第19話 創世の魔女
【nチャプターjえな-@6】
カンっ!カンっ!カンっ!カンっ!
けたたましい警鐘の音で目が覚める。
「朝っぱらからなんだってんだ……」
目覚めると、リリムが俺の上に乗っかって寝ていた。
俺の服はリリムの涎でびしょびしょだ。
「うげぇ……」
俺は、リリムを押しのけた。
「ふげぇ」
リリムは床に落ちたが、起きる気配は皆無だ。
服を脱ぎ、半裸で外に出た。
なんだ……これ……。
――昏く染まる空。
王都を覆うように巨大な魔法陣が描かれている。
その上空には誰か浮いていた。
「あれは誰だ?」
肉眼では見えそうにない。
街の人々が空を見上げる。
ある者は祈り、ある者は泣き、ある者は笑っていた。
「あれは……創世の魔女……」
気づけば、ネグリジェ姿のアーシャさんが隣に立っていた。
「創世の魔女?」
「ええ、世界を創造したとされる魔女よ」
「そんな奴が、どうしてここに?
それに、何をしているんだ?」
「彼女は一千年前、恋仲にあった勇者が浮気したことにより、世界を滅ぼそうとした。
それを防ごうとした勇者に討たれたのに……どうして……」
「浮気なんて、最低だな!
同じ男として恥ずかしいよ」
なぜかアーシャさんが目を細め睨んでくる。
「ど、どうしましたか?」
「いいえ、自分のこととなると見えなくなるものね」
なんだか責められている気がする。
「その創世の魔女とやらは何をする気です?」
「御伽噺では、嫉妬に狂って王都を滅ぼそうとしたらしいわ。もしかして、その復讐なのかも……でも、彼女は死んだはずなのに……どうして」
「とりあえずメノウ魔法学園に向かいます。
アーシャさんは、二人を起こして連れてきてください!」
「はい、わかりました。ダイチさん、お気をつけて……」
メノウ魔法学園の塔を登ればどうにかなるかもしれない。
「大地! なんなのあれは!」
梓が、息を切らしながら、こちらへ駆け寄ってきた。
俺は梓に情報を伝えつつ、二人でメノウ魔法学園を目指す。
「てか、あんた何で上半身裸なのよ……」
「リリムの奴に涎で汚されたんだよ」
「あんた……楽しそうね」
「なんだよその含みのある言い方は、別に何もしてないぞ。そんなことより、学園へ飛ぶぞ!」
「えっ、飛ぶって……きゃっ!」
俺は梓の腰を抱え、有り余る物理で跳び上がった。
空を跳ね、メノウ魔法学園へと着地した。
「これなら速いだろ?」
「やるならやるって言ってよね……ちょっと出ちゃったじゃない」
詳しくは聞かないようにしよう。
学園前の広場には既に、人だかりができていた。
その中心に眼帯を着けた隻眼の男が、長い銀髪を揺らし空を見上げていた。
確か、アーシャさんの所属ギルドの長で、俺のレベリングを手伝ってくれた奴だ。
……ま、正確には仕様を利用して、こいつを何度もボコしただけだけど。
気配を察したのか突然俺の方を向いた。
「君は……ダイチくんじゃないか」
こいつ、俺の名前を覚えていたのか。
「よう、久しぶりじゃねぇか。
経験値!」
「おい貴様!
今、何と書いて、カーリンと読んだ?」
「まあまあ、細けえことは気にすんなって、それよりどういう状況なんだ?」
カーリンは咳払いをして、再び空を見上げた。
「あの魔法陣は展開中だ。
あれが完成したら……王都は跡形もなく滅ぶだろう」
「そんなにヤバいの……?」
梓が割って入る。
「てか、大地……どう思う?
これ、ストーリーなのかな」
梓が心配そうに俺のズボンの袖を掴む。
「なんか、チャプター開始時に文字化けしてた気がする。また、バグかもしれない」
「せめて、創世の魔女の元へ行けたら……
メノウ魔法学園って何階まであるんだ?」
「さてね、私の知る限りでは6523階が最高到達記録だ」
カーリンがとんでもないことを言い放つ。
「マジでクソみたいな設定だな」
「活力満ちよ――」
“補助魔法・バイタルフォース”
梓のバフが俺にかかる。
「走るんでしょ? 頼んだわよ!」
「おう、任せとけ!」
「もしも間に合わなければ、私が魔法で止めよう」
カーリンが詠唱の準備を始める。
「期待してないけど、頼んだぜ!」
俺は、メノウ魔法学園の中央の螺旋階段をひたすら駆け上がる。
梓の魔法のお陰で、スタミナが無限に感じる。
❇
どれだけ登ったか分からない。
暗雲に黄金色に輝く魔法陣が描かれ、空が明滅する。
空が堕ちた――そう表現するしかないほどの雷の塊が、王都へ降り注いだ。
ザザザ――なんだ、体が重く……
俺はこの感覚を知っていた。
前世で幾度となく苦しめられたあの感覚。
そう、これは――処理落ちだ。
ぷつん――テレビの画面が消えるように、世界が暗転した。
❇
【裏チャプター −965-3 滅亡と創まり】
チャプターがマイナスってどういうことだよ。
文字化けは直ったが、明らかに正規のストーリーじゃない。
気づけば、ベッドの上に戻されていた。
リリムの涎がそれを証明していた。
俺は隣の部屋で寝ていたスターナを抱え、
メノウ魔法学園へ跳んだ。
「ダイチ……どういうことなの……」
半分寝ているスターナが目を擦る。
曇天に円が描かれ、さっきよりはまだ時間の猶予がありそうだ。
「スターナ、俺を重力魔法で、あの人影の元まで飛ばしてくれないか?」
「えっ、どういうことか教えてよ」
「今は時間が惜しい、頼む!」
「もう、わかったわよ。
見果てぬ空よ、昇華、反転、堕落、失墜――空へ落ちろ!」
“重力魔法・インザスカイ”
俺の体が突如、空へと引っ張られる。
――というか、天へと落ちていく。
凄いな、この魔法。
火力こそないものの魔法の汎用性の高さには、毎度驚かされる。
創世の魔女の元へ舞い上がった瞬間、彼女と目が合った。
緑色のウェーブがかった髪にエメラルドの瞳。
植物の装飾が施されたティアラ――純白のドレスに蔦のような刺繍が彩られていた。
俺は――この美少女を知っている。
スターナとリリムを助けた時、俺が連れ出した女の子だ。
俺が助けた少女こそ――創世の魔女だった。




