第15話 進退
ストーリーを進めないまま一ヶ月が過ぎた。
代わりに王都に風呂が普及し、民の習慣として定着し始めていた。
風呂のクラフト費を請求して、1000万円ほど稼いだ。
加えて、住宅クラフトで狭かったアーシャさんの家を、同意のもと改築――それに伴い、冷蔵庫玄関バグは改善された。
最近、バグに当たらない気がする。
思ったよりもまともなゲームだったのか?
いや……ストーリーが飛ぶ時点で終わっているか。
改築後は、2LDK、大浴場付き……。
俺、スターナ、アーシャさん、リリムの四人で暮らしている。
人数のわりに部屋数が少ないじゃないかって?
ヒロインの誰かと添い寝するための、頭のいい作戦だ。
「ダイチ。また馬鹿なこと考えているでしょ?」
「うっ……」
物思いにふけりながらモーニングコーヒーを嗜んでいると、スターナに速攻で見抜かれてしまった。
「いや、寝室をどう分けるかなって」
「そうね……前よりは広いから助かっているんだけど……広さ的に二人ずつで分かれたらいいんじゃない?」
よし、ここまでは想定通りだ。
「みんな、ごめん。
今のクラフトスキルじゃ、この家の広さが限界だったんだ」
――嘘だ。レベルアップに伴い、
既に10LDKの豪邸を建てられるようになった。
「スターナとアーシャは、親子で一緒に寝て、
リリムとダイチが一緒に寝るのがいい!」
リリムが机に手を置き、宣言する。
「駄目だ!」「ダメよ!」
俺とスターナの目が合う。
「ダイチ……私と……」
「俺は、アーシャさんと寝たい!」
スターナが何か言おうとしたが、アーシャさんとの添い寝ポジションを手に入れるため、強引に押す。
「ダイチ……リリムと寝るのは嫌なのか?」
リリムの瞳が潤む。
「私より、ママがいいの?」
スターナもなぜか泣きそうだ。
「別にスターナとリリムのことも好きだ。
二番目と三番目に……」
……なんだ?
……一瞬で空気が凍りついた。
俺、なんかまずいこと言ったか?
ガチャ――
そんな空気を打ち破るように玄関の扉が開かれた。
「聞こえてたわよ。
女性に順位をつけるなんて、
あんた……相変わらず、最低ね」
梓が勝手に入ってきた。
「おい、不法侵入だぞ!」
「なによ、別にいいでしょ。私たちの仲じゃない」
「いつ、お前と仲良くなったんだよ」
「まだ、教室でのこと根にもっているの?
あの時は、数日閉じ込められて、イライラしてたのよ」
「そのわりに、楽しそうだった気がするが……」
「うるさいわね。
それより、ストーリーは進めないの?」
やっぱりその話か……。
「俺はもう、ストーリーは進めない。
これ以上、身近な人の死にイベを踏むのが怖い」
「二人は助けれたんでしょ?
別にいいじゃん……たかがNPCだし」
「この!」
俺は梓の胸ぐらを掴む……そして、離した。
そうだ……俺も転生当初は梓と同じ考えだった。
それが本来正しい反応なんだろう。
「私、元の世界に帰りたいの!
受験もあるし、将来の夢だって……NPC役の私じゃストーリーを進めれないから、助けてよ!」
梓の頬を涙が伝う。
「ダイチ、進めてあげようよ」
スターナが俺の服の袖を引っ張る。
スターナは何も分かっていない。
もし、クリアして元の世界に戻れたら……俺はお前たちと一生会えなくなるんだぞ。
「ダイチさん。今は進めるだけ進めて、終盤にさしかかって考えればいいじゃない」
アーシャさんは、俺を諭すように微笑む。
「はぁ……わかったよ。
リリムはそれでいいのか?」
「うむ。よくわからんが、みんながそれでいいなら、いい!」
リリムは両腕を組み、尊大な態度で返事をする。
❇
次のストーリーってなんだっけ?
バグオラのクソなところは、あらすじもなければ、次の目的地もミニマップに表記されない。
しかも、ストーリーが飛んだせいで、会話やイベントの流れで目的地を察することもできない。
……ええっと、確かナージャ王女との添い寝イベントだったよな。
あの時は黒騎士だの死にイベントだので余裕がなかったが、今思えばナージャ王女ってかなり可愛かったよな。
しかも巨乳だ。
少しだけ期待している自分がいる。
あの時は楽しむ余裕なんてなかったから。
今回は甘い雰囲気を堪能できそうだ。
「さあ、梓行くぞ!」
俺は梓をパーティーに加えた。
「なんか、急に乗り気になっていない?
キモいわよ……」
梓から手厳しい一言が飛ぶ。
❇
王城に入ると、ストーリー開始のテロップが視界の半分を占める。
【チャプター4-3 英雄の帰還】
視界が真っ白に染まり、ナージャ王女の姿を象っていく。
「ダイチ様……お待ちしておりました。
御身は貴方様のもの、英雄の子を私に授けてください」
「ああ、俺でよろしければ……」
ナージャ王女の絹糸のような髪を手ですく。
俺は、今度こそナージャ王女の胸に手を伸ばした。
「ふぎゅっ!」
何者かの腕が、俺の首を締め上げる。
しまった。スターナたちをパーティー解除するのを忘れていた。
スターナが俺にヘッドロックをかけ、
両手をリリムと梓が固める。
「ダイチ様……どうされたのですか?」
ナージャ王女は不思議そうに首をかしげる。
もしかして、王女には三人が見えていないのか?
パーティーメンバーがいるにも関わらず、いない体で話が進む――ストーリー上のご都合主義展開か。
「なんて力だ……」
レベルは圧倒的に俺のほうが上なのに、
三人を振りほどけない。
「ダイチ、私以外の女に触れたら許さないわよ!」
スターナが耳元で囁く。
両腕にリリムと梓が触れているのは、ノーカンなのか?
そうツッコミたかったが、首が締まって声すら出せない。
「ダイチ様……やはり他に想い人がいるのですね」
ナージャ王女が何を勘違いしたのか、ストーリーが進行し始める。
「……そうですか……残念です」
ナージャ王女は泣きながら部屋の外に出ていってしまった。
待ってくれ――ナージャ王女!
せめて……胸だけでも……触らせてくれ……!
【ナージャ王女の誘いを断ったため――Bルートへ突入しました】




