第37話 謝罪
――コン、コン。
かすかなノックの音で目を開ける。
まだ、夢の中の梓を起こさないようにそっと、ベッドから降りる。
ゆっくり扉を開けると――アーシャさんが目を見開いて立っていた。
「ダイチさん……梓ちゃんのお家にいらしたのね……」
「アーシャさん……俺……すみませんでした」
「スタちゃんにも謝られたんだけど……私はいいのよ。でも、ロザリアちゃんがあんまりにも可哀想だから。ちゃんと謝るのよ。そしたら、ウチに帰ってきてもいいから……」
「うん……」
「これ、梓ちゃんのお弁当……あと、多めに作ってきたから、二人で食べなさい」
アーシャさんは軽く微笑むと、そのまま去っていった。
あの時の俺はさすがにクズすぎた。
嫌がられるかもしれないけど……ロザリアちゃんに一度謝りに行くか。
机に弁当箱を置き、書き置きだけして梓の家を出た。アーシャさんはああ言ったけど、もともと梓のために作ってくれたお弁当だ。
俺がいただくわけにはいかない。
王都の朝は早い。忙しなく町民が行き交い、市場の準備を始めていた。
【緊急クエスト発生!】
アラート音とともに視界が赤く染まる。
なんだ! 緊急クエスト?
視界の端でクエスト内容を確認する。
「なになに……木こりの女性が大番に攫われた……大番ってなんだ?」
場所は南の森か……制限時間10分!
短すぎだろ!
ロザリアちゃんへの謝罪は後回しにして、急ぐか。
手をかざし、魔剣ヨグ=ソトースを召喚する。
普通に走っても間に合わない。空間転移するしかない。
“次元斬”
――剣を振り空を断つ。
魔剣が完全にファストトラベルアイテムと化している。
時空の狭間に飛び込む。
視界がひらけると、暗い森に出た。
緑の匂いがやたらと濃い。
周囲を見渡すが魔物らしき姿が見えない。
「きゃぁぁぁぁ!」
森に少女の声がこだまする。
どこだ……前後左右と見渡すが、声の主は見当たらない。
まさか、上?
顔を上げた瞬間、空から少女が降ってきた。
……というか、イベントシーンなのか分からないがスローでゆっくりと空から降りてきた。
俺は手だけ添えて、見慣れた少女を受け止めた。
「ダイチさん……」
「木こりの少女って、ロザリアちゃんだったんだね……でも、どうして空から?」
直後、巨大な何かが地面に墜落する。
土煙が舞い上がり、鳥のようなモンスターが息絶えていた。
「こいつは……?」
「木を切っていたらあの鳥に連れ去られて……思わず鳥に触れてしまったら……死にました」
大番……68レベル。
ロザリアちゃんの膂力なら簡単に倒せるだろう。
【緊急クエストクリア ロザリアが仲間になりました】
何もしていないけど……クリアになった。
さすがバグオラと言うべきか……。
ロザリアちゃんって本来ここで仲間になるキャラだったのか。
制限時間内に辿り着くほうが難易度高かったな。
相変わらずのバランス調整だ。
「ダイチさん……私を助けてくれてありがとうございます」
ロザリアちゃんの腕が俺の体を締め上げる。
「ロザリアちゃん……く、苦しい……ギ、ギブ……」
「あっ、ダイチさん……すみません」
ロザリアちゃんは慌てて手を離す。
「ロザリアちゃん。
俺……酷いことしてごめん……」
「……ダイチさんは何が悪いと思って、何に対して謝っていますか?」
ロザリアちゃんを支えるように抱き留めたまま、
彼女の眼差しは、真っ直ぐこちらを見ていた。
「ええっと……ロザリアちゃんを、報酬扱いにしてごめん。あと、怪力女って言ってごめん。あとは……エロい目で見てごめん。それと、押しに弱い性格を利用してごめん」
「ダイチさん……本音で謝りすぎですよ。
都合のいい女だと思っていたんですね」
「……ごめん」
何を言っても言い訳にしかならない。
「ダイチさん。もう一つ、一番私が怒っていることがあります……それを謝ってください」
一番怒っていること……なんだ?
いや、あれはバレていないはずだし……もしかして……
「ロザリアちゃんに捕まって殴られている時……少しだけ興奮していたこと?」
「えっ……ち、違いますよ!
えぇ……あの時、興奮していたんですか……。
あの時、私も少し暴走しすぎました。ごめんなさい」
ロザリアちゃんは慌てて、距離を取る。
「そのことじゃないの?
また、言わなくてもいい暴露をしてしまった」
「なんか、掘れば余罪が出てきそうですけど……怖いのでやめておきます」
ロザリアちゃんは自分の胸に手を当てため息をつく。
「一番、怒っているのは……私の心を弄んだことです……」
「えっ……弄んだ?」
「私、誰の言うことでも聞くような軽い女じゃありません。ダイチさんだったから……協力したんです。……それなのに……」
ロザリアちゃんの言いたいことはなんとなく分かった。
「ごめん。これからは大事に扱う……」
ロザリアちゃんは微笑んで手を差し出す。
「……?」
俺にはその意味がわからなかった。
「シナリオではこのクエストで、私が仲間になるんですよね? よろしくって意味です」
俺は軽く笑い、彼女の手を握った。




