第33話 共に
アーシャさんから一通りギルドの手続きの説明を受けた。
この国でのギルドの役割は、依頼をこなして報酬を受け取る。それだけだ。
ギルドは、国命を受け動くこともあるそうだが、基本的には特定の国には所属しない傭兵のようなものらしい。
ギルド登録を済ませるには二名以上のメンバー登録と、結成の手数料10万円が必要とのこと。
ストーリー上、ギルドを立ち上げる必要がありそうだ。
登録時に一名は同行者が必要なのか……全員、連れて行く必要はない。誰か一人を選ぶなら……俺の心の内は決まっていた。
スターナの部屋をノックしようとして、一瞬手が止まる。
――ふぅ……俺は呼吸を整え、扉を叩いた。
「スターナ、少しいいか?」
「なに……」
彼女は無表情だったが、あっさりと部屋から出てきてくれた。
「ギルド登録するから、一緒に来てくれ」
「別に、私じゃなくてもいいじゃない……」
「何言ってんだ。誰か一人を選ぶならスターナ以外にいないだろ?」
「うん……」
スターナの瞳がかすかに潤む。
「ちょっと、待ってて……着替えてくるから」
断られたらどうしようかと、内心はひやひやだったけど、よかった。
❇
互いに言葉は交わさなかった。
俺が先導して彼女が後ろを歩く。
近づくことも、遠ざかることもない。
違う歩幅、違う速度、
それでも、二人の距離は変わらなかった。
ギルド協会――北門付近に目立つように建っている、赤レンガの一軒家。
扉を開くと、バ二ーガールの受付嬢が立っていた。
「こんちはー、今日は何用?」
やる気のない声のやさぐれたバニーガールが、カウンターに両肘をついて出迎える。
俺……人生、初バニーなのに、なんか少しだけ大事な物を失った気分になる。
「ギルドを作りたいんだけど?」
「お二人さんね。血判とギルド名を記載して、10万円支払ってねー」
「血判?」
お姉さんがどこからかナイフを抜き、俺の手を掴む。
「ちょっと、何をする気ですか?」
「見てなって」
お姉さんはそう言うと、俺の親指の腹をナイフの刃で軽くなぞる。
血が流れ出すと、差し出した書類の上にやや強引に押し付けられた。
「あとは隣に名前書いてねー」
なるほど、血の判子ね。
俺は言われるがままに名前を書いた。
スターナも俺にならう。
続いて10万円を振り込む。
「ダイチ、ギルド名は決まっているの?」
スターナの低い声が響く。
「ああ、“スターダスト”で登録してくれ」
「あいあいー毎度ありー」
お姉さんは軽く手を振り、あっさりと登録を終えた。
【チャプター6c-1 完了 チャプターを進めるには、ギルドランクを上げてください】
あっさりとチャプタークリアだ。
しかも、珍しく親切に次の目標が表示されている。
さっそく、ステータスバーにギルド名が反映される。
ギルド:星屑
ランク:E
「とりあえず、明日から依頼をこなすか」
この物語がどれだけ続くかはわからない。
でも、いつかは終わりに辿り着く。
そうなれば、俺たちはどうなるのだろう。
「ダイチ……このあと、時間ある?」
「あ、ああ……どっか行くのか?」
「うん」
スターナは何も言わずに足早に進む。
俺は置いていかれないように、足並みを合わせる。
❇
ここは……雑貨屋か?
木組みの出店――その片隅に、いくつか髪留めが売っていた。
「お父さんからここで、髪留めを買ってもらったんだ」
スターナは、俺が買った黄色の星形の髪留めと、
父親に買ってもらった色褪せた水色で星形の髪留めをしていた。
「新しく買い替えるのか?」
「まあね」
自分の買ってあげた髪飾りが付け替えられると思うと……少し寂しかった。
スターナは水色の星形の髪飾りを購入した。
袋から取り出し、俺の目の前まできた。
「ダイチ……動かないでね」
彼女は背伸びをして、俺の頭の後ろに手を回す。
「あれ、意外と難しいな」
彼女の吐息が鼻にかかる。
俺の襟足を触りながら何かをしている。
「よしっ! できた!」
スターナが俺の襟足をまとめ上げ、おさげにしてくれた。
「なんだ、これ?」
「ダイチってば、髪が伸びてきたでしょ……
これで、ペアルックだから……」
スターナは視線を逸らし頬を赤らめた。
何故か言葉尻になるにつれ小声になる。
「ありがと……」
彼女の意外な行動に上手く言葉が出ない。
「な、なによ。もう少し、喜んだら?」
「わーい。やったー」
「なんで棒読みなのよ!」
「冗談だよ。ペアルック……悪くないな」
なんか、言っているこっちが恥ずかしくなる。
「なんで、あんたが恥ずかしそうなのよ!
いやなら、返してよ!」
スターナは背伸びをして、俺の襟足に手を伸ばそうとする。
俺は、軽く前かがみになり、彼女の唇にキスをした。
「……ん!? ちょ、ダイチ……今……」
一瞬だった。かすかに唇が触れた。
「悪い……」
「悪いって……事故だからって許さないわよ……」
スターナは唇を押さえ、頬が紅潮していた。
「事故じゃねえよ、わざとだよ」
スターナの額を人差し指で軽く押す。
「なら、なお悪いじゃない!」
スターナが両手を挙げて喚き出す。
「ほら、帰るぞ」
俺は踵を返し帰路につく。
「ちょっ、待ちなさいよ!」
背後からスターナの足音が速くなる。
街並みを歩く二人は、並んでいた。




