秘宝の元へ駆けた。




