23 (閑話)エリーゼ王女への報告~天地を灼く剣~
「それは本当か?」
「本当の話ですよ、エリー姉さん。 竜魔族国家「ドラグニア」の使いがあたしの前に現れてこう言ったのだから」
姫騎士エリザベート・エル・ステラは、子熊討伐がようやく完了し、自室へ戻った直後に一人の女性からある報告を受けていた。
ドラグニアという魔族領の片割れの『竜魔族』が住む国家から緊急連絡として女性の前に現れたからだ。
「にわかに信じられない話だな…。 クリス、もう一度聞くが本当なんだな?」
「ドラグニアの使いからしっかり聞いたから間違いないですよ。 クリスティーナ・エル・ステラの名に懸けて」
エリーゼ王女に報告していたのは、クリスティーナ・エル・ステラという女性。
彼女はステラ王国第七王女であり、学者かつ軍師的立場で働いている。
そんな彼女から受けた報告は、にわかに信じられない内容だったのだ。
「まさか、ドラグニア領の南側の大半が結界で封鎖する羽目になるとは…。 原因は何だ?」
「当時、前線に居たドラグニアの兵士の証言では爆発の後に強烈な毒が空気を蔓延していたとか…」
「何、それは…まさか…!?」
「はい、おそらく異界より流れて来た禁忌の存在…、異界の言葉で言うなら『核』だと思われます」
「あの天地を灼く剣か…。 あれを剣と言っていいのか…」
原因を聞いて頭を悩ませるエリーゼ。
遠い昔に異界より流れついた忌み嫌われた禁断の存在。
あれが今になってその姿を現したのだ。
当然、他の国にもこの報告が伝わっているのだろう。
「それによって、父さんを含めた各国首脳は緊急的に『七人委員会会議』を行うそうです」
「いきなり核を使われたのだ。 焦ってるのだろうな」
エリーゼは額に手を当てて、ため息をつく。
しかし、同時に疑問も湧いてきた。
「ところで、その核はどこから出て来た?」
「どうも現アッシュ王国とドラグニア国の境界線に近い場所にあった、今は滅びし『ソプラノ王国』からだったとか」
「ああ、かつて無理やり兵器を作らされてその予算のせいで破産して滅んだ国家か…。 アッシュ王国ならやりかねんな」
「でも、誰がそれを見つけ、起動したかはわからないようです。 別の兵士からは満身創痍の少年がそのソプラノ王国跡の地下に潜りこむのを目撃したらしいのですけど」
「満身創痍の少年…? まさか…」
「エリー姉さん?」
エリーゼは、その満身創痍の少年に心当たりがあった。
アッシュ王国が異界集団召喚を実行した際の召喚ターゲットであり、九重有人をいじめていた張本人、そして『色無し』判定されて追放された男…安地 平斗ではないかと考えた。
手負いとなったあの男なら偶然見つけた物を平然と使う可能性もあったからだ。
「クリス、もしかしたらその男が核を偶然見つけ、使用したのかもしれない」
「ええ!? それが本当なら何のために!?」
「簡単な話だ。 アルト君から聞いた話じゃあの男は自分の思い通りにならないと気が済まなく、そのためには手段を選ばない男だという。 おそらく核を使用したのは自分をバカにした世界を見返すためなのだろうな」
憶測ではあるが、九重有人からある程度聞いたエリーゼならではの憶測だ。
それを聞いたクリスティーナは顔を歪める。
「もし、そうならある意味無差別ですから…危険ですね」
「ああ、早急にあの男は見つけ次第、断罪しないといけないな。 あの男が核を起動した際に死んでいるはずがないのだから」
「うまく逃げ切ってるのでしょうね」
はぁ…と、二人同時にため息をつく。
追放されて満身創痍になってなお、この行動に呆れているのかも知れない。
「ああ、話は変わりますがアリア姉さんからお願いがあったみたいですよ」
「アリアから? 一体なんだ?」
「アルトさんの剣の訓練相手をしてほしいということらしいです」
「ん? 何故だ? 剣の組手はウィンが担当しているはずだが…」
当然だ。
有人たちの剣の訓練は、ウィンズフェルト・エル・ステラ第六王子が担当している。
彼もエリーゼにはやや及ばないものの、剣の腕は抜群だ。
それなのになぜ自分が? という疑問がわくのは当たり前の反応だった。
「どうもアルトさんの実力がウィン兄さんが相手にならない程に上回っているようで…。 他の子の剣の訓練を担当し、アルトさんだけをエリー姉さんに頼むということでしょう」
「そうか、アルト君そこまで強いのか」
「アリア姉さんが撮った映像があるので見てみるといいですよ」
「ああ、分かった。 二つの報告をありがとう。クリスも休んでくれ」
「分かりました。 エリー姉さんも無理をなさらず…」
クリスティーナが部屋から出て行ったのを確認した後、有人の模擬戦の映像を見て、驚きを隠せないと同時にある期待を寄せ始めた。
七人委員会の所属国家の境界線付近で核を使われるという悲惨な報告をもらい、その犯人は安地 平斗ではないかという憶測がよぎり、怒りを感じたが、今の映像を見て彼ならあの男に引導を渡せるのでは…という期待が彼女の中で芽生えたのだった。




