第25話 前へ
【チャプター 5B-2 勝利の美酒】
勝利を祝い、アルスタイン城で宴会が開かれる。
城の庭園で大皿に料理が並べられ、互いに盃を交わし合う。
ナージャ王女は、昼間の一件もあり、俺とは目を合わそうとしない。ガスタージャを倒すためとはいえ、ちょっと可哀想だったか。
それにしても、この国の設定はどうなっているんだ?
ここまで政を誰が取り仕切っているのか不明だし、参謀らしい人物もいなければ、ナージャ王女が舵取りをしているわけでもない。
本当に設定がガバガバすぎる。
今回はなんとか乗り切ったが、ガルデルド帝国と正面切って渡り合うのはきつい。
クラフトだけで乗り切るのは正直、限界がある。
できれば、アルスタイン王国の軍事レベルとかも把握しておきたいけど……ナージャ王女に聞いても、「設定にないから」の一点張りだ。
今後のストーリー展開次第だが……正直、ガルデルド帝国とは戦いたくない。
❇
酒も進み、梓が隣に座る。
「ダイチ、無茶苦茶だったけどクリアしてくれてありがとう」
「これぐらいわけないさ。
……ってお前、未成年だろ。なんで酒を飲んでんだよ」
「変なところで真面目ね。この世界は飲酒に年齢制限なんてないのよ」
梓はそう言って、銀杯の中の葡萄酒を飲み干す。
「そうなのか……でも、ほどほどにな。酔いつぶれても介抱しないぞ」
「あら、送り狼にならなくていいの?」
「お前なあ、大人をからかうんじゃないよ」
「……てか、大地って何歳なの?」
「26だけど……」
「思ったより、おっさんなのね」
「うっせえ、26歳はまだお兄さんだろうが」
「結婚は?」
「し、してねぇし、童貞だよ!」
「別にそこまで聞いてないんだけど……どんまい」
「そんな哀れむような目で見ないでくれ……引きこもりでニートだよ! なんか、文句あるのか!」
「大きい声出さないでよ。
大丈夫、大地なら戻ってもやり直せるわよ」
「適当なことを……俺なんてどうしようもない人間だよ……」
自分が無力なのは、誰よりもよく知っている。
――バシッ!
「いでっ!」
梓に思いっきり背中を叩かれる。
「ここまで、皆を助けてくれたじゃない。
この、クソみたいな世界から――」
あれ……どうして……目尻を抑えるが、涙が溢れて止まらなくなる。
「ちょ、泣かないでよ」
梓が、俺の頭をくしゃくしゃ撫でる。
「ああ、暴力女がまたダイチをイジメてる!」
リリムの声が響く。
「はぁ? 私は何もしてないわよ」
よく見えないが、二人が言い争いを始めた。
「二人とも、やめなってば!」
スターナの声も聞こえてきた。
こんな恥ずかしいとこ見られたくない。
――俺は逃げるようにバルコニーに出た。
酔いを覚まそうと、バルコニーの隅で壁に寄りかかる。
宴会の喧騒が嘘のように遠のいていく。
あれ……次第に瞼が……。
❇
……寝ていたのか。
目覚めると、宴会の余韻に紛れ、かすかに男女の話し声が聞こえてきた。
「アーシャ……いつまで、ダインのことを引きずっている」
「あなたには関係ないじゃない。別にいいでしょ」
「よくない! 私は……お前を……」
……やばい、今動くと気づかれるよな。
痴情の縺れってやつか。カーリンがギルドマスターで、アーシャさんがその団員だったはず。
二人ってそういう仲なのか?
なんとなく、いい気はしない。
暗くてよく見えないが、カーリンがアーシャさんの手を取る。
二人の吐息が重なる。
「やめて!」
アーシャさんがカーリンを突き飛ばす。
「すまない……君を傷つける気はなかったんだ」
カーリンは唇を噛み締め、そのまま宴会場へ戻っていった。
「……」
バルコニーの欄干の前に立つ、アーシャさんの肩が上下に揺れている。
――声を殺して泣いていた。
立ち上がり、アーシャさんの隣で、欄干に両腕を置き、寄りかかる。
「お姉さん、俺なんていかがでしょう?」
「ふふ、ダイチさん。今の見てたんですね……ヒドい人」
「すみません。寝ていたら、なんか揉めていたので」
「……ダイチさんは好きな人はいますか?」
突然の質問にうまく頭が回らない。
「好きな人……ですか」
スターナ、リリム、梓、アーシャさん、ミスティ……いろんな女性が頭によぎるが……誰が好きかと言われれば……分からない。
「私、夫のこと……愛していました。
でも、彼が亡くなって年月が経つにつれ……彼の匂い、仕草、笑顔が……どんどん記憶から消えていってしまうんです」
この世界に写真は存在しない。
もし、誰かとの思い出を遺したいのなら、記憶に頼るしかないのかもしれない。
俺の返答を待たずにアーシャさんの言葉が、溢れ出す。
「誰かに惹かれる度、薄情な自分に嫌悪してしまう。ダインのことを考えない時間が増えていく度に、彼への愛が嘘だったんじゃないかって……」
「アーシャさん……別に故人を思い出せなくなるのは悪いことじゃない。それだけ、アーシャさんが前に進んでいるってことだから」
俺も、ここに来るまで……亡くなった婆ちゃんのことを引きずっていた。あの家で、唯一俺に優しくしてくれた。
でも、この世界に来てから婆ちゃんのことを考えなくなった。
「でも、ダインはそんな私を許してくれないわ……」
「そうだな。俺がアーシャさんの夫なら、忘れられたら悲しい……」
「そうよね」
アーシャさんが目を伏せる。
「でも、それ以上に俺のことなんか忘れて幸せになってほしい」
そう言って、アーシャさんの頭を撫でた。
普段、俺たちの母親として頑張ってくれている。
たまには、俺が支えないとな。
「ふふっ、あの人と同じことを言っている……」
どの言葉を指しているか、俺には分からない。
星の無い夜に、少しだけ明かりが灯る。




