18 メイドとのお話
孤児院で働く他のメイドさん達が、買い物から帰ってきた。
メイドさんは4人で、俺と年下か、同い年の人ばかりだ。
なお、そのうちの二人は男の子をおんぶしていた。
荷物を置いた後、一人のメイドさんがこっちに来た。
「えーと、あなたたちがメルル院長が言っていた転移被害者の方ですか?」
「え、はい。 九重有人です」
「私は高槻 七海。あと、子供たちと一緒に寝てるのが双子の高槻 野乃香だよ」
「これはどうも。 私はフェリシア・ナンと言います。 子供たちの面倒を見ていただいてありがとうございます」
オレンジ色のポニーテールを揺らしながら、俺たちに一礼をするフェリシアさん。
そして、俺の横ですやすやと寝息を立てているフィーネちゃんを見るとこう言ってきた。
「それにしても、アルトさんはすごいですね。 他人にはめったに懐かないフィーちゃんがアルトさんの傍で安心して寝ているんですから」
「ええ、目線が合った瞬間から、甘えに来ましたから。 せっかくですのでいっぱい遊んであげました」
フェリシアさんにそう返しながら、フィーネちゃんの頭を優しく撫でる。
心なしか嬉しそうな表情を浮かべていた気がした。
「聞いたところ、俺に父性を感じて甘えに来たんだとか…」
「ええ、フィーちゃんの両親は違法奴隷商人たちに殺された上で、奴隷にされかけたから…」
やはり、先ほどのアリアの予測は当たっていたか。
フェリシアさんの話によれば、犬耳の幼女は人族至上主義国家から見れば、玩具的な価値があるからだそうだ。
だから、七人委員会の取り決めに対して反感を持つ領主たちを通じて人族至上主義国家に奴隷として売りさばこうとしていた。
しかし、大半は七人委員会所属国家に止められ、一部は断罪された。
この下りもアリアやメルルから聞いたのと合致する。
「フィーちゃんは、そのせいで他人を怖がるようになったんです。 孤児院に引き取られてからは私たちにはなんとか懐いてくれましたが」
「そうなんですか…」
「まぁ、私やノノにも懐いてるあたり、マシになったってことなのかもしれないけど…」
「ええ、ナナミさんの察した通り、他人を怖がるために、まだお外で遊べないんです」
やっぱりか。
あれだけ幼いころからトラウマを植え付けられればそうなるか。
そう考えてると、メルルがフェリシアさんの横に来た。
「そういえば、予定より帰還が遅れたのは…?」
「ええ、どうも南地区が何かの理由で封鎖されちゃったので、回り道して帰ってきたのですよ」
「封鎖?」
「なんでも、南の森に危険な熊が現れたとかで、南地区の人たちは東地区に避難していますよ」
もしかして、アリアから聞いた闇夜の森に入り込んだグリズリーの事だろうか?
でも、奴の取り巻きの一人は死んだけど、エリーゼ王女に倒されたはずじゃ?
ナナも嫌な予感を察したのでフェリシアさんに聞いた。
「もしかして、もう一頭いたの?」
「ええ、封鎖を担当していた騎士団の方から聞いた話だと、エリーゼ様が倒した熊は子連れだったみたいで…、残された子供が街に入り込んで食い殺す可能性もあったので一時封鎖したとのことです」
子連れだったのかよ、その熊…。
確かに下手したら人間を食いかねない危険性があるから、封鎖せざるおえないだろうな。
「ということはその子熊が死なない限り、南地区は閉鎖状態のままと?」
「ええ、そのようですよ、院長」
ああ、やはりか。
メルルが不安を感じて聞いてきたようだが、予感は的中だった。
俺は、ショックを受けるメルルにその理由を聞いてみたらこう返ってきた。
「南地区は、大きな遊園地があるんです。 月に数回はそこに子供たちを連れてあげてたんですよ」
「遊園地? 結構人気なの?」
「ええ、城下町内では人気の場所なんです。 4日後、一緒に行く予定だったのですが…」
子供たちのために遊園地に連れて行ってたのか。
封鎖されてる以上そこには行けないのは仕方がないにしろ、子供たちは楽しみにしているのだろうな。
「そこはエリーゼ王女や騎士団次第だろうなぁ」
「うん、上手く子熊を見つけて処分してくれることを祈るしかないね」
俺とナナはこう言う事しかできない。
ここに転移されてからはあまり経ってないし、何より訓練は明日からだ。
いくらなんでも急激に強くなることはないだろうから、しばらくは強い人が何とかしてくれることを祈るばかり。
「それで、アルトさんにお願いがあるんですが」
「何でしょう?」
色々考えていると、フェリシアさんが俺にお願いをしてきた。
何だろうと聞いてみると…
「フィーちゃんのこと、お願いしてもいいでしょうか?」
「フィーネちゃんを?」
「ええ、見た限りだと完全にアルトさんに懐いていますし、アルト自身も満更ではないようですから」
「そだねぇ、フィーネちゃん、お兄ちゃんをお父さんのように慕ってる節があるし、他の幼い子と比べると一番傍にいてあげないといけないかもね」
なるほどなぁ。
確かに今の状況では一人にした時点で泣いてしまいそうだし、そのほうがいいか。
「アリアもそれでいいか?」
「ああ、そうだね。 今までの話を聞いた以上、フィーネちゃんはアルト君を中心に面倒を見てあげたほうがいいよ」
しばらく他の仕事に勤しんでいたアリアも了承してくれた。
「分かりました。 この子のことは俺たちで面倒を見ます」
「すみません、今後の事とかで忙しいかもしれないのに」
そんな感じで、犬耳の幼女のフィーネちゃんは俺たちで面倒を見ることになった。




