第27話 影の薄いライバル
なんとか逃げ切れたが……これから、どうする?
行く宛もなく、彷徨うのもな。
クラフトで家自体は作れるけど……。
「おっ、盟友ダイチくんではないか?」
馴れ馴れしい声が響き、見知らぬ金髪の少年が手を振って近づく。
「誰だお前?」
「キミはいつになったら僕の名前を覚えてくれるんだ。親友でありライバル設定のライドウだよ」
設定って言っちゃっているし。
「なんだ、お前か……」
「なんだとはヒドいな。それより、今日はお出かけかい?」
「お出かけっていうか……あっそうだ!
ライドウ、お前の家に泊めてくれよ」
これは名案だ。
「別に構わないけど……妹がいてよければ……」
「おっ、妹か……いいねぇ」
俺は舌舐めずりをする。
「ダイチくん。悪意はないのだろうけど、時折、キミが恐ろしく感じる時があるよ……」
っと、欲望があふれていた。
「安心しろ。親友の妹に手を出すわけないだろ?」
「あぁ……親友……なんと、甘美な響き……」
なんか、感涙にむせいでいるな。
こいつ、イケメンなのに残念キャラだよな。
「ま、汚いところだろうけど、早く案内してくれ。腹が減った」
「それは、僕のセリフな気もするが、親友の頼みとあらば、応えるのが道理というもの……さあ、ついて来てくれたまえ」
❇
ライドウに案内されるがまま、彼の自宅に訪れる。
市民街――何の変哲もない中流階級の家か。
「ロザリア……ただいま!」
「お兄様、お帰りなさい」
エプロン姿の長い黒髪の少女が出迎えてくれる。
お淑やかな雰囲気で育ちは良さそうだ。
「今日は、お客様が来ててね」
「始めまして、英雄ダイチです」
吐息多めに挨拶をする。
「あなたが……噂の……」
おっ、いいねぇ、どんな噂だ?
主人公ってのも悪くないな。
「ああ、この人が王都の英雄だよ」
ライドウが、ロザリアと呼ばれた少女に俺を紹介する。
「私は、ロザリアと申します。
兄がいつもお世話になっています」
「いえいえ、こちらこそ兄君にはいつも助けられているよ」
「なんか、ダイチくん。
いつもと話し方が違わないかい?」
俺は、ライドウに腹パンする。
「ぐっ……」
「はは、何を言うライドウくん。
私はいつも気品溢れる人格者ではないか」
「ふふっ、面白い方ですね。“トイレの神様”は」
ロザリアが口元を押さえ、クスリと笑う。
……って今なんて言った?
「あれ、ロザリアさん。聞き間違いかな?
僕のことなんて呼びました?」
「えっ、トイレの神様……王都にトイレとお風呂を広めてくださった方ですよね?」
「なんでだよ! それなら、せめてお風呂の神様にしてくれ! トイレの神様はなんか嫌だ!」
「いえいえ、ダイチさんのお陰で皆、助かっていますよ」
「あれ、みんなトイレするの?」
NPCはトイレをしなかったはず。
「はい、ver2.1からアップデートでNPCのトイレ動作が追加されました」
ロザリアからメタい説明がされる。
「このゲームって、アップデートとかされているかよ! てか、運営陣! いらないアプデをする前にバグとかゲームの粗を改善しろよ!」
「ロザリア、驚かせて悪いね。ダイチくんは少し、激しい方なんだ」
「ふふ、賑やかでいいじゃありませんか。
ダイチさんの分のお夕飯も急ぎで準備しますね」
❇
ライドウと向かい合い、椅子に座る。
その横のキッチンで、ロザリアちゃんが手際よく料理を始める。
「良い妹さんだな」
「おい、ダイチくんといえど、妹はあげれないぞ!」
「別に狙ってないよ。
それに、ロザリアちゃんも俺みたいな男に嫌だよな?」
「……そんなことありませんけど……」
ロザリアの声が包丁の音で掻き消される。
黒曜の包丁?
珍しい物を使っているな。
「ダイチくん、そう言えば自宅で何かあったのかい?」
さすがに昼間の件は話せないな。
❇
食卓も済み、寝る準備に入る。
この世界は夕食後、3時間程で皆、就寝する。
夜が早く、朝も早い。
「ダイチくんはどこで寝ようか?」
「私の部屋のベッドを使ってください。
私が床で寝ますから」
ロザリアちゃんから思わぬ提案をされる。
「おい、駄目だ! そんなのお兄ちゃんが許さない!」
ライドウがロザリアに詰め寄る。
「お兄様のお部屋、狭いじゃありませんか。
ダイチさんに失礼じゃないですか」
「いや、ダイチくんは、いい人だが……危険な男なんだ」
ライドウのやつ、よくわかっているじゃないか。
俺は、ロザリアちゃんにバレないように、
ライドウの、背中に数発拳を撃ち込む。
「ぐっ……」
ライドウのHPが瀕死になり、気絶する。
「お兄ちゃん、眠たいみたいだな。
俺が部屋に寝かせておくよ。それが、終わったらロザリアちゃんの部屋に行くね」
「すみません、兄がご迷惑を……疲れていたのかしら?」
ロザリアちゃんにはバレていないようだ。
ライドウを部屋で寝かせた後、ロザリアちゃんの部屋に入る。
❇
ロザリアちゃんは優しい。
俺をベッドに寝かせて、自分は床で横になる。
布団から百合の香りが漂う。
「くしゅん……」
ロザリアちゃんがくしゃみをする。
彼女は薄いタオルケットだけ羽織っていた。
「ロザリアちゃん、場所変わるよ?
俺なら床で大丈夫だから」
「そんな、悪いですよ……それなら、その……一緒に寝ませんか?」
「えっ?」
突然のラブコメ展開に驚く。
多少の期待があったとはいえ、童貞にこの展開の急さはハードルが高い。
「ごめんなさい……そうですよね。
私みたいな女性、ダイチさんには相応しくないよね」
ロザリアちゃんは急に立ち上がり、部屋を出ようとする。
俺は、気づけば彼女の腕を握っていた。
「ダイチさん……私なんかでいいのですか?」
スターナの顔が一瞬よぎる。
でも、ここで行かなければ男じゃない!
「ロザリアちゃんがいいんだ」
彼女が俺の胸に飛び込み、そのままベッドに倒れ込む。
「ダイチさん……私、魔法の才能がなくて……この国では落ちこぼれで……本当の私を知ったら、ダイチさんは幻滅してしまう」
「ロザリアちゃん。そんなことない。世の中、魔法が全てじゃないさ。俺だって魔法は使えない」
レベルだって上がらないし。
「ダイチさんは優しいんですね……」
初めてのキスは少しだけ塩っぱかった。
夜の帳に包まれて俺たちは眠りについた。
❇
ふぅ、朝日が眩しいぜ……。
大人な展開はなかったが、謎の全能感が俺を支配する。
「ダイチさん、おはようございます。
結婚式はいつになさいますか?」
隣でロザリアちゃんの上目遣いが、一気に俺の脳を覚醒させる。
「えっ、結婚式?」
あれ……ストーリーが飛んだ?
そんな、仲まで進展していたっけ?
「子どもは6人は欲しいですね。ダイチさんは日暮れまでに帰ってきて、私にキスをするの。1日最低、20回のキスと40回抱擁。愛していると100回は言ってくださいね♡」
あれ……もしかして、この子……やばい……。
不穏な空気が漂い始めた。
「お兄様が邪魔ですね。追い出して、犬小屋にでも住まわせましょうか」
やばい、やばい、やばい。
ロザリアちゃんの瞳孔が完全に開いている。
俺は慌てて、起き上がり、部屋から逃げようとする。
ガシッ!
物凄い膂力でベッドに引き戻される。
俺は恐る恐るロザリアちゃんのステータスを参照する。
ロザリア
レベル563
HP157064 МP36
物理15326 魔法6
防御6933 速度7526
この子、魔法の才能が無い代わりに、物理の才能に溢れているんだ。
単純なステータスで言えば、ガスタージャの数倍は強い。
「ダイチくんっ!」
ライドウが部屋に飛び込んでくる。
「くっ、遅かったか……ロザリアは幼少期に父親を亡くしてから、大人の男性に焦がれるようになった。しかし、力が強すぎるあまり抱きしめただけで男を殺してしまう……」
「またかよ、その後出し設定の羅列をやめてくれ!とんだ、化け物じゃねえか!」
あっ、やばい……ロザリアちゃんが、わなわなと震えだす。
「ダイチさんなんて嫌いです!」
彼女のビンタ……いや、張り手……いや、ビッグバンが俺の体を粉々に吹き飛ばす。
俺は叫ぶ間も無く、意識が飛んだ。
❇
ふぅ、リスポーンしてくれたおかげで、なんとかベッドに逃げることができた。
「あの、怪力女……あんなの嫁の貰い手が見つかるわけがない……」
「大丈夫ですよ。ダイチさんが貰ってくれますから」
なぜか、俺の上にロザリアちゃんが馬乗りになっていた。
「ひっ!?」
そうか、ロザリアちゃんのベッドで寝たからリスポーン地点がここに固定されたんだ!
「ライドウ! 親友だろ! 助けてくれ!」
部屋の扉から顔を覗かせているライドウに助けを求める。
「お兄様は見ない方がいいわ」
「ダイチくん……すまない!」
ライドウはピシャリと扉を閉めた。
「ダイチさん……時間はたっぷりあります。
二人で楽しみましょうね♡」
「嫌だー!」
その後、小森大地を見かけた者はいなかった。




