第五十七話 狂気に満ちた賢者
亜神のネクティスは前前勇者のアリフィナに肩を貸してもらいなんとか自分で歩いて逃げていた。
「ハア、ハア、ハア、助かった。ありがとうアリフィナ」
ネクティスが息を荒げながらアリフィナに感謝する。
「礼には及びませんわ。あなたには恩があります」
アリフィナはそんなことをいいながらも少し照れて顔を赤くした。
「ハッ、恩か。まだそんなことを言っているのか。俺は自分のスキルであんたを操ってだぞ」
ネクティスは少し自嘲気味に笑う。
「何度だっていいますわ。それでもそのお陰で私が行きていることには変わりませんから」
「そうかよ」
「おやおや、カップルですか?いいですね。見ていると俺まで心が踊ってきます」
突然後ろから話しかけられる。そこにはいつの間にかグレイノアが立っていた。
「…フッ、ここまでか」
ネクティスは少し悲しそうに目線を下げた。
「いえいえ、殺しませんよ。ただ、あなたに贈り物を届けに来ただけです」
そう言うとグレイノアは何かを投げた。
ゴトゴト 魔神の生首が二つ転がる。
「…嘘でしょう。フルカス様とプルソン様、⋯あなたが殺したのか」
亜神は驚いて振り返りグレイノアの顔を凝視した。
「ヒャッ、⋯」
振り向いた方向がアリフィナの方だったので若干顔が近くなりアリフィナが顔を赤くしている。
「いえ、俺の仲間です。そんなことよりも、ヤルダバオートに言っといてください。次はお前です。覚悟してくださいね。と」
グレイノアはそう宣言し不敵に笑う。
「なら、私からも一つ言わせてあなた達が何を企んでいるのかは知らないけど、次こそは私が魔王を打ち倒すと」
気を取り直したアリフィナが勢いよくグレイノアを睨みつけた。
「⋯ふ〜ん。いいですねえ。いいですね〜。楽しみに待っておきますよ。ハハッ、ハハハハハハ」
グレイノアの狂ったような嗤い声が墓場全体に木霊した。
⋯⋯⋯
「ただいま」
言いたいことを十分に言ったグレイノアはそそっくさと仲間の元に戻ってきた。
「おう。おかえり。で、結局逃がしたのか?」
イヴァイルが戻ってきてすぐに問いかけてきた。彼は魔力探知でネクティスたちの魔力が消えていないことに気づき、気になったのだろう。
「ええ、彼らは将来有望ですから。まあ、ライバルぐらいいないと全面戦争が盛り上がらないでしょう。ああ、でも何もしてないわけではないですよ。挑発してきました」
グレイノアは胸を張った。正直相手がイヴァイルじゃなきゃみんな何いってんだとなりそうだ。
「へえ、いいじゃねえか。お前が有望なんていうだ。期待しとくぜ」
イヴァイルはポジティブ?であった。
「それは責任重大ですね。少し私たちでは物足りないかもしれません。でも、きっと満足する結果にはなるでしょう」
「ヘッ、そうかよ」
「まあ、取りあえず旅を続けましょう」
「そうだな。⋯なあ、お前が彼らを逃がしたのはほんとに将来有望だけか?」
「⋯さあ、どうでしょうね。まあ、何はともあれ」
グレイノアは他の仲間の方を見る。
「うっぐ」
ガンダルが顎の痛みに耐えていた。
「うわ〜これはもろにいったね。ほんとよく動けているね。バセデさんも怪我している所はありませんか?治しますよ」
ルシリアが残り少ない魔力でガンダルを治している。
「無傷なので大丈夫ですよ。あと、怪我しても勝手に治りますから」
バセデは申し訳なさと多分その神聖魔法は悪魔にとって毒だから二重の意味で遠慮した。
「ルシリアちゃんほんとにすごいありんす。やっぱり今回のMVPはルシリアちゃんでありんすよ」
きなこがルシリアを嬉しそうに褒める。
「もう、きなこちゃん大げさだよ。それに活躍といったら主犯を倒したガンダルさんもすごいんじゃないかな?」
ルシリアもそう言っているが満更でもなさそうだ。
「でも、敵逃がしちゃってるでありんす」
「それに関しては、すまない」
ガンダルが申し訳なさそうに謝る。
「別に問題ないですよ。あなただって大変だったんでしょう?それを言ったらイヴァイルとグレイノアはわざとだよ。あれが一番の戦犯だよ」
それを今まで接点のないはずのリュブナンが何故かフォローした。残虐と狂気の悪魔と言われる彼女にしては珍しい。
「「「それはほんとにそう」」」
カマエル、ルシリア、リュブナンはそんなことより二人の戦犯の怒りのほうが脳に響いたみたいだ。
「⋯フォフォフォ」
バセデも何も言えない。
「今回のことは彼らのためになったでしょう」
グレイノアはそう言って微笑ましい顔になる。それを見たイヴァイルが思わず突っ込んだ。
「お前、言いたい放題じゃないか」
⋯一方亜神は前前勇者によって真実を聞かされた。
「そうか。あれが勇者が魔王か。かなり今回の敵は絶望的だな。⋯死にたくないな〜」
ネクティスはため息をつきながら上を見上げる。
「そうね。私もあなたを失いたくないわ。それに、私は絶対に魔王は倒す」
対象的にアリフィナはイヴァイルを思い返し殺意を高ぶらせていた。
「そうか。すまないがアリフィナ、体術を教えてもらえないか。もしも次も今回のことがあるならすぐに足手まといになってしまう」
ネクティスは少し恥ずかしそうに頬掻きながらお願いした。
「いいわ。みっちりしごいてあげる」
アリフィナが自信満々に答えた。
「面倒なのは嫌なんだが」
ネクティスがめっちゃ嫌な顔をする。それを聞いたアリフィナが笑う。
「フフフ、もう、主様は怠惰なんだから」
「そうだな。アハハハ」
「フフフ」
「アハハハ」
二人が仲良く帰っている時は少しだけ主従関係以外の絆が垣間見えたような。




