第39話 五の秘宝
「いててて………」
鎖骨が悲鳴を上げている。
レベル1だったお陰で、ナージャ王女は、鎖骨噛みを手加減してくれた。
それでも甘噛レベルは遥かに超えていたが……。
さて、続いて五の秘宝か……ユリアナ梓の下着……現役JKの下着を盗むなんて、この世界が許しても、世間体が許してくれないだろう。
……大丈夫。俺と梓にはある種の絆が芽生えている。同じ転生者同士――俺の状況を察してくれるはずだ。
貧民街――古びた木の扉をノックする。
「あれ……ダイチじゃん。まだ、家には帰れないの……」
「梓……パンツくれ」
「……は? ごめん、私、疲れていたみたい。
聞き逃したからもう一回言ってくれない?」
「下着をください」
「死ね!」
「ぐふぉ!」
梓のミドルキックが、俺のみぞおちを捉えた。
そのまま扉を閉められてしまった。
……くっ、やはり正攻法ではダメか。
この世界では服をインベントリにしまえば綺麗になる。
だから洗濯という文化がない。
当然、タンスも存在しない。
……つまり、普通にやっても下着は盗めない。
仕方ない。奥の手を使うか。
梓の家の庭にあるお風呂のオプションを変更する。
浴室脇に、脱衣ボックスを設置した。これは、インベントリにしまわなくても、衣類を入れるだけで、新品同様に綺麗にしてくれる。
あとは梓が入浴しているタイミングで、魔剣ヨグ=ソトースで脱衣ボックスとの空間を繋ぎ、梓が身につけている下着と、俺が買った安物の交換すれば、完全犯罪が成立する。
下着が変わったらバレるんじゃないかって?
大丈夫だ。梓のキャラクター、ユリアナには貧民街出身という設定がある。となれば、この世界で一番安い下着を身に着けているという推測が成り立つ。
正直、梓が脱衣ボックスに衣類を脱ぎ捨てなかった時点でこの作戦は破綻する。
それでも……俺はやるしかないんだ。
作戦決行のため――夜を待つ。
❇
物陰に身を潜めていると、梓が庭の浴室に入った。
……よし、10分は経過した。
ガスタージャ……お前の魔剣をこんなことに使うのは気が引けるが、背に腹は代えられない。
俺は魔剣を軽く振り、小さな次元の扉を開く。
接続時間は5秒しかない――急げ!
次元の穴に腕を突っ込む。
手には衣類の感触が触れる。
よしっ、脱衣ボックスに服は入れているみたいだ。
すると、手にさわり心地の良い、木綿の布地が触れる。
大きさ的にも間違いない!
俺は、力の限り引っ張った。
白のパンツが月夜に照らされる……それを握っていた梓ごと……。
俺と梓の手をパンツが繋ぐ……当然梓は生まれたままの姿だ。
「梓……ありがとう」
言い訳よりも先に、なぜか感謝の言葉が出た。
これは、嘘偽りのない俺の本音だ。
「あ、あ、あんた……な、何やってんのよ……」
梓は自分の体を隠すのも忘れて、震えていた。
それは羞恥心によるものではない。
……俺への憎悪で震えていたのだ。
なぜ分かるのかって?
彼女は我を忘れて、俺をボコボコに殴りだしたからだ。
❇
パライズ……麻痺の魔法によって俺は梓の家に捕らえられた。麻痺ってのは不思議だ。体は動かないのに、口は問題なく動く。
「大地……そこまでして、私のパンツが欲しかったの? なんか、理由があるんでしょ?」
「……言えない」
「……素直に吐いたら、楽に殺してあげるわよ」
結局、死ぬのは変わらないのか。
「死んでも……言えない!」
また振り出しに戻るのは耐えられない。
「カッコつけてるとこ悪いけど、下着泥棒はどう足掻いても格好良く見えないわよ」
梓の言う通りだ。それでも、クリアするためにもここで音を上げるわけにはいかない。
残された道は交渉しかないか……。
「梓……パンツ一枚、100万円でどうだ?」
「ちょっ、あんた何言っての! そんなの無理に――」
「200万円……」
「ぐっ……」
「300万円!」
「うぅ……」
「400万円……これがダメならこの話は終わりだ!」
自分で稼げない梓からしてみたら、お金は喉から手が出るほど欲しいはず。
梓は自分のプライドに値段をつけているようなものだ。
さぁ、どうする?
「……いいわ。それで、手を打つ」
「よしっ!」
梓は麻痺を解除してくれて回復までしてくれた。
「あと、私の裸を見たから1000万円プラスね」
「はっ、そんなの話が違うだろ?
むしろ、あんな貧相な体見せられて、慰謝料をもらいたいぐらいだ……」
そこまで言って地雷を思いっきり踏み抜いたことに気づいた。
「パライズ!」
「ぐはぁ!」
またしても麻痺で身動きを封じられた。
「ふふ……試したかった新魔法があるんだ。
でも、人間に使用したら精神を壊してしまう可能性があるから、まだ使ったことなかったんだけど……腐れ外道の大地は人間じゃないもんね」
「梓さん……話し合えば分かり合える。
俺たち、行き違いが多かっただけで……まだ、やり直せるはずだ!」
「ふふ、大地……あなたは私の心を深く傷つけた。だから、私もあなたを傷つけてもいいよね?」
梓の表情が、見たことないぐらいに歪んでいた。
「ひぃぃ……」
貧民街に男の悲鳴が一晩中、こだました。




