第24話 行方
ナージャ王女の視線の先――
一万もの軍勢が城門前でこちらに睨みを利かせていた。
「ガルデルド帝国は魔術を使えない代わりに、武術に優れている……寄られれば勝ち目はないぞ」
銀髪が風になびく。
「カーリン、お前までいたのか……」
ガルデルド帝国は物理特化の国か……物理優位の世界でこれはキツすぎる。
黒曜の鎧が煌めき、敵将が最前列に歩み出る。
「我が名はガルデルド帝国――十騎士が第三位――断空のガスタージャ。我らの目的はナージャ王女の御身――ただ一つ。王女を差し出せば、直ちに侵略を止めよう」
ガスタージャ……チャプター1-3の合同演習後にナージャ王女を攫った奴か……一人の王女にどうしてここまで執着する? 何か秘密があるのか……。
「大丈夫です。私たちには英雄が付いていますわ」
ナージャ王女が俺に微笑みかける。
ん……英雄って俺?
「ダイチくん。またキミと肩を並べて戦えるなんて……」
金髪に切れ目の青年が隣に立つ。
「……お前、誰だ?」
「なっ、ライドウだよ、ライドウ!
いい加減覚えてくれないかな!」
ストーリー上ではどうか知らんが、俺はほとんどお前と絡んだことはない。
城壁の上ではしゃぐ俺たちを見て、対峙する将軍は呆れを含んだため息を吐く。
「返答は無しか……仕方あるまい」
ガスタージャが背中に背負った剣を抜く。
妖しく輝く、アメジスト色の光が刀身を彩る。
「皆殺しだ――全軍、突撃っ!」
「ちょっと、あんたらがバカやっている内に来るわよ!」
梓が俺の服の襟首を掴み、体を揺さぶる。
「先の会話中に詠唱は終えている――」
“水魔法・タイダルウェイブ”
カーリンが手をかざすと、城壁よりも高い津波が出現し、前方一帯を呑み込もうと敵陣に迫る。
“次元斬”
カーリンが魔剣を一閃――一筋の軌跡が空間に刻まれる。津波が次元の狭間に飲まれていく。
「そんな……!?」
カーリンがカッコつけた手前、膝から崩れ落ちる。
「魔法は使えないんじゃなかったのかよ!」
「あれは、魔剣です……十騎士は各自、特殊な力を秘めた武器を携えていると聞きます」
アーシャさんがカーリンの体を支える。
「……ったく、仕方ねえ!」
射程はギリギリだな――
“クラフト木の柵”
クラフトメニューを操作して、進軍を阻むように横一列に木の柵を張り巡らせ、何列も重ねる。
やばい、動きがカクついてきた……処理落ちの限界が近い。まったく、処理落ちが不安なのに、軍団戦の要素なんか、入れるなよ!
仲間や衛兵たちが、足止めを食らっている敵に魔法で応戦しているが、鎧を着ている雑兵ですらほとんどダメージを与えられていない。
このまま行くと――負ける。
“重力魔法・メテオスコール”
“炎魔法・イグニートブレス”
スターナとリリムも負けじと魔法を放つ――やばい、動きがどんどん重くなる。
このままじゃ……カクつく世界の中、ミスティがトドメを刺す。
「ミスティ、待てっ!」
“雷魔法・サウザンドボルト”
彼女の詠唱が終わり、空が閃く――一瞬にして、世界が終わった。
処理落ちだ。
音も――光も――時間も――全てが凍りつき、途切れた。
❇
鎖骨の激しい痛みで、視界が開ける。
ここは……ナージャ王女に噛みつかれているところか。
ということは、また戦がループするのか……レベル1の俺がガスタージャに勝てるすべはない。
取れる手段は一つしかない。
俺はナージャ王女の頭を優しく撫でる。
「王女様……」
「どうしました?」
「俺たちのために犠牲になってくれ」
俺はクラフトメニューでロープ作成をして、ナージャ王女をぐるぐる巻きに縛った。
「な、何を……ダイチ様……そういうプレイですか?」
ナージャ王女の顔に不安と恐怖の色が滲んでいる。
【フラグが成立しました。チャプター5B-1 侵攻】
さっきと変わらぬ、黒い大群。
縛られたナージャ王女を抱え、俺は戦場に降り立った。
仲間の止める声が背後で響く。
声を振りほどき、俺はガスタージャの前に対峙する。
「ほほう、貴殿は英雄ダイチ。
我は一度貴様に敗れているナージャ王女を渡したとて貴様は見逃さないぞ!」
ガスタージャは俺に剣の切っ先を向ける。
ストーリーが飛んでいるせいでこいつとの因縁なんて知らない。でも……お前らのせいで、スターナとリリムが一度、殺されたのは事実だ。
俺は煮えくり返る腸に蓋をするように、怒りを抑え込む。
「ああ、ナージャ王女を引き渡した後、いくらでも戦ってやれるよ。その代わり、アルスタイン王国は見逃してくれるんだよな?」
「よかろう、騎士道に誓って手は出さぬ」
ガスタージャが剣を目の前にかざし、祈るように目を閉じた。
「ダイチ……私を引き渡すなんて、嘘ですわよね? こんな、可愛い王女を敵国に売らないですわよね?」
「ナージャ王女……俺たちのために犠牲になってくれ」
俺の腕で、縛られたナージャ王女が身悶える。
「私、幼少期から英才教育で厳しく育てられましたの。毎日、朝から晩まで時間を拘束され、同年代の友達を持つことすら許されませんでした。
王である父は叔父に毒殺され、私も殺されかけました。私を救ってくれた騎士団長アルウェンも、叔父の謀反から私を護り死にました」
ナージャ王女が、生い立ちを次から次へとまくしたてる。
要約すると、こんなに可哀想な私を助けてってことだ。
「ナージャ王女……これからいいことありますよ」
それだけ伝え、ガスタージャに引き渡そうとする。
「おい、てめぇ! ダイチ!
英雄だかなんだか、知らねえけど、ふざけんじゃないわよ!
こんなに、可愛い私が泣きながら頼んでいるのよ!」
人が変わったように、ナージャ王女の口から罵声が浴びせられる。
「……はっ、ダイチ様。すみません、今のも制作陣により設定されたセリフで……私は悪くありませんわ」
われに返ったナージャ王女の顔は青ざめている。
「ガスタージャ。
こんな王女いらないから、早く連れて行ってくれ」
「ああ……」
ガスタージャも若干引いている。
彼は魔剣を背中に背負い、両手でナージャ王女を受け取ろうとする。
ふっ、ようやく剣を納めたか!
“クラフト・プライベートサウナ”
俺はすぐさま、クラフトメニューを操作し、ガスタージャを瞬時に精製された簡易サウナに閉じ込める。
「ぐはーっ、なんだこれは!」
中でガスタージャが壁を激しく叩いている。
このサウナは出口の扉は普通に開けれる。
俺の狙いは閉じ込めることではない。
――ガスタージャがタオルで大事な部分だけ隠し、裸のまま外に出てきた。
そう、プライベートサウナは入ると……自動で装備がインベントリに仕舞われる。
「からの」
“クラフト・和式便所(巨人族用)”
ガスタージャの足元に巨大な和式便所をクラフトする。
「うおっ! これら、いったい……」
ガスタージャは装備を整える間もなく、トイレの中に落ちる。
トイレの直径は20メートルはありそうだ。
「ガスタージャ……達者でな」
俺は最後の別れを告げ、メニューを操作してトイレを流す。
「貴様、謀ったな! ぐわぁぁぁぁ!? 」
ガスタージャが断末魔と共に、押し寄せる水に流されいく。便器の底で渦巻く水に吸い込まれ、彼の声は聞こえなくなった。
「ふっ、つまらぬもの流してしまった。
トイレだけに……」
カッコつけている俺を横目にナージャ王女が訝しげに俺を見ていた。
俺への不信感が滲み出ている。
「ナージャ王女、さすがは名演技です。
お陰で敵将を討ち取れました」
「ま、まあ、私にかかればこれぐらい造作もないですわ」
うん。チョロいな。
「そんな……ガスタージャ様が倒された……」
ガルデルド兵に動揺が走る。
「おい、俺たちも逃げた方がよくないか?」
恐怖と動揺は次第に伝播し、敵軍は一斉に退却を始めた。
トイレに流された先がどうなっているのか、想像したくもなかった。
【チャプター5B-1 クリア】




