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21 ウィン王子と剣の打ち合い

「…だめか」


 そう独り言ちる俺は、今、訓練用の地下室にいる。

 昨日、アリアから魔法の訓練の場所として利用した場所だ。

 そこで、ひとり昨日のやり方を思い出して【ウィンド】の魔法を行使してみたものの集中力を高める段階で、どうしても奴の幻聴が横やりとして入ってくるためそこで制御ができなくなっていた。

 原因はわかってても、これではどうしようもない。


(それだけ、奴にやられたダメージが大きすぎたのか…俺の心は)


 イメージも、魔法の制御も集中力が必要。

 わかってはいてもどこかであの記憶がこびりついて離れない…。


「くそっ…!」


 まだ2日目。

 しかし、ナナはすでに【ウィンド】の魔法を体得しており、中級魔法【ストーム】の練習に入っている。

 これによって俺自身も焦り始めていた。


 ノノも今日はメルルによる回復魔法の勉強にシフトした。

 回復魔法は、他の魔法と違いイメージではなく勉学から習得するのだそうだ。


 今日はエクリプス皇国からシャリア皇女殿下が来るため、アリアは訓練を早急に切り上げた。

 ナナ達からも行こうと誘われたが、思うところがあって断った。

 なので一人で自主練という形で魔法の練習に励んでいたのだが、このざまだ。


「荒れてますね、アルトさん」


 澄んだような青年の声が聞こえたので振り向くと、そこにはウィンズフェルト・エル・ステラ第六王子がいた。


「ウィン王子、何故ここに?」


「アリア姉さんから様子を見てきて欲しいって頼まれたんですよ。 そのついでに…」


 ウィン王子がそう言って竹刀を俺に差し出してきた。

 もしかして…?


「ナナさんが1日も満たない期間で風の初級魔法をマスターしたのでさらに焦ったということでしょうから、一旦そこから離れて軽く近接の訓練でもしましょう」


「いいのですか? 予定じゃまだ先だったはずじゃ」


「ノノカさんも今日は回復魔法の勉強にシフトしてるとメルルから聞いたので、こっちでも近接の訓練にシフトしても問題ないですよ。 型問わずただ打ち込むことで切り替えていきましょう」


 確かに今はあるがままに打ち込むことで若干の気分がすぐれるかもしれないか。


「わかりました。 やりましょう」


「では、打ち込んで来てください」


 ウィン王子は防御態勢を取る。

 あくまでも打ち込むだけなので、当然だろう。


「せいっ!!」


 構えた後、まずは上から下へ振り下す。


「ぐっ…!!」


「ふっ!」


 それに対応し、ウィン王子は防御するが、若干顔を歪める。

 次に右から左へ薙ぎ払うように竹刀を振るう。


「うぐっ、流石にアリア姉さんが言うように初期能力が高いだけあって、一撃が重い…!」


「さすがに買いかぶり過ぎですよ」


 そう言いながらもさっきの攻撃を数回繰り返す。

 身体が慣れてきたのか、徐々に竹刀を振るうスピードも心なしか無意識に上げていた。


「うわっ、くっ…!」


 乱撃とも言えるような攻撃にウィン王子は必死に捌く。

 攻撃が重いのか、捌く度に表情が歪んでいる。

 ある程度打ち込んだところで、俺は打ち込みを止めた。


「はぁはぁ…。 アルトさんすごいですね。 一撃の重さだけでなく、太刀筋が早くて捌ききれなかったです」


「お褒めにあずかり光栄です。 多分、転移される前の世界で剣術を習ってたのを思い出したんだと思います」


 そう、俺は奴のいじめを受けるまでは、ゆかなの家の道場で神楽流の剣術を習っていた。

 いじめが始まってからは、精神的ダメージも相まって道場に通うのもやめていた。

 ゆかなは多分、その異変に気付いて動いてくれたんだろうな。

 それにゆかなのクラスは、奴に不快感を感じていたから…。


「では、ここからは模擬戦形式で打ち合いましょう。 遠慮なくかかってきてください」


 思いにふけっていると、ウィン王子は真剣な表情で竹刀を構える。

 今度は向こうも攻撃を仕掛けてくるのだろう。

 俺もそれに応えるように、八相の構えに似た構えで応対する。


「はぁっ!!」


 先に仕掛けたのはウィン王子だった。

 間合いを詰めて、上から下へと斜めに振り下す。


「…っ!」


 すかさずそれを竹刀で防ぐ。

 ウィン王子の攻撃も結構重い。

 流石、騎士団に属していることだけあって強い。

 だが、俺もここで反撃を試みる。


「ふっ…!!」


 王子の攻撃を防いだ時、そのモーションの隙を逃さず中段に向けて居合抜きのような一撃を放つ。


「うぐっ!」


 モーションの隙を狙ったその一撃は王子の腹部に当たり、間合いが離れる。

 だが、体勢を立て直し、すぐさま次の攻撃が来る。


「ソニックソード!」


 技名を叫ぶと同時に、風圧がこっちに襲い掛かる。

 ラノベやゲームでよくある衝撃波を放つ技なのだろう。

 流石にこれを防ぐには分が悪いので、こちらもそれに近い技で応対させてもらおう。


「三日月!」


「なっ…!?」


 俺が解き放った技にウィン王子は驚愕する。

 まさか技で応対されるとは思わなかったのだろう。


 この技は神楽流の基本ともなる技だ。

 剣道でいう面打ちの要領で思いっきり上から下へ三日月を描くように振り下ろす技。

 達人クラスならこのひと振りの時に風圧が広い範囲で巻き起こる。

 当時、これを極めた後、師範代であるゆかなの父によって様々な技を伝授してもらった。


「ちぃっ!!」


 とはいえ、完全には相手の風圧を相殺できなかったが、直撃は免れた。

 ここまで相当な分の勘が取り戻せた。

 後は経験を積みなおすのみだ。


「はぁぁぁっ!!」


 すかさずウィン王子が間合いを詰め、その勢いのまま剣の柄でぶつけようとする。

 それを俺は紙一重で躱し、そのままカウンターを繰り出す。


「絶剣・圓月(えんげつ)!」


「うぁっ!!」


 絶剣・圓月(えんげつ)…、これは下から上方向に円を描くように振り上げる技だ。

 ゆかなが得意としていた剣術だったのを見よう見まねでやったのがきっかけで、師範代から伝授してもらった。

 下からの軌道に回避しきれず、王子の体にヒットし、再び間合いが離れる。

 そして、頃合いなのだろうか、構えを解いた。


「驚きましたよ。 まさか、ここまでやれるとは」


「俺もですよ。 王子の剣も一撃が重かったし、技もすごかった」


「いやー、びっくりしたよ。 まさか、この地下で激しい剣劇を見ることになるとはね」


 お互いを賞賛している間に、アリア達が帰ってきたみたいだ。

 ナナやノノだけでなく…ゆかなと、初めて見る女性もいた。


「有人君!!」


「ゆかな、久しぶりだな」


 ゆかなが俺に近づき、抱きしめる。


「ようやく会えた…! この世界に転移された時には会えないかとおもったんだから!!」


 目に涙を浮かべつつ、再会を喜んでいた。

 その傍らで、女性が近づいてきて、挨拶し始めた。


「初めまして、アルト様。 私はエクリプス皇国の皇女、シャリア・エクリプスと申します。 お知り合いであるゆかなさんを保護した者です」


「九重 有人と言います。 友達を保護していただいてありがとうございます」


 自己紹介を済ませた後、俺はナナの方を見た。


「お兄ちゃん、ごめんね。 私が調子に乗ったせいで苦しむ羽目になっちゃったんだよね」


 申し訳なさそうに謝るナナに俺は、ナナの頭を撫でてこう言った。


「いや、俺も大人げなかったよ、ごめんな」


「でも、お兄ちゃんは…トラウマのせいで…」


「さっきまでウィン王子と剣を打ち込んだおかげですっきりしたから大丈夫さ」


 頭を撫でたまま、ナナをフォローする。

 その傍らで、ウィン王子はアリアと話していた。


「アリア姉さん達はいつからそこに?」


「ウィンとアルト君は気付いてなかったけど、10分前に帰ってきたんだ。 竹刀の音が聞こえたから地下に行ってみたらすごい打ち合いをしてたんだから」


「今の打ち合い見てたんですか?」


「そうだよ。 ウィンの技を見たこともない技でアルト君が食い止めたり、カウンター攻撃したりでびっくりしたよ。 ゆかなちゃんは知ってたみたいだけど」


「ええ、私の家系の道場で神楽流という剣術の技ですよ。 有人君は、その剣術の達人クラスだったんです」


 そんなとめどない会話をしているうちに、夜になったようで全員で食事をした後、この別荘にみんな泊まることになった。

 明日、色々聞いておこうと思う。


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