第35話 こころ
「まぁ、兄ちゃん。目的を達成したいって気持ちは分からなくもねえが、それはお前さんが悪いで」
俺は何故かフリーダイチに釣られてきたおっさんと風呂に入っていた。
縛られている俺を見て何事かと解放してくれ、俺は事の経緯を全て打ち明けていた。
「俺、依頼を達成したかっただけなんだ」
「そうだな。確かに結果は大事だ。
だけど、そこに至る経緯も大事なんだよ。ま、一番可哀想なのはそのロザリアっていう女の子だ。大丈夫、仲間なんだろ? 誠意を込めて謝れば許してくれるさ」
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おっさんに絆され、俺が目的達成には手段を選ばない冷酷な人間になっていたのはわかった。
たぶん、前世でも同じことを繰り返していたんだろう。
ぽつぽつと雨が降ってきた。
屋敷に戻ると……俺の荷物が外に出されていた。
ずぶ濡れになっている自分の荷物を見て、立っていられなくなった。
アイテムはインベントリに入れれば乾く。
でも、心はそうはいかない。
……とりあえず……ロザリアちゃんに謝ろう。
俺は、とぼとぼとライドウの家へと歩き出した。
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石レンガの家……木の扉をノックした。
「ダイチくん……入りなよ」
ライドウは、迎え入れてくれた……でも、少しだけ険しい顔をしていた。
ずぶ濡れの俺に、ライドウはタオルを手渡し、温かい紅茶を淹れてくれた。
「ロザリアちゃんは……大丈夫?」
「ああ、でも……部屋で泣いているよ」
「……ごめん。謝らせてくれないか」
「いや、できれば妹には近づかないでほしい。
妹はダイチくんにずっと憧れていた……でも、ダイチくんと会った後……泣いていた」
ライドウは優しい。本当ならブチギレてもおかしくないのに、言葉を選びながら、俺に伝えてくれた。
「一言でも……謝りたいんだ」
「ダイチくん……それで、満足するのはキミだけだよ……」
「……」
そうか、俺は自己中だったんだ。
ライドウの言う通りだ。俺は自分が楽になるために謝ろうとした。謝罪を受けるかどうかはロザリアちゃん次第だ。
「わかった……二人には本当に迷惑をかけた。紅茶とタオルありがとう」
俺は、それだけ伝え……家を出た。
外はまだ雨が降り続いていた。
振り向くと、窓からロザリアちゃんが俺を見ていた。表情から、彼女の気持は伺えなかった。
俺が頭を下げると、彼女はカーテンを閉めた。
どれだけ歩いたかは分からない。
行き場のない俺は、どこにいけばいいかわからなかった。
今日はここで家をクラフトするか……
雨音をかき分けるように誰かが走ってきた。
「スターナ……」
裸足だった。彼女の白く細い足は傷だらけになっていた。
「ダイチ。私は関係ないかもしれない。
でも……怒るね」
バチンっ――頬に熱が走る。
スターナが俺の頬を叩いたんだと、遅れて気づいた。
「スターナ……俺、取り返しのつかないことをした……俺……ごめん……」
彼女に謝っても仕方がなかった。
でも、止められなかった。
スターナが俺の体を支えるように抱きつく。
「うん。わかっているよ。私がそばにいるからね。私がそばで怒ってあげるから……」
怒られて悲しいのは数日で済む。
でも、怒られないまま人が去って行くのは一生忘れられない。
それが、分かっていたはずなのに……。
「スターナ……」
俺はテントだけクラフトして、城壁の隅にスターナとともに身を寄せ合った。
「つっ……」
彼女の素足に触れると、スターナの体がびくっと震える。
スターナの足に傷薬と包帯を巻く。
「ごめん……でも、どうして裸足なんだ?」
「みんなの話を聞いて、居ても立ってもいられなくなって……」
「そうなんだ」
「うん。ダイチへのイラつきと、でも……追い出したら可哀想っていうので、なんか気持ちがぐちゃぐちゃになっちゃった」
「スターナ……ありがとう」
俺を見限らなかったのは、彼女が初めてかもしれない。今までスターナやみんなに甘えていた。
俺の人間性をみんなが受け入れてくれてたから、共同生活を送れていたんだ。
「少しずつでも変わらないとな……」
「今のままでもいいんだけど、さすがに今回はロザリアちゃんって子が可哀想だったかな」
「そうだよな。もう、会わない方がいいんだろうな」
「許すかどうかは相手次第だからね。今日は私も疲れたよ……」
雨足が強まる。それでもスターナのイビキの方が大きかった。
やっぱり、こいつのイビキはうるさい。
でも、寂しさは紛れたかもしれない。




