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開始5分でサービス終了した伝説のバグゲーに転生したんだが攻略できない!  作者: 那須 儒一
第二章 居場所

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第22話 在り処

素材も調達できたので、思い切って10LDKの屋敷をクラフトした。大浴場に露天風呂、バルコニーも備え付けだ。


家は広くなったのに、不思議と寂しさは感じなかった。


食卓を囲み、今日も我が家のヒロインたちは騒がしい。


「ああ、ミスティちゃん!

それ、リリムのいちご!」

ショートケーキのいちごを食べられ、リリムが喚く。


「残してあるから、嫌いなのかと思った」


「最後に食べようと取っていたのに」


「リリム、俺の苺をあげるから、おいで」


「わーい!」

リリムが俺の膝に飛び乗り、口を大きく開ける。


「ダイチ、食べさせて!」


「まったく、仕方ない……」


リリムの口の中に苺を入れる。


「むっほー! おしいー!」

リリムは両頬を押さえ、赤毛のサイドテールを揺らしながら悶える。


ふと、ミスティが無言で近付いてきた。


「ふぎゃ!」

唐突にリリムを押しのけた。


「ぬし様、妾以外のおなごを膝に乗せないでいただきたい」


また始まった。ミスティの嫉妬モードだ。

これ、パッチとかで修整してくんないかな。

正直、面倒くさいんだけど。


「ちょっと、ミスティさん。

リリムちゃんに謝んなさいよ!

それに、ダイチだって嫌がっているじゃない」


「スターナと言ったかの……妾に逆らう気か?」


またこいつは殺気を飛ばして……。


俺はミスティの背後に回って、脇に手を入れる。


「ちょっと、ぬし様、なにを……!

や、やめてくれ……ぎゃはははは……くすぐったい」


「ミスティ、ダメだろ。仲良くしなきゃ」


「そうよ、調子に乗らないでよね!」

スターナもなぜかミスティの足をくすぐりだして参戦する。


「こら、お主ら……死にたいか……」


「詠唱できない、魔術師なんて、ざっこー♡」

リリムも調子に乗って、ミスティの横腹に手を伸ばす。


「ぎゃはははは……やめてくれ……妾、おかしくなっちゃう」


ミスティの弱点というか、魔術師全般の弱点がくすぐりだと判明した。


魔法の発動には、高い集中力と感情を載せて詠唱しなければならない。それが、くすぐり一発で崩壊するのだ。


レベルアップできない俺が、編み出した必殺技だ。


「ごめんなさい。妾を許してくれ……もう、意地悪しないから……」


ミスティはくすぐりを恐れてか、少し性格が丸くなった気もする。


「ミスティ、今度悪さをしたら、漏らすまで続けるからな?」


「ひっ……」

ミスティは短い悲鳴を漏らす。


「よし、俺はアーシャさんからお使いを頼まれているから、スターナとリリム、気が向いたら解放してやれよ」


「「ラジャー」」

スターナもリリムもノリノリだ。


「ひっ……ぬし様、助けてぇ……妾が悪かったから、もうしないからぁ……」


ミスティの震える声を振りほどき、俺は家を出た。

まったく、騒がしい奴らだ。


自分でも不思議だったが、自然と笑みがこぼれていた。



アーシャさんは朝からギルドの依頼に出ていた。

そんなアーシャさんから、代わりに梓に弁当を渡すよう頼まれていた。


そういえば、梓の転生したキャラ――ユリアナに関してはほとんど素性を知らない。


王都の下町で育った貧しい魔法学生ってことぐらいだ。


パーティ加入はできるが、ライドウと同じぐらいストーリーに絡みが無い。

というか、ストーリーが飛んだせいで、ここまでの関係値もよくわからない。


ミスティの件といい、既に当初のあらすじから大幅に逸れているのかもな。


王都の南西に行くと、下へと続く石段の階段が目につく。整備もろくにされておらず、今にも崩れ落ちそうだ。


石段を下るとそこは別世界――傷んだ木板で建てつけられた家にボロボロの布着をまとった民。


カビ臭さと錆びた鉄の臭いが鼻にまとわりつく。


ここが貧民街ってのが、一発でわかるな。


アーシャさんからの話でミニマップにマーカーを付けていた。


ここが目的地か……。


寂れたトタンと木の家……ノックをすると梓が警戒しながら扉の隙間からこちらを覗き込む。


「なんだ、大地か……入って」


部屋に入ると、ランタンの弱々しい火が室内を照らしていた。城壁が日光を遮り、昼間だというのに薄暗い。


「ほら、弁当をもってきたぞ」

机の上に風呂敷に包まれた弁当箱を置く。


「ありがとう………アーシャさんにもお礼を……ゴホッ、ゴホッ……」

梓の頬は、やつれ目の下にくまがある。


「大丈夫か?」

ステータスバーを確認すると、見慣れないアイコンが出ていた。

精神疲労に伴う、体調不良?


なんか、ゲームらしからぬデバフだな。


「私のことはいいから……早く、ストーリーを進めてちょうだい」

梓はベッドに腰掛け、こちらを睨む。


「ストーリーって言ってもなあ、目的地も分からなければ、進行状況すらわからん」


「まったく……なんなのよ、このゲーム……私、もう嫌……」

梓はベッドで膝を抱え、肩が小さく震えていた。


そうだよな。日本での生活が充実していたら、こんなクソみたいな世界、嫌だよな。

――開発陣には申し訳ないけど。


「梓、少し根を詰めすぎているんだよ。

たまには気分転換でもしてみたら?」


「気分転換ってなにするのよ……お金もないし。

貧乏設定のせいか、毎日300円しか使えないの。

その日の食事で精一杯よ」


そうか、それでアーシャさんが弁当を差し入れしてたのか。そう考えると、かなり不遇だな。


俺は、庭に出てクラフトメニューを操作する。

家族風呂――追加オプション“薔薇湯”を設定した。


4畳ほどの建物――部屋の中は、板目の床の上に、ヒノキの湯船が出現する。


湯船には生花の薔薇が浮かび、甘い香りが部屋中に漂う。


「梓――お風呂が沸いたから、入れよ」


「え、お風呂?」


「ああ、庭にクラフトした。

いい気分転換になるぞ……」


「別に……気分転換なんか……」


「お前、臭いから入った方がいい」


「なっ!?」

梓の頬が一気に紅潮する。

「女の子になんてことを……わ、わかったわよ。

入ればいいんでしょ!」


梓は床を踏み鳴らしながら、お風呂へ向かった。



小一時間ほどで梓が風呂から出てきた。

ほんのり甘い香りをまとい、肌から湯気が立ち昇っていた。


「あ、ありがと……」


彼女はそれだけ言うとベッドの上に膝を抱えて再び座った。


「私……好きな人がいるの……」

梓が独り言のように呟く。


「それは、俺っていうオチじゃないよな?」


「は? ばっかじゃないの」


どうやら俺は馬鹿らしい。


「冗談だよ。それで?」


「この世界に来る前――その人とデートに行くはずだったんだ」


「そうか……」

たぶん梓が戻りたい一番の理由は、想い人だろう。

恋をしたことの無い俺には分からないが、それは辛いことなのかもしれない。


「梓ってJK?」


「ええ……17歳よ」


「そうか……」

そうだよな。いきなりこんな世界に放り込まれて……。


「な、何よ……なんか、気持ち悪いわね」


俺は梓の隣に座り、頭を撫でてやる。


「ちょ……やめてってば……」

言葉では拒絶していたが、梓は俺に頭を預けてきた。


彼女の髪は少しだけ湿っていた。


「大丈夫。俺が家に帰してやるよ」


「……うん」


少しだけ梓のことが分かった気がする。

今まで自分のことばかり考えていた。


俺も、アーシャさんみたいに大人としての役目を果たさないとな。

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