第31話 魔剣
ガスタージャに案内されるまま、魔王幹部の城に到着した。
燃えるように朱い花が咲き乱れる異様な城。
甘い香りが異臭を打ち消すほどだった。
「なんだ……お前か……」
ラバー素材の黒服に身を包んだ赤毛の女が、テーブルの上に脚を上げ、こちらを睨む。
魔族なのに、肌が白いな。
傍らには紫色の歪な輝きを放つ魔剣――
あれさえ奪えれば……。
城には他に魔族は見当たらない。
それだけ、自分の腕に絶対的な自信があるということか?
「レメリア殿――本日は紹介したい者がいまして……」
「ちっ、なんだお前は?」
彼女の太ももを凝視していると、
不機嫌そうな声で彼女は、こちらに話を振る。
「俺はダイチ……単刀直入に言うと魔剣が欲しい。
もしくは地上に帰る道を探している」
彼女は机の上で脚を組み替える。
「魔剣がほしけりゃ10億持ってこい!
話はそれからだ。それに、地上に抜ける道があるなら私が知りたい……」
「彼女は魔剣の使い方をまだ把握していない。
もし、次元の狭間から地上へ飛べることを知ったら……侵攻してくるやもしれぬ」
ガスタージャが俺に耳打ちをする。
「それにしても、この城……臭いな……」
ミスティが空気を読めず鼻を押さえる。
排泄物の臭いよりはマシだが、香水の原液を直接浴びせられたような強い香りだ。
「はぁ!? 仕方ねえだろ!
一ヶ月前から空から奇妙な物体が降ってくるようになったんだから。こっちも、未曽有の災害で困っているんだ」
レメリアと呼ばれた幹部は頭を抱えていた。
……ん? 一ヶ月前?
俺この国に転生した時期と近いな。
欠けたピースが頭の中で埋まっていく……あっ!
そうか、トイレに流されたガスタージャが、魔界にいたことで驚愕の事実が判明する。
地上の……正確にはアルスタイン王国の排泄物が、魔界に垂れ流しになっているんだ。
……つまり、元を辿れば、魔界が排泄物まみれになったのは俺のせいでもある。
それなら話は早い!
「もし、俺がこの災害を収めたら、その魔剣……くれませんか?」
「なに? なんとかできるのか?」
「ああ、任せろ!」
「分かった。そこまで言うならやってみろ……ただし、嘘だったら……その時はわかるな?」
レメリアから刺すような殺気が放たれる。
「ひっ……」
ガスタージャはミスティの背後に隠れた。
「大丈夫だ。そっちこそ約束は守れよ?」
「ああ、ウチは約束を違えたことはない」
彼女のニヒルな笑みに、こちらも笑顔で返す。
「よしっ、そうと決まれば行くぞ下僕ども!」
「誰が、下僕だ!」
怒るミスティとガスタージャを連れ、城の外に出た。
「おい、ダイチ殿……本当に大丈夫なのか?」
「ああ、クラフトで下水処理場をいくつか作れば問題ないだろ」
流れでなんとなく習得していたからよかった。
使い道が無いかと思っていたが、こんなところで役に立つとは。
❇
そこからは早かった。下水処理場をクラフトして、ラインを地上のトイレに引く。
これは、ほぼ自動で行われるので一瞬で終わった。
正直、ゲームでこの機能いつ使うのか甚だ疑問だが、今回は制作陣のお遊びが役に立った。
レメリアの部下にも協力してもらい、一帯の排泄物を片付けてもらった。
数日で臭気は消え、魔界の空気も本来の禍々しさを取り戻していった。
解決の目処が立ち、レメリアのところに再び訪れた。
城を覆い尽くしていた花が全て処分されていた。
一人もいなかったレメリアの部下が城に戻っていた。
……なるほど、この花の匂いが強くて、部下たちは寄りつかなかったのか。
「お前、やるじゃねぇか!」
レメリアのアツい抱擁が俺を包む。
「れ、レメリアさん……痛いです……」
こ、殺される……。
「おっと、すまなかった。ほら、約束の魔剣だ」
レメリアが魔剣を俺に投げ渡す。
「おっと……」
直後、俺たちは歓声に包まれる。
俺が原因だが、黙っていた方がいいだろう。
バレたらどんな目に遭うかわからない。
「おおっ、我が魔剣……」
ガスタージャが俺に手を差し出す。
魔剣ヨグ=ソトースか……ガスタージャに返す義理はないよな。
“魔剣発動・次元斬”
俺は魔剣を振り、ガスタージャを地上へ返す。
「あっ、おい! ダイチ殿! また、謀ったな!」
「ガスタージャ、達者でな!」
次元に吸い込まれるガスタージャを手を振り見送った。
地上のどこに出るか、わからないけど。
「さて、俺たちも帰るか」
ミスティの手を握る。
「ちょっと、可哀想じゃないか?」
「いいんだよ。あいつ、敵だし。なんも活躍してないし」
魔剣ヨグ=ソトースか、厨二感をくすぐられていいな。レベル1の俺でも多少は戦える術が欲しい。
「おい、待ってくれ!」
突然、レメリアが俺の服の袖を掴む。
「なんだ、どうした? 魔剣は返さないぞ」
「いや、そうじゃなくて……その魔剣で地上に出れるのか?」
「そうだけど……地上を侵攻するってのか?」
「そんなことはしない。私は人間だからな」
「「えっ?」」
ミスティと声が重なる。
確かに、人間っぽい見た目ではある。
だが、万が一違った場合が……厄介だ。
レベル6523……たぶん地上では誰もレメリアを倒せない。
「ダイチ……」
ミスティが不安そうに俺を見ている。
「ダイチ……頼む!」
レメリアは額を擦りつけ、土下座する。
「はぁ、わかったよ……」
こういうのには弱いんだよな。
「ダイチ、いいの?」
「ミスティ、心配すんな。何かあればこいつを魔界に送り返してやるから」
「二人ともありがとう!」
レメリアは俺たち二人を抱きしめる。
「いだだだだ! やめてくれHPがゼロになる!」
「妾も……死ぬ……」
「おおっと、すまない。その魔剣、私には扱えないんだ。次元を開いてくれ!」
「へぇ、魔剣に適正なんてあるんだ」
「うむ、魔剣は持ち主を選ぶからな」
「なんかミスティの言い方だと、まるで生きているみたいだな」
「魔剣は神や悪魔を封じ込めた武器だから」
へぇ、そんなオシャレな設定が……。
「っと、雑談は帰ってからでいいな」
俺はヨグ=ソトースを振り、次元の扉を開く。
❇
光の先に、見慣れた景色が広がっていた。
心地よい夜風が、懐かしい香りで鼻を満たす。
ようやく帰って来れた!




