22 見守る者(Side アリア)
「相変わらずすごいね、アルト君の攻撃は」
「ウィン兄様がここまで押されるのも滅多に見ないですよ」
ボク、アリアード・エル・ステラはもう一つの地下室で模擬戦をしているウィンとアルト君の様子を見ていた。
一昨日の打ち合いもそうだけど、彼の技の切れ味がすごい。
再会がきっかけで、アルト君の5人目の妻となったゆかなちゃんの話では、神楽流という元の世界で習った剣術なんだって。
腕前が達人クラスまでいったものの、あのいじめのせいで精神的にダメージを受け、道場に足を運ぶことすらできなかったとのこと。
いじめがきっかけによる退学後も、この世界に転移さるまでは剣は一度も握ってなかったみたい。
聞けば聞くほど、あの男…安地 平斗とその取り巻き達に対する怒りが込みあがてくる。
といっても、一人はグリズリーに食われて死んだんだけど…。
「でも、フィーちゃんの健気な癒しと剣の打ち合いのおかげで魔法も制御できるようになったみたいだし、彼の成長が楽しみだね」
「そうですね。 あとはナナ姉様の近接技術とノノカ姉様の魔法制御でしょうか。 ノノカ姉様は回復魔法はかなりの速さで習得してますし」
ボクとメルルはこんな話をしながら、二人の打ち合いを見ていた。
そうそう、メルルはアルト君の妻の一人になってからは、ナナちゃんとノノカちゃんに対して姉様と呼ぶようになったみたい。
どうも年齢的にメルルが年下みたいだから。
ノノカちゃんも回復魔法に関しては、吸収力が高く、早い段階で中級回復魔法を習得したみたい。
と、そう思っていたら…。
「あ、ウィン兄様が大技を…!」
「え、ちょ…!?」
ウィンが大技を使ってきたらしい。
メルルはすぐに結界魔法を使ってボクたちの身を守る。
ウィンの剣の大技は確か『インケイジ・リボルバー』だったはず。
これは、剣に闘気というものを込めて、それを横に大きく薙ぎ払うように振り回す技だったりする。
闘気が込めてる分、当たり判定も広く、多くの騎士団の騎士たちは手も足も出ないほどだという。
エリーゼ姉さんくらいしか対応できないレベルの技をいきなりアルト君に放つのは酷なんじゃ…と思ったら…。
「な…っ!?」
ウィンが驚きの声を上げた。
「うそ…!?」
ボクも驚いた。
範囲が広いとされる『インケイジ・リボルバー』をアルト君は姿勢をかなり低くすることで回避しつつもウィンとの間合いを詰めていた。
しかも、構えはゆかなちゃん曰く居合抜きという構えをとっていた。
その直後、ボクとメルルはさらに驚きを隠せない光景に出くわした。
「秘剣・五月雨月華」
技名を叫んだ瞬間、居合抜きによる攻撃が連続で繰り出された。
「は、速い…!!」
居合抜きのスピードがこれでもかという程に速い。
何回攻撃を繰り出しているのかわからないくらいだ。
そして、大技で隙を見せてしまったウィンはその技を防ぐことなく直撃を食らう。
竹刀とはいえ、その攻撃を受け続けていれば流石にダメージは受ける。
アルト君の初期の攻撃力は、他の転移者より高いんだから。
当然ながら、攻撃をすべて直撃してしまったウィンは、そのまま仰向けにダウンする。
「メルル、回復を」
「は、はい…!」
ボクがメルルにウィンの回復を頼むとともに、アルト君に声を掛ける。
「お疲れ。 しかし、すごいね。 まだそんな技があったなんて」
「秘剣クラスの技だからな、滅多に出すものじゃないんだけど、あの大技使われたしね」
「あはは、お互い本気出しすぎだったよね。 はい、濡れタオル」
そんな会話をしながらアルト君に濡れタオルを渡す。
顔をタオルで拭っているところを見つつ、ウィンにもタオルを渡す。
「アリア姉さん、アルトさんはすごいですね。 あの技、速すぎて防げませんでしたよ」
「あの大技の隙を狙われた形だからね。 しょうがないよ」
「おー、もう終わったの?」
ウィンにも話しかけてる途中で、ゆかなちゃんがナナちゃんとノノカちゃんを連れて来た。
ノノカちゃんは、おねむ状態のフィーちゃんを抱っこしている。
「ゆかな、そっちは終わったのか?」
「まぁね。 ナナちゃんの近接能力は少し時間がかかるけどね、じっくりとやるよ」
ゆかなちゃんはナナちゃんに剣の素振りをさせていた。
剣道のように面打ちを数百回させることで感覚を掴ませるらしい。
いわば神楽流の基本トレーニングの一つなんだそうだ。
「あー、両腕が筋肉痛だよ…」
「あはは…」
両腕が張って思うように動かないナナちゃんに思わず苦笑する。
こんな感じで、ボクはみんなを見届けてあげたいなと思う。
特に、転移被害者であるアルト君やナナちゃん、ノノカちゃん、ゆかなちゃんはこの世界で人生を過ごすことになったんだから…。




