「その名」が「腐る」
カンナキ
源愿太郎の所持する「真殻咲」は進化する。
本来真殻咲には所有者の幸運を増幅させる力と幸福の対価として他人を不幸にさせる正負の力が存在している。
基本的にそれらに飲まれる人間がほとんどだ。
しかし源愿太郎にはどちらの力にも飲まれない謎の抗体がある。
それ故に真殻咲の真の力が発揮されていないのだ。
愿太郎はそのことに気付いている訳もなく真殻咲を単なる武器として使用しる。
このことにイラつきを覚えている者たちがいた。
それは真殻咲を製造した一族である「真殻咲一族」だった。
真殻咲一族は代々真殻咲の売買で生計を立てている一族だ。
彼らが作った真殻咲は全盛期は200本ほどあったが、度重なる戦火によりほとんどが消失。今では愿太郎の持つ「青紫色の真殻咲」と一族が所有する「赤黒い真殻咲」と「純白の真殻咲」とバチカン市国に保管されている「黄金の真殻咲」だけになってしまった。
真殻咲をまた作ればいいと言う人間がいるが製造はそう容易ではない。
製造には「一人の人間の命」と「蟲毒」と「大量の血」が必要だ。
それらを用意することは非常に困難でありモラルや倫理が邪魔をする。
更に真殻咲一族の衰退もあり300人いた親族も今や20人にまで減った。
現当主である「真殻咲 常」は愿太郎の持つ真殻咲を何としても回収すべしと家族全員に命ずると自身も真殻咲奪還に乗り出す。
刺客を送り出すことも考えたがそれはあまりにも大胆すぎる。
まずは監視からだ。
源愿太郎の位置は把握しているのであとはタイミングだけだ。
しかし真殻咲を奪おうにも様々な妨害があり中々奪えない。
恐らく真殻咲の影響なのだろうがここまで強力に持ち主を守ろうとする反応を見たのは初めてのことで驚きを隠せなかった。
次々と病院送りにされる監視部隊に苛立ちを覚えた「真殻咲 愈堕」は直接奪いにいくと常に申し込んだが、次期繫主である愈堕が行き命の危険があった場合取り返しのつかない事態に陥る可能性があるため許さなかった。
しかし愈堕の信念と執念に押され自身の持つ「純白の真殻咲」を預け渡すと愿太郎の居場所と生活リズムを教え旅立ちを見守った。
東京へ着くといきなり愿太郎の元へは向かわず周辺地域で潜伏場所を整える。
ホテルの一室を潜伏場所にすると翌日には愿太郎の元へ向かった。
愿太郎の場所は自然とわかるような感覚を覚えた。それは真殻咲が共鳴しているのか、はたまた教えられた情報が頭に入っているのか、それはわからなかった。
愿太郎は大学終わりに姉の家に預けていた洋服を受け取りに行こうとしていた。
今日はとくに退屈な日で早く帰ってゲームでもしたいと考えながら、新しく開店されたコンビニエンスストアを横目に街をダラダラ歩いていた。
すると目の前に和装を着た短髪で白髪の男がまるで自分を待っていたかのようにニヤニヤしながら壁に寄りかかっていた。
腕には自身の持つ真殻咲と似たような鎖を巻いており身構える。
「お前が源愿太郎か……案外若いなぁ同い年くらいか?」
どこかの地方の訛りなのかかなり話し方がぎこちない?
「そうですけど、お会いしたことありましたっけ」
愈堕は愿太郎の腕に巻かれた真殻咲を見ながらニヤリと口角を上げると袖を捲り自身の真殻咲を見せる。
「俺も持ってるんだよ真殻咲」
「お前一体誰なんだ」
「俺は真殻咲 愈堕。その真殻咲作ってる一族の次期繫主だ」
「繫主?」
「そう……つまりは真殻咲家の子孫を繫栄させる役割ってわけだ」
その不敵な笑みは愿太郎の心の中に侵入してくるような感覚を覚え自然と距離を取ってしまい、それを見抜いたのか愈堕は更に詰め寄る。
「お前の真殻咲が必要なんだよねぇ…それ1000万円で買ったるから、それくれないか?」
「何に使う気だ」
「教えんよ」
愈堕は袖を整えると少し考える。
そして懐から1000万の札束を取り出し厭味ったらしく投げつけた。
「ほら拾えや」
愿太郎はニヤニヤしながらこちらの様子を伺う愈堕に酷く憤慨したが真殻咲がそれを吸い取っているのか冷静になり1000万円を拾うと丁寧に返す。
「いらねぇよ」
その場の空気が全身に突き刺さるくらいに強烈な緊張感を放った。
「取ってれば穏便に済ましてやったのに……お前ちょっとこっちこいや」
愈堕は人気の無い公園に連れ出す。
「こうなったら力づくでもやったるわ」
袖を捲り純白に光り輝く真殻咲を見せつける。
純白にもかかわらず怪しく光り輝いている異質な雰囲気を醸し出していた。
それに共鳴するかのように愿太郎の真殻咲がどす黒く輝きだす。
「ははは!それでいいんだ!それで!さぁやろうや!」
愈堕の真殻咲が急速に放出され愈堕の身体を持ち上げる。
そして懐に隠し持っていたナイフを投げつける。
射出機のような速度と威力を兼ね備えた異常な連続攻撃。
愿太郎も防御に転じるが真殻咲の使い方は上手。
雑な攻撃と防御では到底勝てる相手ではない。
ナイフは脆い真殻咲の鎖の盾を容易に突破し肩に突き刺さる。
「っく!痛ってぇ!」
愿太郎はナイフを抜こうとするが中目が前に話していた「ナイフが刺さってもすぐ抜くな」という言葉を思い出し手を止める。
「へぇ~耐えるんや」
「お前の方が…使い方が上手いのはわかった……けどこれは渡さない!」
「なんでや。そんなもん持っててもろくなことないやろ」
「俺はこの真殻咲に人生を預けてんだよ」
「はぁ……?」
「だから俺はこれを渡さないぃ!俺はこいつと生きて死ぬ!」
愈堕はその言葉を聞き閑静な住宅街の静寂さを突き破るように大爆笑した。
「おもろいなぁじぶん!はぁ!人生預けたんか!……まぁ今日のところは見逃したるわ。今から10秒やる。10秒間俺は五感全部なくしたことにしたるわ。ほら!始めんで!10~!」
愿太郎は肩を抑えながら住宅街をかき分け遠くへと逃げた。
「はぁ~……めんどいけど帰るか」
愈堕は愿太郎の「人生を預けた」という言葉に妙な安心感を覚え空を見上げると、崩れた着物を直し真殻咲家へと戻った。
「せっかく東京来たし寿司でも食ってくか」
3日後
真殻咲家に戻った愈堕はこのことを憤慨する常に話した。
「なぜ逃がしたんだ貴様!」
頭をかきむしり言い訳を考えながらダラダラと話し出す。
「まぁ~真殻咲を悪用してんなら倒しとったけどそんな様子も無くて」
「どんな奴であろうと『あれ』は回収しろと言ったはずだぞ!」
「タイミングっちゅうもんがあるからなぁ……一先ずまだや」
「このぉっ!恥さらしがぁ!」
「あんなぁ……もうあんたの時代ちゃうねん」
「なんだと!」
「元々あんたは当主候補だった有矢さんが死んで繰り上がりで当主になったラッキーボーイやんか。真殻咲譲り受けても実戦で使ったことは一回もなく牽制のために保有してるだけ。製造を強いられてもモラルや倫理観を説いて作ろうともしない。更には奥さんもいなけりゃ子供産ませる女もいない。こんな出来損ない当主……真殻咲の名が腐るわ」
「貴様ぁ!愈堕ぁぁぁぁ!」
「なんやねん。俺は今21歳や。子供も時期に12人くらい産まれるし奥さんも5人おる。あんたは周りに誰がおんねん」
「っ……!このクズがぁ!有矢に似てゲスな野郎が!」
「もう59歳のおっさんにそんなこと言われてもなぁ…響かんわ」
「うおおおおおお!!!!!!!!!」
常は右腕を伸ばし真殻咲を放出しようとしたが腕に真殻咲は巻かれていなかった。
「真殻咲奪われても気付かん木偶の棒に当主は務まらんわ…今日から俺が当主や」
愈堕は新たに巻かれた2本目の赤黒い真殻咲と純白の真殻咲を掛け合わせ常の心臓を勢い良く貫くと体内で暴れさせ確実に息の根を止めた。
「き…きさま……真殻咲をどうするつもりだ……!」
「あんたより上手く使わせてもらいますよ。少なくともあと100年真殻咲の安泰は確約されていますけどねぇ。俺、意外と慎重派なんですよ」
常の遺体の首をはね真殻咲一族全員を呼び出し声高らかに宣言する。
それは真殻咲にとって光の時代になるのか闇の時代となるのか。
「みんなに悲しい報告がある。当主であった真殻咲常がこの真殻咲家を滅ぼそうとしとった。俺が何とか寸前のとこで止めたが当主である人間がこの家を滅ぼそうと画策してたと考えると心が痛いわ。有矢さんも毒殺したと自供しとったわ。というわけでええか!今日からこの真殻咲愈堕が当主兼繫主や!特に命令はせんしこの結果を受け入れん奴は受け入れなくていい!着いてくるやつだけ着いてこい!あと源愿太郎やけどあいつはもう少し様子見や!ええな!」
一族は静かに頷くと愈堕は自室に戻り2本の真殻咲を撫でた。
「あとはバチカンにある一本を回収すれば3つは1つになる…!そうして俺の時代が始まるんや!どんな組織も!どんな能力者も!暁の尊も!俺の手下になるんや!げーっははははははは!!!」
愈堕の思い描く未来予想図のページが静かに書き進められていた。




