第11話 因果応報
教室に入ると、華奢な少女が立っていた。
青髪のショートボブを掻き上げながら、泣きそうな顔をしていた。
「や、やっと来た……お、お腹空いた……」
「誰?」
「私は片桐梓……じゃなかった。ユリアナ・なんとか・アローレインと申します」
後半の自己紹介が明らかに雑だった。
……もしかして。
「キミも転生者なのか?」
「えっ! あなたも転生者なの?」
彼女は目を見開く。
「俺は小森大地――転生者だ」
「そうなんだ。この世界、本当に訳わかんない。
“主人公が来るまで教室で待機しろ”ってメッセージが出て……数日間、50階のフロアから出られなかったの……日中は教室に閉じ込められて……夜も、廊下とトイレしかいけないし……」
察するに、別の登場人物に転生したのか……
ステータスを参照する。
ユリアナ・バージャエスト・アローレイン(片桐梓)か。
レベル3か……ストーリー進行でパーティー加入するのかな。
だから、俺が来るまで、ここに囚われていたなんて……可哀想すぎるだろ。
「こほん。ええっと……私、仲間を殺したガルデルド帝国が許せない!
遠征任務に選ばれたし、一緒に協力しましょう!」
梓は予定調和の台詞を喋りだした。
パーティー加入可能欄に片桐梓の名前が出現していた。
ここで選択したらストーリーが進行するのか。
「うーん。顔は悪くないけど、貧乳枠はスターナとリリムで埋まっているしなあ……。
仲間に入れてもいいけど、レベル3に何ができるんだ?」
「べ、別に胸は関係ないでしょ!」
梓は自分を抱きしめるような仕草をしてみせる。
「ダイチ……あんた、人として終わっているわよ……」
「女の子を胸でしか判断しないなんて、
クズだクズ!」
女性陣から総スカンをくらう。
別にパーティー加入する分には問題ない。
でも、最初にイニシアチブを植え付けておかないと、転生者なら後々俺に反旗を翻す可能性もあるからな。
「そんな態度でいいのか?
俺がストーリーを進めないと永遠にここから出られないぞ?」
「「ダイチ、さいてー」」
スターナとリリムがハモる。
「おい、外野は黙ってろ。
さあ、梓君――なにか、アプローチをしてみなさい」
「くっ……」
梓は体を震わせながら膝をつく。
「ダイチ様……あなたの言うことは何でも聞きます。どうか、私をここから解放してください」
梓は土下座し、額を床につける。
「ええー、どうしよっかなあ」
嗜虐心をくすぐられ、ついつい勿体ぶってしまう。
「痺れろ!」
“妨害魔法・パライズ”
「ふげぇ!」
全身が痙攣して、立っていられない。
たまらず俺は、仰向けに倒れた。
「まさか、梓の魔法……」
口はかろうじて動く。
「警告し、恐れよ……」
“妨害魔法・ペインエンハンス”
な、何だ……立て続けに、梓からデバフを受ける。
「お、おい……梓……なにをした?」
「すぐに分かるわ……」
梓が、動けない俺の足を踏みつける。
「うぎゃああああ!
お、俺の足が……」
20ダメージ――別に傷もない。
ダメージの割に、足が象にでも踏み潰されたような痛みが走る。
……象に踏まれたことなんてないけど、
痛覚が倍増されているのか。
「あら、ダイチくんってHP6453もあるんだぁ。
これなら、たっぷり楽しめるわねっ!」
再び梓が俺の足を蹴飛ばす。
「いぎゃぁぁぁぁ!」
「ゆ、許してくれ……俺が悪かった。
パーティに入れてやるから……」
梓が俺のお腹の上に座る。
「ふぐぅぅぅ……スターナ、リリム……助けてくれ……俺たち仲間だろ?」
「貧乳枠のね……」
スターナが俺の胸の上に座る。
「ぐぅぅぅ、重い……」
「女の子に重いだなんて、デリカシーがないわね」
梓は嗜虐心を剥き出しにして、俺の太ももをつねる。
「ひぎゃゃゃゃ」
だめだ、痛みでおかしくなりそうだ。
「ふ、二人とも……さすがに可哀想ではないか?」
リリムが、スターナと梓を諌める。
「リリム……お前だけだ、俺の本当の仲間は……」
俺はリリムに手を伸ばす。
リリムは震える手で俺の手を握ろうとする。
「リリムちゃん。ダイチがこの前、リリムちゃんの下着で顔を拭いていたわよ」
スターナから爆弾が落とされる。
「な、なぜそれを知って……いぎゃぁぁぁぁ」
リリムが俺の手を取り、指を変な方向に曲げ出す。
「ダイチ……死ね!」
やばい、全員敵に回った。
「むしろ殺してくれ……俺をこの地獄から解放してー!」
「ふふ、ダイチくん。HPがまだ5569も残っているわよ。回復薬もたっぷりあるから、私たちと楽しみましょうね」
梓の冷たい笑みが俺を見下ろす。
「ひぃー」
「梓ちゃん、私もダイチにこき使われて……ぐすっ」
スターナが泣き出した。
「うんうん。
つらかったよね、こんなクズ男が主人公で……」
梓はスターナの頭を撫でる……俺の体の上で。
「いやいや、俺のほうが可哀想だろ。
頼む、雑談なら、別のところでしてくれ……」
俺は泣きながら懇願する。
「ダイチくんって、本当にクズなんだね。
スターナちゃんをこんなに苦しめていたのに、別のところに行けだなんて……」
その後も、瀕死になるまで、俺への拷問は続いた。




