第29話 汚染
絶望の中、熱気が肌を刺す。
排泄物のような不快な臭いが漂っている。
「ぬし様……ひどい……」
あっ……ミスティの服を引っ張ったせいか、ドレスが破れていた。
「ミスティ……グッジョブ!」
彼女の下着姿に思わず、称賛してしまう。
「ぬし様……早く、衣装を出せ! 殺すぞ!」
ミスティが胸を隠しながら、震えている。
「仕方ない」
パーティー→装置→衣装→ミスティ。
うーん。何の衣装がいいかな。
スク水、ブルマ……あれ?
通常衣装を選択すれば、破れた服も元に戻るのか……いや、せっかくの機会だからもったいない。
ある衣装を選択する。
瞬時に反映された。
黒タイツとガーターベルトが白く細い脚を彩る。
黒と白を基調としたメイド服に身を包んだミスティは、どこか不機嫌そうにこっちを睨んでいた。
腰まで届く翡翠色の髪はさらさらと揺れ、白いフリルのカチューシャが頭上を飾る。
これは、想像以上に……
「かわいい!」
「えっ、ぬし様……妾、可愛いか?」
褒められ慣れてないのか、ミスティは目を伏せ頬を紅く染める。
「ミスティは元から可愛いからな」
「ぬし様……」
「ミスティ、せっかくだから、ご主人様と呼びなさい」
「ご……ご主人様?」
「うっほー!」
両手に手を高く上げ、舞い上がる。
なんて、甘美な響きなんだろう。
って、そんなことをしている場合じゃなかった。
どれだけ落ちた?
空を見上げるが……地上すら見えなかった。
……落下ダメージがなかったのは不幸中の幸いだな。
死んでリスポーンした方が早そうだが。
バグが怖いな。万が一、ミスティを失ったら……俺は立ち直れないかもしれない。
試すのは最終手段だ。
❇
俺たちは朱い荒野を延々と歩く。
魔界には10メートルはある化け物が、そこら中を闊歩して飛び回っていた。
オニトンボ……2525レベル。
バキュラ……3252レベル!?
既に数字がぶっ壊れている。
これは確かにエンドコンテンツだわ。
「ふっ、久々に魔女の血沸くの!
妾の名は創世の魔女――ミスティ!
いざ、尋常に勝負!」
アホの子、ミスティがモンスター相手に名乗りをあげる。
俺は慌てて、ミスティの口を塞ぎ、岩陰に身を隠す。
「馬鹿野郎……お前、余計なトラブル増やすなよ。ミスティよりもレベルが高いんだぞ!」
俺は、膨大な経験値をもらっても、レベルアップができないから、マジで戦う意味がない。
ボトッ……空から何か落ちてきて、ミスティの頭に乗っかる。
「何だこれは……?」
ミスティが頭に乗ったそれを触る。
不快な臭いを撒き散らしながら。
「うぐっ……くさっ、ミスティ臭えよ!」
これは、排泄物!?
……なんで、空から?
「ぎゃあああ!」
ミスティが半ばパニックに陥る。
「ミスティ、落ち着け! バレるって!」
このままじゃまずい、モンスターに見つかる。
俺はクラフトメニューを開く、
クラフト→建物→横穴式住居。
岩にクラフトを反映させて、岩屋を造る。
ミスティを抱えてすぐさま飛び込んだ。
水着に着替え、二人で湯船に浸かった。
「魔界怖い……魔界怖い……」
ミスティは排泄物を浴びたショックで、ひどく怯えている。
「ダイチ……怖い、妾を抱き締めて……」
ミスティが泣きながら両手を伸ばす。
「うっ……」
微かに排泄物の臭いが漂ってくる。
「臭いからか、近づかないでくれ……」
「うっ、うわぁぁぁぁん」
創世の魔女が泣き出した。
1000年以上生きている彼女が泣くとは……魔界恐るべし。
スク水衣装のミスティを抱き締めたいのは山々なんだが、臭いのはちょっと……。
これからどうするかねぇ。
素材はたんまりあるからクラフトには困らないけど……食べ物がないのがきついな。
死ぬことはないけど、空腹がずっと襲ってくるってのもなあ。
「ミスティ、こっちにおいで」
俺はミスティを座らせる。
クラフトでシャンプーとボディーソープをボトルで作る。
「これ、どうするのだ?」
今まで、素材が希少であったため、シャンプーとボディーソープは自分用にしか作っていなかった。
それに、もともとお風呂やシャワーに馴染みのないこの世界の住人は使用方法も分からないだろうし。
「俺が、洗ってやるから目を閉じてろ」
ミスティの頭をシャカシャカと洗ってやる。
「ぬし様……これ、気持ちいい……ふぎゃー、目がー目が痛い!」
「だから、目を閉じとけって言ったろ」
ミスティの頭を流しながら、目を洗ってやる。
「ったく、子どもみたいだな」
「むぅ……ぬし様が悪いんだ……」
「ほら、ボディーソープもあるから、自分で体を洗えよ」
「ぬし様……洗って……妾、やり方わかんないから」
「えっ……いいのか?」
ミスティはこくりと頷く。
背中を向けていたので、彼女の表情までは窺えなかった。
摺りタオルは無いため、素手でボディーソープを泡立て、ミスティの白い肌に手を伸ばす。
スク水があるとはいえ、異性の体にしっかりと触れるのは……これが初めてだ。
ごくり……生唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえる。
背中、肩、手足、お腹……ゆっくりと彼女の体に手を這わせる。
「ん……ぬし様……くすぐったい」
ミスティの艶めかしい声に、理性が飛びかける。
「ミスティ……このまま全部洗うのか?」
ミスティは何も言わない……洗っても良いってことだよな?
何か喋ってないと、どうにかなりそうだ。
「ミスティの肌……歳のわりに綺麗だな」
ミスティが俺の手を払い除けて、振り向く。
「えっ……?」
「死ねっ!」
彼女は、俺をおもいきり突き飛ばした。
「ふぎゃ!」
俺は湯船にダイブする。
「もういい。自分で洗うから!」
ミスティは顔を背け、自分で洗い出した。
何がまずかったんだ……女心は難しい。




