第16話 Bルート
【チャプター4B-4 監禁】
――絶望とともに視界が開けた。
次のストーリーへと進行したが、すべてがどうでもいい。
ナージャ王女の胸……失ったものは大きい。
もう俺は立ち直れないかもしれない。
ナージャ王女の寝室のベッドの上に取り残された俺――彼女の残した温もりが、微かに布団から伝わってくる。
「よしっ、ストーリーが進んだみたいね!
タイトルが少し不穏だけど……」
梓はそんな俺の気などつゆ知らず、ガッツポーズをしてみせる。
「なんか、甲冑の音がするぞ……」
リリムの言葉通り、鎧を着た兵士たちが俺を取り囲む。
「おい、貴様か!
ナージャ王女に狼藉を働こうとした不届き者は!」
兵士たちは一様に俺に剣を向ける。
相変わらず、スターナ、リリム、梓の三人は認識されていないみたいだ。
「だとしたら?」
とりあえずカッコつけてみせる。
「あんた、なんでそんな強気なのよ……」
スターナが呆れてため息をつく。
「俺のステータスは既に化け物クラス、
俺を倒したいなら、一個師団隊を呼んできな?」
プレイヤー名:ダイチ
レベル186
HP21632 МP123
物理7556 魔法13
防御2005 速度1753
兵士たちが剣を構えジリジリと詰め寄ってくる。
「オラァ!」
兵士の一人の鎧に一撃を見舞う。
0ダメージ……?
もしかして……。
「ストーリー上、戦闘せずにそのまま捕まるやつじゃない?」
梓が俺の代わりに説明してくれる。
「うぎゃあああ!」
俺は抵抗すら許されないまま、
一方的に、兵士たちにボコボコに殴られた。
❇
……ここは……気づけば、どこかで幽閉されていた。
石レンガの床にシルクの寝台――一見牢屋っぽくも見えるが、それにしては作りが豪勢だな。
「ダイチ様、ようやくお目覚めになりましたか……」
冷たい石レンガの部屋に静かな声が響く。
「ナージャ王女……どうしてこんな……」
王女は無表情で、昨日と変わらない胸をしていた。
「ダイチ様が悪いんですよ。
私の誘いを断るから……」
なんか、Bルートの雲行きが怪しい。
「王女様……今からでも俺に挽回のチャンスをください。貴方が欲しいのです」
「ふふ、嬉しいことを言ってくれますわ。
でも、もうAの国王ルートに戻ることはできません」
「あ……それ言っちゃうんだ」
このゲーム……相変わらずメタ発言が多い。
あのまま王女様の誘いに乗っていたら、俺がこの国の国王になっていたのか……。
「ちなみにBルートってなんですか?」
「ふふ、飼育ルートですよ」
「飼育……?」
なんだか、嫌な予感しかしない。
助けを求めようとパーティー画面を確認するが、
俺一人になっていた。
「私が、死ぬまでダイチ様を飼い殺すルートです。
ちなみに他にも追放ルートや堕天ルート、綿菓子ルートがございます」
「あの場面で、王女様の誘いに乗る乗らない以外の選択肢があったか?」
てか、綿菓子ルートってなんだよ。
全然内容がわからねえよ。
「ダイチ様、私と一生ここで暮らしましょうね」
いや、毎日この美貌と巨乳を堪能できるのか、
悪くないかも。
そう思いつつ部屋の隅に目を向けると、白骨化した死体が三体――豪奢な服を着せられ、ガラス張りの容器に保存されていた。
「ナージャ王女……つかぬことをお伺いしますが、あの方たちは?」
俺は死体を指差す。
「ああ、わたくしの夫たちですわ。
最近は歳のせいか、あまり元気がありませんが……」
歳のせいで元気がないってか、死んでいるよね。
俺……やばくね?
「ダイチ様、お父様に少し呼ばれてまして……夜は二人きっきりで愛を育みましょうね」
「ああ、待っているよ」
俺はできる限り平静を装った。
ナージャ王女が出ていった瞬間、急いで部屋中の窓、扉を確認する。
駄目だ――どれも壊せないどころか、触れることすらできない。
本当にこのゲーム、全年齢対象なのか?
こんなホラー展開があったら子どもにはトラウマもんだぞ。
どれだけ強くなろうが、運命には抗えないってことか。
拘束されてないのが、幸いだが……
結局、なにもできなかった。
しばらくして、ネグリジェ姿のナージャ王女が俺の部屋に戻ってくる。
死ぬようなことって何をされたんだ?
嫌な汗が背中を伝う。
「ふふ、ダイチ様ったら緊張されているのですね。可愛い♡」
緊張という名の恐怖です。
そう言いたかったが、怖くてやめた。
殺られる前にやるしかねえ。
「死ねぇ! アバズレ!」
俺はナージャ王女をベッドに押し倒し、
頭に拳を振り下ろす!
「ふふ、ダイチ様……いくら言葉責めでも、アバズレは酷いですわ」
ナージャ王女は舌で俺の拳を受け止めていた。
「ひぃ……」
俺は、とっさに彼女のステータスを確認する。
ナージャ王女
レベル3
HP56 МP563
物理23 魔法96
防御5 速度3
特殊衣装:ナージャのネグリジェ
効果:一切の物理攻撃、魔法攻撃を無効化する。
俺は絶望した。
「ダイチ様。この部屋はかつて王を幽閉した際に用いられた部屋――貴方の力はすべて封じられています」
さらに追い討ちをかけられる。
俺は……ここで死ぬのか?
「ダイチ様……私のことが本当に嫌いなのですね」
その台詞曇らせヒロインっぽくて可愛いんだけど……いや、男――大地、ここまで来たら腹を括るしかねえ。
このルートの活路を見いだしてやる。
「ナージャ王女、そんなことはありません。
貴方を俺にください」
俺は土下座をして、彼女に忠誠を誓う。
「本当ですか! 嬉しいです!」
ナージャ王女に飛びつかれ、今度は俺がベッドに押し倒される。
窓からは月明かりが差し込み、体を重ねる二人を照らした。
ナージャ王女が俺の服を脱がす。
彼女の細く冷たい指が俺の鎖骨をなぞる。
「ふふ、ダイチ様のここ……硬いですわね」
もちろん鎖骨のことだ。
大地のダイチは恐怖で縮み上がっている。
「ダイチ様……愛しております」
ナージャ王女の湿った肌が、俺に重なる。
彼女の胸から鼓動が伝う。
誰かに必要とされる。
今まで味わったことのない感覚――孤独だった俺の心をナージャ王女の愛が溶かしてくれる。
このまま、ここで朽ちるのも悪くはない……
そう思い始めていた。
ガブッ!
「ガブッ? ……いででででで!」
ナージャ王女が俺の鎖骨に思いっきり噛みつく。
甘噛じゃない。これは、本気の噛みつきだ。
「ナージャ王女、痛い、痛いです。
やめてください!」
「ふふ、最初はみんなそう言うのです。
数日もすれば、皆、受け入れ動かなくなります」
「それ……単に死んでいるだけじゃ……って痛いっ、痛いっ!」
ナージャ王女は再び噛みつき始める。
俺の体から血が伝う。
「わたくし、鎖骨フェチなんです……きゃっ、言っちゃった♡」
言っちゃった♡
じゃねえよ!
やばい、物理が最強のこの世界――痛みが尋常じゃない。
なまじ、防御力とHPが高いせいで死ぬことすらあ許されない。
王城の離れ――月夜に男の絶叫がこだまする。




