第17話 囚われの英雄
鉄格子の窓から夜風が吹き込んでくる。
……肌寒い。ナージャ王女は満足すると自分の寝室へと帰っていった。
傷はというか歯型は残らなかった。
ゲームキャラはイベントシーン以外では傷つかない。
不幸中の幸いではあったが、俺の心の傷は深い。
「ふぇぇぇん。誰か助けてくれー!」
我ながら情けない。
最強になっても、レベル3の王女にすら勝てない。
ゲーム世界の理不尽さを身を以て味わう羽目となった。
❇
「ダイチ……助けに来たよー」
夢うつつ――小鳥のように囁くスターナの声で目覚める。
救いの声を頼りにスターナを探す。
「こっちこっち!」
窓枠の鉄格子にスターナが掴まっていた。
「よくここまで登ってこれたな」
「うん。私、星魔法が得意だから」
「スターナ……助けて……やっぱり、胸は無くてもスターナがいいよぉ」
「聞き捨てならないけど、今回は助けてあげる……てか、ダイチ……意外と充実してそうね」
スターナは俺の幽閉されている室内を見てこぼす。
クラフトスキルは使えたから、三星旅館の内湯とトイレ、トレーニングマシンをクラフトしていた。
「そんなことないって! 早く出してくれ!」
「これに懲りたら、他の女性に脇目を振らないでね。ダイチ、少し離れてて――宇宙から飛来する星々よ――我願う、世界の破滅を――我願う、世界の創まりを――我願う、再開を――」
“重力魔法・クライシスメテオ”
世界が暗くなる。巨大な隕石が天を覆い、離塔の上空に墜ちる。
「うぉ!」
激しい熱と風で、崩壊する塔から投げ出される。
“重力魔法・アストロノート”
スターナの魔法で宙に浮遊する。
魔法って、結構便利なんだな。
俺も、少しは覚えようかな。
「スターナ、ありがとう」
「別にダイチのためじゃないから……ダイチがいないと、私が……その……寂しいだけだから」
「はいはい、可愛い可愛い」
いつものツンデレ構文ね。
なんにせよ助かった。
「なによ! ダイチのばか!」
【チャプター4B-4 監禁】 クリア。
ここまでがイベントだったのか。
進行不能バグとかじゃなくてよかった。
あのまま閉じ込められていたらと思うと――ゾッとした。
ふと、視界の端にアナウンスのメッセージが流れる。
『回想が追加されました。サービスシーンをいつでも追体験できます』
むほっ! サービスシーンの回想!
なんか、エロゲみたいな仕様があるんだが。
てか、そんなシーンあったか?
バグで飛んでただけか。
❇
真夜中――我が家に戻ったあと、スターナは俺の腕にしがみつきながら、隣で寝息を立てていた。
可愛い寝顔しやがって。
……と、そんなことよりせっかくだから回想を観ようかな。俺は、視線でメニュー操作して、回想モードを選択する。
『回想:甘い夜は蜜の味』
視界がモヤに包まれ、開けると……目の前に大きな谷間が迫っていた。
「うひょー! こんなシーンあったんだな!
このゲーム、神ゲーじゃん!」
胸の持ち主を見ようと顔を上げると……
「ひぃっ!」
ナージャ王女の八重歯が光っていた。
――ガブッ!
「ぎゃあああ!」
回想ってナージャ王女とのシーンかよ!
しかも、ただ噛みつかれるこのシーンのどこが、サービスシーンなんだよ!
俺は慌てて、メニューを操作しスキップに視線を合わせる。
『スキップ機能は未実装です。代わりに0.5倍速で回想を再体験します』
おい、ふざけんな。未実装ならそんな項目出すなよ!
それに、なんでスキップの代わりに0.5倍速なんだよ!
やっぱりこのゲームはクソゲーだ。
俺はナージャ王女の歯を昨日以上にじっくりと味わう羽目になった。
いや……味わわれているのは俺の方か?
骨に食い込む彼女の歯が少しだけ心地よく感じ始めていた。
もしかして、新たな扉が開かれようとしている?
そんな、馬鹿げた思考は再び強烈な痛みとともに打ち消されていった。




