11.冒険開始
今まで前書きなどをメモ感覚で感想書いていたけど、
もしや本来は報告を書く場所なのではないかと思い始めた。
朝日に照らされた雪解け水がキラキラと反射する小川を作っている。
涼しい時期は過ごしやすいけど、暖かい今も過ごしやすいくて、目が覚めたので朝日を浴びに来たのに、また寝てしまおうか、なんて考えが浮ぶ、頭は未だに寝ぼけているようだ。
このままだと本当に、愛おしい布団に吸い込まれそうなので顔を洗って目を覚ます。
水道が無いので不便と最初こそ思っていたのに、今となっては冬は温かくて、夏は冷たい井戸が無いなんて考えられない。
頭もスッキリしたので家に戻ると、既に朝食の準備は出来ていたようなので、急いで席に付いて食べ始める。
そう言えば、異世界らしく食事の祈りはないのだろうかと、前に聞いたことがあったのだけど。
知らないようなので、命を頂くことに関してと伝えたところ、奪う覚悟をして殺したものに後から謝るなんて侮辱だと言われ、異世界を感じた。
感じたかった異世界じゃなかった。
腹ごしらえも済んだので、今日の予定を考えているとバルトリウスさんに呼ばれてしまった、何も悪いことしないよ! 鍬も大切にしてるよ!
「もう暖かくなってきたな、そろそろ世界を見てこい」
朝から呼び出されることなんて普段は無いので、なにか怒られることでもしてしまったかと内心はビクビクしていたのだが、こんどは別の意味でビクビクしなくてはいけない。
外が吹雪で家から出られなかった期間は探索者になるために鍛えてもらっていたのだ。
初日で心が折れかけたと思う。
もともと平和な世界で暮らしていた、一般人に避けられなければ死ぬぞ、というのは無理がないだろうか。
自分で鍛えてくれと頼んだので辞めてくれなんて言えるわけもなくて、心をすり潰しながら、言われたことだけする人形のように徹し続けた。
そして、このまま村人のままでも問題ない気がしてきた。
だって俺は別に世界を救えなんて使命を背負ってないし、特別な力なんて無いし、身分相応という言葉が今ほど正しいと思った事は初めてだ。
「わがままに付き合ってもらって、本当に申し訳ないんですけど、俺もう村で暮らしてる方が幸せな気がしてきたんです」
行動力とは心から出てくるものだと思う、だってバルトリウスさん相手にここまで言えたのだから。
「なら肉を狩ってきてくれ、そのあとで旅に出るか決めろ」
ここで暮らしていくと言った途端こき使われるなんて、やっぱり旅に出た方が良いのか?
いや、鍛えるだけだったから死にこそしなかったけど、この世界があんなに厳しいなら実戦なんて即死に決まっている。
さすがに連続で断るなんて出来ないので、しぶしぶ準備に取り掛かると不思議な事がいくつも起きる。
あれ? 荷物が軽い、入れ忘れは無いのだけど。
おかしいな、この道を前に登った時はもっと辛かったのに。
久しぶりの狩りなので、気のせいかとも思ったけれど、これだけは間違えるはずもない。
俺の愛鍬である粉砕丸は前に持った時、もっと重かったはずだ、ずっと畑で振り続けて、この鍬ひとつで戦いもしたのだから、勘違いという事はないだろう。
そして改めて自分を見てみると、俺も更に筋肉がついたものだ、前は身体が締まっているという程度だったのが、今では力を入れると盛り上がるまでに成長して、実はポーチングするのが日課になっていたりする。
そう考えると確かに前の俺より、はるかに強くなったと思う、それなのにバルトリウスさんと戦えば瞬殺なのだ、そのうえ、より強いやつは沢山いるなんて言われると、冒険より安全を選んでしまうのは仕方ないと思う。
あれやこれやと言いながら、山道を進んでいくと初めて見る生き物がいる。
なんだアレは、鹿のようだけど俺の知っている鹿はあんなに青くないし、角もあそこまで透き通って綺麗じゃない。
未知の相手に挑みたくはないが、あの美しい角から目が離せない、どうしてもアレが欲しいと心が叫んでいる。
盗賊のときに嫌な予感を振り切って後悔したので、それを教訓に俺はこれから勘を信じることにすると決めたのだ。
と決めたまではいいのだけど、人より余程に速いであろう鹿を相手に、鍬で殴りかかるというのも如何なものなのか、何かないのかと手元にある物を確認してみる、縄やらナイフなどが入っている荷物、鍬、石、石、石。
神は言っている、石を投げろと。
無宗教者は気軽に神という言葉を使うと、神話にハマっていた時は腹を立てていたものだが、いざ自分が使う時になって分かった気がする。
神という言葉は何かと都合がいい、物凄いことを例える時とか、決意する時とか。
数時間前の俺に石で鹿を倒すのどう思う? なんて聞いたらお前は馬鹿かと思うに違いないけど、今はいける気しかしないので野球のフォームで石を全力投球する。
野球も歴史が長いので、こと小さなものを投げる時、あれほど力の入る投げ方はそうそうないだろう。
我ながら最高の投球だったのではと顔を上げると鹿がこちらへと突撃してくる。
……なぜ!? 外すにしても、当たったとしても逃げるものとばかり思っていたので、走り出そうと意気込んでいたのが仇となってしまった。
投球後に走り出すようなポーズで今更、避けるなんて器用なことは出来ないし、荷物も重りにならないよう木陰に置いていたが攻撃のために粉砕丸だけは握っていた。
今は外したらなんて考える余裕もなく、ただ全力で迫り来る鹿へ振り抜く。
振り下ろしながら思ったことは、走り出すために張っていた筋肉や程よく開いていた足のおかげでかつてない力の入った振り下ろしであったこと。
ゲームならこんな表示が出ていたことだろう、クリティカル!
物の見事に鹿野郎の脳天を穿ち抜いた粉砕丸はやはり、脳天穿ち丸に改名するべきだろうか、否、ただでさえ大地粉砕丸と名ずけて可哀想なモノを見る目で引かれてるのに、脳天丸なんて言ってこれ以上は気持ち悪がられたくない。
鍬こと粉砕丸を引き抜いて綺麗にして、鹿はどうしたものか、さすがに鹿なんて重たくて持ち上がらないし、ここで解体するには他の生き物が寄ってきて危険だ。
量より安全を優先して、泣く泣く頭と両足を抱えて帰ることにした。
だけど、この引き寄せられる魅力的な角はアリウスちゃんにあげたら喜んでくれそうだ、気持ちのせいだろうか荷物は増えたのに行きよりも軽々と山を降りて村が見えてきた、もうすぐ家につく、狩った獲物を見て驚いてくれるだろうか。
「うお、早くその角を捨ててこい」
戦利品を見せて第一声がそれだった。
「なぜですか、引き寄せられる程に綺麗でしょう!」
「だからだよ」
あの鹿はラジヴデラという名前らしい、言いにくいうえに濁点が多いと思います、そのうち言おうとしたら舌がもげそうな名前もありそうだ。
そしてその生態を聞くと思わず肝が冷えてしまった、あの綺麗な角は見ると催眠作用があり、引き寄せられた獲物を突き殺して食べるらしい。
危なかった、完全に引き寄せられていた。
それにしても美しい私は美しい物しか食べない、みたいな見た目で肉食なのかよ。
世界が変わっても進化は生きるためにするようです。
「ヨモ、狩りはどうだった」
「正直に言うと怖いですけど、それよりも……努力して何かを手に入れるのが楽しかった」
「世の中には、より価値あるものがより多くある、楽しめる内に楽しんだ方がいい」
そうか、異世界だって現実的で、生きることに夢中になっていたけど、最初に来たときに思ったはずだった『冒険がしたい』いつから考えなくなったのか。
忘れて久しいけれど、考えなかっただけで夢がなくなったわけじゃない。
「バルトリウスさん、俺、冒険に行ってきます」
異世界なのだから呼び方も変わるだろうと生き物の名前をオリジナルにしようと思ったのですが、考えた名をネットで調べると既に何かしらで存在していて、仕方ないので適当に浮かんだ言葉にします、そのせいで忘れそうですが、ごめんなさい。




