第13話 理の外
白く無機質な世界――そこには何もない通路が真っ直ぐに伸びていた。
音も臭いも温度も――世界から置き去りにされているようだった。
見上げると天井が塞がっていく。
これで退路は断たれたか……。
ここはどこだ?
いや……そんなこと、どうでもいいか。
しばらく進むと、白く透明なケースが並んでいた。
中には裸の人間が目を閉じて収められている。
「なんだこれ……まるで棺みたいだな」
隠しダンジョンか?
なんとなく白いケースの中を眺めていると――
「スターナ! リリム!」
二人の姿がそこにはあった。
なんで二人がここに……死んだんじゃないのか?
いや、理由なんてどうでもいい。
俺は、力任せにケースを殴りつける。
ビキッ――ヒビが入る。
硬いが、壊れないってほどじゃない。
「今、出してやるから!」
警笛のような音が突如として鳴り響く。
天井、床、壁――すべてが赤く明滅する。
カタカタカタカタ――
箪笥が震えるような規則的な音に振り向く――そこには関節が不自然に曲がったマネキンのような何かが立っていた。
ステータスバー……unknown。
名前どころか、各種ステータスも文字化けして読めない。
突然、マネキンが飛び掛ってきた。
咄嗟に飛び退くが、マネキンが伸ばした腕が、肩をかすめる。
2652ダメージ……ぐっ、なんて強さだ。
あと2発もくらえばお陀仏だな。
「お前を倒したら、二人を連れて行っていいってことだよな!」
俺はマネキンに飛びかかり、奴の頬に一発ぶち込む。
65323ダメージ――。
吹き飛ばしたマネキンが、宙で身をひるがえし、こちらに迫りくる。
――頬にヒビが入っている。
こいつ、倒せないってわけでもなさそうだ。
「俺だって無駄にレベルが上がったわけじゃないぜ――研ぎ澄ませ……“補助魔法・アタックブースト”」
マネキンが反応するよりも速く、
奴の頬を拳で打ち抜く――100635ダメージ。
レベルアップ186。
ドロップ――kんり3skげん。
こいつ、明らかに経験値がおかしい。
それに、ドロップアイテム?
……だめだ、文字化けして読めない。
いや、今はそんなことどうでもいい。
透明なケースを破り、スターナとリリムを解放した。
「スターナ! リリム!」
二人を抱きかかえ、叫ぶ。
「ん……ダイチ?」
スターナが目を覚ます。
リリムは寝ぼけている。
「んーん。まだ眠いのだ……」
「って、きゃっ!
ちょっと……私なんで裸なの!?」
スターナがR18に該当しそうな部分を必死に隠す。
「……たいした体はしてないんだから、恥ずかしがるなよ」
「ダイチ……殺すわよ?」
「ははは、いつものスターナだ」
俺はスターナをめいいっぱい抱きしめた。
スターナへ236のダメージ。
「く、苦しい……ダイチ……死ぬ……」
「おっと、俺の愛で殺してしまうところだった」
「なんか、あんた……いつにもまして気持ち悪いわよ……」
暴言でもスターナの声が聞こえることが、何よりも嬉しかった。
「むっぎゃー! なんで、リリムは裸なのだ!」
「もういいよそのリアクション。
スターナで見たから」
「おい、お前――状況はわからぬが、反応が雑すぎやしないか?」
「リリム――冷静に考えてみろ。
お前は赤ちゃんの裸を見て欲情するのか?」
「お前、リリムの体を幼児体型と言いたいのだな……ぶち殺す!」
リリムとスターナが二人して俺を揉みくちゃにする。
「HPならたくさんある。
好きなだけじゃれ合おうぜ!」
一通り騒いだあと、簡単に状況を説明する。
「状況から察するに、ここはNPCのデータ管理をしている場所じゃないだろうか?」
「じゃあ、ここにいる人たちはみんな……死んだ人?」
スターナとリリムは、俺の服を羽織り、立ち並ぶ透明なケースを覗き込む。
「そうとも限らないんじゃないか?」
「ふーん。リリムにはよくわらないけど……ここ、あんまり長居したくない……」
リリムはスターナの影に隠れた。
「そうだな……ってあれ?」
「どうしたの、ダイチ?」
「この子……」
俺は一人の女性に目を奪われる。
緑色の長い髪――バランスの取れた体に、淡い肌が艶めく。
「ダイチ、知り合いか?」
リリムもケースを覗き込む。
「いや、可愛いから――連れて帰ろうかなって」
「せっかく、少しはカッコいいと思えたのに……台無しね」
スターナは胸の前で腕を組み、ため息をつく。
突如、足元が波打つように揺れる。
俺は、ケースを砕き中の女の子を抱えた。
直後、足元の地面が跳ね、天井へと打ち上げられ気づけば、王都のはずれの荒野――元の場所に押し返されていた。
スターナとリリムは無事だ。
ついでに助けた緑髪の女の子はどこにもいない……余計なことした気もする。
ま、可愛いは正義だ。どこかで、会えるといいな。
今は、動く気になれず、二人を両手に抱えたまま、
その場で目を閉じた。




