第21話 再帰
レベル1……また、レベリングをしないといけないのか。
普通のゲームなら、ここで投げるところだけど、
この世界で生きている以上、そうもいかない。
とりあえず、カーリンを周回で狩るか。
不幸中の幸いで、クラフトスキルの習得状況はリセットされていない。
むしろ、一から物理特化にもできるし、
悪いことばかりじゃない。
前向きに行こう……前向きに……。
カーリン狩りをするのにも、最低限のレベルは欲しい。
そう思い王都近郊に出て、雑魚魔物を一人で狩るが……あれ……経験値が入らない。
まさか、レベルが上がらない!?
どこまでバグり散らかせば済むんだ。
このゲームは!
詰んだ……ここにきて、レベル1縛りを強要されることになるとは。
これからどうすればいいんだ。
もう、クリアなんてどうでもいい。
どうせ元の世界に帰りたいのは梓だけだし。
全てを諦め、その日は帰宅した。
❇
ミスティは未だに目を覚まさない。
スターナ、アーシャさん、リリムでいつものように食卓を囲み、ハンバーグを食べていた。
なぜだ……味がしない。
ここ数日、毎日3食ハンバーグを食べているからか?
「どうした、ダイチ?
食べないなら、リリムがハンバーグを食べるぞ!」
「いいよ。リリムにやる……」
俺は、それだけ言い残し部屋に戻った。
ミスティが来たことによってやむなく、追加で寝台をクラフトした。
俺はベッドに飛び込み、目を閉じた。
いつもは賑やかな我が家が、今日は少しだけ静かな気がした。
少し休もう……。
朝になってもなんだか気怠い。
起きる気になれず二度寝を決め込む。
大丈夫だ。ここまで何とかやってきたじゃないか。
俺なら大丈夫。少し休むだけだから。
そう思えば思うほど、体が動かなくなってきた。
❇
数日が経過した――また俺は引きこもるのか。
また俺は……。
陽の光が眩しく感じる。
これじゃあ転生前と何も変わらない。
始めはスターナやリリムが遊びに誘いにきたが、
次第に部屋には来なくなった。
みんな俺を気遣って一人にしてくれる。
嬉しい反面、少し寂しい気もした。
――コンコン。
部屋の木扉を叩く音が響く。
俺は背を向けて狸寝入りを決め込み、
返事をしなかった。
――ガチャ。
誰かが入ってきた。
静かに布団をめくり、背中に温もりが触れる。
……誰だ?
「ダイチさん……」
意外にもアーシャさんの声が響く。
「すみません。ただの居候になってますね。
置いてもらっている分の家賃は払いますから」
「そんなの別にいいのよ。
ダイチさんのお陰で、毎日楽しかったから。あなたが来てからスターナも笑うようになったわ。
もちろん私もね……」
アーシャさんは、俺の背中をそっと撫でる。
「そうですか……」
これがゲームか仕様なのか、元からある設定なのか……全てどうでもよかった。
「何がダイチさんを悩ませているかわからないけど、気が向いたら話してほしいな」
「俺にもよく分からないんです」
理由なんてわからない。
ここまで大変だったと言われれば微妙だし、
自分の成長が見込めなくなったから絶望したのか。
それもまた違う気がする。
「ダイチさんは真面目なのね。
そんなに頑張らなくていいのよ」
「……えっ?」
真面目なんて生まれて初めて言われた。
転生前は、空気が読めなくて周りから拒絶され、
家に引きこもった後も、もう少し頑張れとか、お前ならできるとか両親からは励ましばかりだった。
その期待が逆に重かった。
「ダイチさん。ありのままのあなたでいいのよ。
元の世界なんていいじゃない。私のそばにいて……」
アーシャさんの体温が背中に重なる。
気づけば俺は振り返り、アーシャさんの胸に顔を埋めていた。
――自分の涙で濡れていた。
頑張らなくてもいい。
肩の荷が降りた気がした。
そのまま夢の中へ落ちた。
❇
翌朝、スズランの爽やかな香りで目覚める。
エメラルドの瞳が、窓から差し込む朝日と重なる。
「えっ……ミスティ?」
「おはよう――ぬし様」
「あれ、アーシャさんは?」
「朝食の準備をしとる。ぬし様を起こしてこいと言われてな」
「ミスティ……目を覚ましてくれてよかったよ」
「本当に呆れた人だの。妾をここまで心配するとは」
「でも、ぬし様なら私を裏切らず――お側に置いてくれるかえ?」
ミスティの口調が少し和らいだ気がした。
「ああ、美少女は毎日見ても飽きないからな」
「顔以外、見るところはないのかのう」
「胸と尻も大事だ……」
「そういうところは、勇者の奴とそっくりだの」
「俺をあんな浮気野郎と一緒にしないでもらいたい」
「どうだか……既にここには数名のおなごがおるではないか」
ミスティのため息が顔にかかる。
「それは、この世界のストーリーが悪い。俺のせいじゃない」
ミスティの顔を初めて間近で見た。
「ミスティって目が綺麗だね。
長いまつ毛と、キメ細かい白玉のような肌も素敵だ」
「こ、こら……そんなにまじまじと見るでない。
恥ずかしいではないか」
「とても、1000年物の骨董品とは思えないよ……」
あれ?
ミスティの眉間にシワが寄る。
「ぬし様は本当に、上げて落とすのがうまい御方だ。死ぬか?」
やばい……どこが地雷だったんだ?
今のレベルじゃ、確実に殺される。
「ミスティ……ごめん!」
「まったく……ぬし様は……。
今後、妾はここに住まわせてもらう。
アーシャ殿からは既に許可はいただいておる」
「そうか、これからよろしくな」
まさか創世の魔女がパーティー加入するとは……。
たぶんデータとして存在していたんだろうけど、俺が無理矢理連れてきたから。
平たく言えばミュウみたいなもんか。
「ぬし様……妾との結婚式はいつにする?」
「あ結婚式かあ……そうだな……ってえっ!? 結婚式?」
「ぬし様は妾を無理矢理現世に蘇られたんだ。
あまつさえ、死を望む妾を生かした。
結婚するのが道理というもの」
「そんな道理聞いたことないぞ!」
「ぬし様ったら、照れておるのだな。
初心な御方だのう」
ミスティが寄り添うように、俺に抱きつく。
「彼女は欲しいが結婚はしたくない!」
「ぬし様……妾、結婚してくれないと、世界を滅ぼすぞ♡」
ミスティは自身の指を咥えて、せがむような潤んだ瞳で俺を見つめる。
可愛い……確かにミスティは可愛いが、言っていることはかなり物騒だ。
「ミスティ……彼女じゃダメなのか?
それか、せめてセフレでも……」
提案した瞬間、ミスティの瞳孔が開く。
「……ぬし様も所詮、下衆な勇者と同じなのかの?」
ミスティの言葉一つで大気が震える。
「煌めけ八つ星――点を繋ぎ星座となれ!」
“雷魔法・サンダーケージ”
「ぎゃあああ!」
雷の檻が俺を閉じ込める。
激しい振動と激痛が全身を襲う。
ミスティへの発言は十分に気をつけよう。
「ぬし様、安心せえ、殺さんように手加減はしてある。弱っても妾が回復させてやるからの」
「ひぃぃ」
ナージャ王女といい、どうしてこの世界の女性は恐ろしい人が多いんだ。
かつての勇者が他の女性に逃げた理由がなんとなくわかった気がした。




