第34話 鬼畜過ぎる初依頼
クエスト名:ティッシュ配り
クエスト内容:王都の市民にギルド名を喧伝しながらティッシュを配ろう!知名度こそ一人前の証、千里の道も一歩から、ローマは一日にして成らず。
地道な積み重ねこそが、大成への道!
さぁ、頑張れ!若人よ!
クエスト条件:ティッシュを10000個配ろう。
パーティーメンバーに人数制限なし。
メンバーにおばさんがいた場合は一個渡せば、二個渡したことになるぞ。
なんだよ、この条件……ツッコミどころが多すぎる。
ファンタジー世界でティッシュ配り?
頑張れ若人っていうのに、おばさんボーナスがつくの?
しかも、おばさんって……コンプライアンスが騒がれる昨今、非常にセンシティブな表現だな。
あと、一個渡したら二個扱いってのも意味がわからん。
それに、依頼内容の煽り文も腹が立つ。
はぁはぁはぁ……駄目だ、ツッコミが追いつかん。
「くっ……嘆いていても仕方ない」
さっそく、予定が空いているメンバーに片っ端から声を掛ける。
❇
――俺はできるだけ人を集めた。
王都中央の噴水広場にティッシュ10000個が箱に小分けにされ、山積みで置かれていた。
とりあえず、おばさんってことで、アーシャさん、レメリアさん、ミスティを金で釣って確保した。
後は予定が空いていたリリムと梓にも協力してもらう。
「てか、なんで私がこんな……」
レメリアさんは不服そうに箱に入った大量のティッシュを抱えていた。
おばさんに該当するからなんて、口が裂けても言えない。
「リリムも手伝うから、一緒に配ろうよ!」
リリムがレメリアさんを引っ張り連れて行く。
「リリムがそう言うならいいけど……」
レメリアさんは何故かリリムには甘い。
お陰で助かったけど。
「なら、梓ちゃんは私と回りましょうか」
アーシャさんと梓ペアで行動を始めた
「は、はい!」
梓は以前より、明るくなった。
それに、気にかけてくれるアーシャさんを慕っている。
正直、個別で回ったほうが効率はいいが……効率だけでは得られないものもある。
期限はないんだ、気長に配るさ。
「さ、ミスティも行ってこいよ」
「な、妾はぬし様と回る流れじゃないのか?」
「何言ってんだ。俺は司令塔だ。有事の際は俺が対処しないといけない。そのためにも、ここで待機する」
「ぬし様だけ、サボるなんて許さない!
妾にも誰かつけてくれ!」
ミスティが子どものように地団駄を踏む。
1000年以上生きてきた魔女なのに、何を言っているんだ。
「あれ、親友じゃないか!」
ライドウと妹のロザリアが通りかかる。
「……どうもです」
ロザリアちゃんとはあれ以来、会っていなかった。
フリルのスカートを揺らして、さっとライドウの影に隠れる。
「待てよ……ちょうどよかった!」
パーティ編成→ライドウ、ロザリア加入。
「よしっ、ライドウ、お前はミスティを手伝え」
俺はライドウの背中を叩く。
「ダイチくん……話が見えないんだが……この方は創世の魔女殿だよな?」
「うむ。妾は創世にして原初の魔女!
崇め奉るがよい」
ミスティは翡翠の髪を揺らし、腰に手を当てる。
「ライドウ、ティッシュ配りを手伝ってくれ」
「えっ、なんで僕が?」
「俺たち親友だろ」
「……親友……そうだな。親友なら、困っている友を見捨てるわけにはいかないな」
よしっ、相変わらず扱いやすい奴だ。
「さ、ミスティの世話を頼んだぞ。
人様に迷惑をかけないように見張っててくれ」
「ああ、任せてくれ!」
ライドウは胸に拳を掲げ、瞳に炎が宿る。
「妾は迷惑なぞかけぬわ!」
「ほらほら、早く行けってば!
配り終えたら、イライラ亭のチーズハンバーグを奢ってやるから」
「なぬっ! イライラ亭のチーズハンバーグだと! ジュル……」
ミスティの口から大量の涎が溢れ出す。
「ライドウ、汚いから連れて行ってくれ」
「わかったよ。ロザリアをよろしく頼む」
「おう」
二人を見送ると「あのー」
ロザリアちゃんのかすかな声が響く。
「ロザリアちゃん。手伝ってくれてありがとう。俺にはやっぱりキミが必要なんだ!」
「ダイチさん……てっきり私のことなんて、嫌いになったのかと……私、頑張りますね!」
ロザリアちゃんがようやく笑ってくれた。
憂いを帯びている表情もいいが、彼女は笑っていた方が何倍も可愛い。
❇
とりあえずロザリアちゃんは大量のティッシュが入った箱を両肩に抱える。
「ダイチさん……もしかして、私が必要っていうのは……」
「ああ、やっぱり力持ちがいると助かるよ」
「ダイチさん……ひどいです」
「ん? 何か言った?」
「なんでもないです!」
何故か、ロザリアちゃんからまた笑顔が失われた。せっかく、彼女の怪力を活かす場面を作ってあげたのに。
「どうも……ギルド、スターダストです!」
ティッシュを手渡そうとするが、見向きもされない。
「ダイチさん……私が変わりましょうか?」
「いや、俺だってこれぐらいできるから」
ここから3時間……渡せたティッシュはわずか3個……あれ……俺ってばもしかして無能?
この世界に来て、少しはできる奴だと勝手に自負していた。
そうだ。昔の俺と何ら変わらない。
人付き合いが苦手な陰キャ野郎だ。
「ダイチさん。大丈夫です。私もいますから」
ロザリアちゃんが優しく慰めてくれる。
……ん、待てよ。ロザリアちゃん?
「そうか!」
「ダイチさん……どうされたんですか?」
俺はロザリアちゃんが抱える箱にデカデカと文字を書く。
☆フリーおっぱい☆
ティッシュをもらってくれた人限定で、
この子の胸を5秒間揉み放題!
よしっ、我ながら名案だ!
「ちょっとダイチさん!何書いているんですか!
私、そんな娼婦みたいな真似、しませんよ!」
「えっ……名案だと思ったんだけどなぁ。
フリーパンツでもだめ?」
「ダメです!」
二人で揉めていると、背後から声がかかる。
「ねえねえ! これって本当?」
振り向くと桃色の髪を揺らす、バニーガールが煙草を更かしながら立っていた。
「あっ、あなたはギルドの受付の……」
「あれ、新米くんじゃん。
あたいメルリカ。よろしくねー、てか、この子揉んでいいの?」
メルリカさんは両手の指を小刻みに動かす。
「ロザリアちゃん、女性ならいいんじゃない?」
「てか、5秒って短くね?」
「もらってくれた個数✕5秒でどうだ?」
「ちょっと待ってください!
お二人で話を進めないで……」
「お姉さんちょうど女の子に飢えてたから、ラッキー! お兄さん、終わった時間から逆算してティッシュちょうだいよ」
「毎度あり!それなら、特別にフリーロザリアちゃんにしてあげるよ」
「なんですか、フリーロザリアって!
ちょっと、待ってください……人目があるので恥ずかしいです……」
「そらなら……」
俺はクラフトメニューを操作する。
路上に浴室をクラフトする。
「この中なら壁もあるし、汚しても問題ないぜ」
「えぇー、ほんとにやるんですか?」
「まあまあ、女同士だからいいじゃない?」
ロザリアちゃんは、メルリカさんに引きずられ浴室に連れてかれた。
「はいはいーロザリアちゃん。脱ぎ脱ぎしましょうね!」
「ちょっと、メルリカさん……恥ずかしいですよ」
中を覗きたかったが、ロザリアちゃんに殺されるのはもう懲り懲りだ。
今は音声だけ、楽しむとしよう。
「ロザリアちゃん、めっちゃ大きいじゃん!
サイズいくつあんの?」
「……Fですけど……」
えっ、そんなにあるのか!
結構着痩せするタイプなのかな。
いや、所詮トップとアンダーの差。
実際の体積は実物を拝まないと判定できない!
「ふふふ、お姉さんも溜まっているからねえ。
今日はとことん遊ぶわよ」
「や、やめてください。く、くすぐったいです」
メルリカさん、完全に中身はおっさんだな。
ロザリアちゃん……依頼のためとはいえすまない。
キミのことは忘れないよ……。
――4時間後。
「メルリカさん、私、これ以上はおかしくなっちゃう……もう、ダメです」
「ロザリアちゃん、快楽の先の真理を見つけるのだ」
完全にやばい方向に行っているな。
だが、もう後戻りはできない。
――さらに2時間後、ようやくメルリカさんだけ、外に出てきた。
彼女の頬が心なしかテカテカしている気がした。
「ふぅ、久々にストレスを発散できたよ」
メルリカさんは額の汗を拭う。
「毎度あり。それでは、お渡しするティッシュが……ざっと4320個だね」
俺は大量の箱をメルリカさんの横に置く。
「これ……全部?
あたいこんなに持てないよ……」
「なら、代わりに1時間5万円の正規料金を支払ってくれてもいいんだよ」
やっていることは風俗となんら変わらない。
我ながら最低だとは思う。でも、ここでティッシュを突き返されては、ロザリアちゃんの犠牲が無駄になる。
「うぅ……あたい……そんな金ないよ……」
「なら、お姉さん。使い物にならなくなったロザリアちゃんの代わりにここで大人のティッシュ配りをするかい?」
「ひっ……あたい……男は苦手なんだ……可愛い女の子なら……」
「おい、舐めたこと抜かすんじゃねぇよ。
客を選べる立場にあるとでも?」
あれ……俺、完全に悪役じゃね?
「ダイチさん……これはどういう状況ですか?」
アーシャさんと梓がティッシュ配りから帰ってきた。
「このお風呂なんなのよ……」
梓がお風呂の中を覗く。
「って、この子大丈夫なの?」
やばい、ロザリアちゃんが見つかった。
「ダイチー! 帰ったぞー! リリムたくさん配った!」
まずい、リリムとレメリアさんも帰ってきた。
「実は、かくかくしかじかで、
ダイチさんに脅されてて!」
メルリカさんが全てを掻い摘んで、ことの経緯を説明する。
「いや、誤解だって……」
説明しようと思ったが……場の空気が尋常じゃない。
女性陣の刺すような視線――舌打ち――キモい――最低――くず――変態――童貞……。
ありとあらゆる罵声が小声で聞こえてくる。
❇
俺はパンツ一丁で浴槽の中で縛られていた。
「それじゃあ、フリーダイチ……頑張ってくださいね」
普段優しいアーシャさんが貼り付いたような笑顔で俺を見下す。
去り際に唾を吐きかけられた。
梓はロザリアちゃんを抱え、「いっぺん死ね……」とだけ言い残し去っていった。
リリムだけは心配そうに俺を見ていたが、レメリアに引きずられていった。
浴びせられた言葉以上に、これまで積み上げてきた信頼が崩れ去る方がきつかった。
因果応報……全て自分が撒いた種だ。
ミスティとライドウには見られなかっただけでも良しとするしかない。
「おっ、初物の男か……ティッシュを貰うだけで遊べるのか?」
外から渋い男の声が響く……舌舐めずりをしているのが音でわかる。
ああ、せめて女性だったらどれだけよかったか。
俺は目を閉じた。
走馬灯がよぎる――今夜のことは一生忘れないだろう。




