第38話 四の秘宝
【Eランク昇格クエストが発生しました】
頑張った甲斐もあり、ついにこの時が訪れた。
アーシャさんから屋敷で暮らすことも許されて、ようやくみんなとの元の生活に戻れた。
このまま、ランクを上げてストーリーを進めるぜ!
【クエスト名――七つの秘宝】
「おっ、昇格クエストらしい、王道クエスト臭がするな! 今の俺は調子がいい、その秘宝とやらも秒で集めてやるぜ!」
クエスト内容:七つの秘宝を集め、ギルドに寄贈せよ。七つの秘宝のヒントは下記に記す。
一の秘宝――『星の布』
ヒント:スターナの下着。
二の秘宝――『幼女の布』
ヒント:リリムの下着。
三の秘宝――『未亡人の布』
ヒント:アーシャの下着。
四の秘宝――『王家の布』
ヒント:ナージャ王女の下着。
五の秘宝――『絶壁の布』
ヒント:ユリアナ(梓)の下着。
六の秘宝――『力の布』
ヒント:ロザリアの下着。
七の秘宝――『脱兎の布』
ヒント:メルリカの下着。
秘宝って下着のことかよ!
ヒロインの下着を集めるゲームがどこにあんだよ!
これはみんなに事情を説明して下着をいただくしかないな。
クエスト条件:この依頼ではパーティーを組まずソロでクリアしてください。また、対象のキャラクターにクエスト内容を話すことは許されません。
もし、条件を満たさない場合は、秘宝は没収され、一から集めてください。
終わった……俺の考えを先読みするかの如く、手は打たれていた。
一から三までの秘宝は既に持っている。
問題は残りの四つ……。
ロザリアちゃんとはせっかく仲直りしたのに。
また、関係を悪化させそうなクエストだな。
メンバーの選出が謎だ。
確かに、ミスティとレメリアはバグ経由で味方になったようなものだ。
でも、スターナとリリムも……ナージャ王女奪還編で本来であれば死んでいたはず。
……いや、クソゲーに筋道を通すだけ無駄か。
これは今までにない厳しい戦いになる。
俺も本気を出す必要があるな。
覚悟を決め、下準備を始めた。
「まずは四の秘宝か……」
俺は、王城を訪れた。
ナージャ王女とは、ガスタージャに引き渡そうとしてからは会っていない。
城門を潜ると――ナージャ王女の寝室へと飛ばされた。
「ダイチ様……今日は何用ですか?」
彼女は輝く長い髪を揺らし、眉間にシワを寄せていた。
以前とは違い淡白な反応。
やっぱり……まだ怒っている。
「ナージャ王女……先日はご無礼を働き申し訳ございませんでした!」
膝をつき頭を下げる。
「……それで、用件はなんでしょうか?」
「いいえ、本日はお詫びの印にナージャ王女に贈呈したい物がございます!」
俺はインベントリからラッピングされた箱を取り出す。
「まぁ! なんでございましょう!」
少しだけ、ナージャ王女の声が跳ねる。
よしっ、ここはアピールが大事だ。
「ナージャ王女に誠心誠意謝るため……いえ、私の気持を伝えるため昼夜問わず、身を粉にして働いてきました!」
「ええ……ダイチ様の活躍は王城まで届いております。全て――私のためにしてくれていたことなのですね」
「はい! 全ては王都の民――ひいてはナージャ王女のために、この身を捧げてきました。そして、これはその対価で得たものになります!」
俺はリボンを解きラッピングを開封する。
ナージャ王女がこちらに駆け寄ってきた。
「まあ!」
彼女は箱から衣装を取り出した。
金箔が星々のように散りばめられたドレス。
そして、同じ布地の下着まで用意した。
「あら、どうして下着もあるのかしら?」
「差し出がましいかと思いましたが、せっかくなら、下着もセットでご用意させていただきました」
「ダイチ様ったら気が利きますのね!」
よしっ、うまく騙された。
「すみません。一つだけお願いがございます」
「ふふ、なんでしょう?」
ナージャ王女はすっかり上機嫌だ。
「このドレスの採寸に問題ないか、一目わたくしに見せてはいただけないでしょうか?」
「いいですわ! 少し着替えますから……その後ろを向いてていただけませんか?」
そう、これも全て計算済み。
王城は制作陣の手抜きにより、王女の寝室意外のマップは設計されていない。
すなわち、王女の着替える場所は、ここしかないということだ。
「はい……」
俺は背を向ける。
背後から布地の擦れる音がかすかに聞こえる。
王女様の生着替えシーン。こんなレアイベント滅多に拝めないだろうが、我慢するんだ!
「ダイチ様……もう、いいですわよ」
振り向くとそこには、眩い金のドレスをまとったナージャ王女が立っていた。
彼女はスカートの両端を持って、軽くお辞儀をしてみせる。
しかし、俺の目的はベッドの上に畳まれた普段着のドレス……その下に眠る四の秘宝……どうやってあれを手にするか……。
「どうしたの、ダイチ様……あまり似合っていませんか?」
「あ、いいえ、ナージャ王女……あなたが眩しすぎて直視できませんでした」
「まあ、お上手ですこと……でも、ありがとうございます!」
彼女の笑顔にチクリと胸が傷んだ。
「ナージャ王女、間近で見てもよろしいですか?」
「ええ……」
彼女は顔を伏せ頬を赤らめる。
「ナージャ王女……綺麗だ……」
罪悪感とともにナージャ王女の肩を抱える。
彼女の視界を塞ぐために口づけを交わした……そして、その流れでベッドに手を伸ばし、下に眠る四の秘宝をくすね――自分のポケットにねじ込んだ。
「ダイチ様……」
彼女は恍惚な表情を浮かべていた。
「ナージャ王女……」
目的は達した。あとは、このまま帰るだけ。
「すみません。ナージャ王女、この後……休養がありまして……」
早めに逃げないと下着を盗ったことがバレてしまう。慌てて踵を返す。
「待ってください……ダイチ様!」
まずい、気づかれたか……。
俺は恐る恐る振り向いた。
「ここは、確認しなくてよろしいのですか?」
ナージャ王女が、ドレスの前をはだけさせ、スカートの裾をゆっくりと持ち上げる。
つまり、俺が購入した下着のサイズ確認もしなくて良いのかということか……。
くっ、ここにきてご褒美イベントまで用意されているのか!
いや、しかしこれ以上は逃げ切れないリスクもある。
衛兵を呼ばれて取り押さえられたら一発アウトだ。
ここは、諦めて退散しよう。
「ナージャ王女、すみません……確認させていただきます!」
俺のバカ! 誘惑に負けてどうする!
「ダイチ様だけなんですよ……こんなことして差し上げるのは……」
女性が恥じらいながら、スカートの裾を持ち上げる。これのイベントに抗える男がどこにいようか……否、いるはずはない!
俺は、しかと目に焼き付けるため、まぶたを全力で開く!
その時、鼻から温かいものが垂れる……。
「きゃああ……ダイチ様! 血が出ていますよ!」
ナージャ王女が軽く悲鳴を上げる。
くっ、鼻血――アドレナリンが出過ぎたか。
ナージャ王女が俺の鼻を拭こうと、ドレスの袖を掴み、手を伸ばす。
「ナージャ王女、せっかくのドレスが汚れています。自分で拭きますから!」
俺はポケットに入っていた布を取り出す。
「えっ……」
ナージャ王女が目を見開く。
俺もその反応を見てしまったと気づく。
自分の手を恐る恐る見ると……薄ピンク色のレースの下着が握られていた。
「ダイチ様……どういうことですか?」
ナージャ王女の声が低くなる。
「すみません。ナージャ王女――あなたに憧れるあまり……手を出してしまいました」
沈黙が続く。
――やがて彼女は、呆れたようにため息をついた。
「そんなに欲しかったらあげますわよ」
「えっ!」
思いも寄らない返答が返ってきた。
「ただし、条件があります」
……嫌な予感がする。
「今晩……私と一緒に寝て下さい」
俺には分かる。これは、決して夜伽のお誘いなんかではない。
「……承知いたしました」
俺は観念して誘いを受ける。
「ふふふ……」
ナージャ王女がニヤリと笑みを浮かべた。
シャンデリアの照明が、彼女の八重歯を一層輝かせる。
“噛み付き王女”――彼女の代名詞である恐ろしい通り名。
彼女の大好物は男の鎖骨だ。
それを噛み砕くという恐ろしい癖を持っている。
俺は全てを受け入れて……再びこの身を捧げた。




