「奪い」とる「盾」その②
リーアのおかげか道を塞いでいた感染者は続々と倒れ出し船内を突き進むことができた。ドージョットもバリアで感染者を跳ね除けていく。今行くべきは操縦室だろう。操縦室には武器を持った船員がおり、今この船が動いているのも船員がこの状況でも生きているという証拠だ。自分たちのいる3階の客室エリアと2階の操縦室は階層では近いものの場所としてはかなり遠い位置に存在している。一応近付いているがそれでもかなり距離があるため油断が出来ない。更に背負っているリーアによって体力の消耗も激しい。休んでいる暇もない。しかも入れてくれる保証もない。しかし今は行くしかない。ドージョットは紐を結びなおしリーアをしっかり抱え感染者のいる地帯を突き進んだ。そうして15分ほど歩くと操縦室の前に到着した「おい!あけてくれ!俺は感染していない!2人いる!一人は病人だ!助けてくれ!」すると操縦室の重厚な扉が開き船員により別室へと通された。操縦室には疲弊した船員が海の広がる窓を眺めながら操縦をしていた。殺伐とした室内で休息を取るとリーアに胃薬を飲ませる。リーアの能力は「吸収」しそれを「消化」する。それは食事と同じ。過剰に摂取すると消化のスピードが悪くなる。なのでそれらを和らげる胃薬を飲ませた。閉じた目に目薬をさし3時間の点滴によるブドウ糖を摂取させ女性船員専用の部屋へ案内され空いているベッドに寝かせた。自分は疲弊した船員の手伝いをした。そうして辺りが暗くなった頃船員から休憩してもいいと言われたのでリーアと同じ部屋で眠った。3時間半後目を覚ますと船から2㎞先に陸地が広がっていた。しかし船は停止していた。陸地に着き船の入口を開ければ中にいるゾンビが陸地に流れ込む可能性があるからだ。今この海上で感染者全員をどうにかしなければいけない。リーアが何十人かは力を吸収し無力化させているがその力ばかりに頼っていることも出来ない。船員の持つ銃の弾数にも限りがある。船員の間で議論が交わされる中、ドージョットが手を挙げた「俺なりの考えなんですが…恐らくこの船内にはこの状況を作り出した張本人が潜伏していると思うんです。ゾンビを全員殺してもそいつが陸地に降り立った場合これ以上の大惨事を起こす可能性が高いです」船員は苛立つ表情で突っかかる「それは誰だよ!というかそいつを見つけたとしてどうするんだよ!お前がやるっていうのか?あぁ?」「…はい。恐らく犯人は能力者です。能力者でしか対処できません」「じゃあお前とその死体と一緒に船内をこんなことにした犯人を殺せ!」すると船長が重い腰を上げて一喝する「いい加減にしろ!お前如きの判断で乗客の生死を決めるな!ドージョットくん。君の勇敢さには心から尊敬の意を込めるがたった一人でこの惨状に立ち向かうのは非常に危険だ。君にはバリアのような力があるのはわかった。しかし攻撃手段がなくてはこんな船内も突き進むことはできないだろう。3人の船員と共に向かいなさい。そして我々もいつまでも防御の姿勢では事態は良くなることはない。この船に蔓延る感染者達はもう我々の乗客ではない!躊躇せず殺し損ねることだけは絶対にするな!そして我々でこの惨状を終わらせるのだ!いいか!」船内は静まり返り途轍もない緊張感がのしかかる。「いいな!」「…ラジャー!」こうして船を海の方向へ進めると船員は各々準備をし始めた。ドージョットもリーアのことを船員に任せ靴紐を結びなおすと船員達と共に操縦室外へと出発した。操縦室の重い扉が閉まる音がやけに大きく響いた。廊下は静かだった。あまりにも静かすぎた。「……おかしいな」銃を構えた船員の一人が低く呟く。「さっきまでこの辺り、かなりの数がいたはずだ」ドージョットは眉をひそめる。ガンッ!!背後の壁が内側から弾け飛んだ。「ッ!!」反応したのはドージョットが先だった。咄嗟に手のひらをかざす。バリア展開。直径50cmの円形障壁が、飛び散る破片と共に受け止めた。「なっ……!?」船員が息を呑む。バリアの向こう側にいたのは明らかに「他の感染者」とは違う存在だった。皮膚は黒ずみ血管のようなものが全身に浮き出ている。だが目は濁っていない。むしろ理性がある。「……見つけた」低くはっきりとした声だった。感染者が喋った。「能力者、か」ドージョットはゆっくりとバリアを押し出し距離を取る。「お前が……この船をこうしたのか」男は笑った。口元だけが歪に吊り上がる。「ああそうだぜ。正確には試しただけだがな」船員の一人が発砲する。だが弾は男の身体に当たった瞬間吸い込まれるように消えた。男は一歩踏み出す。その足元で倒れていた感染者がゆっくりと起き上がる。「俺の能力は感染と感染の支配だ。触れたものはゾンビウイルスで侵される。そして俺の意思で動かすことが出来る」さらに数体の周囲の死体が起き上がる。船員の顔が青ざめた。「……冗談じゃねえ」ドージョットは歯を食いしばる。(リーアと同系統……いやもっと直接的で危険な能力だ)「お前……何が目的だ」「実験だよ実験。」男はあっさりと答えた。「能力者同士の優劣。極限状態での適応。どこまで人は壊れても動けるかの実験だ」そしてドージョットを真っ直ぐ見た。「お前もその一つだ」一斉に感染者が動き出す。「来るぞぉ!!」船員が叫ぶ。ドージョットは前に出た。「俺が前に出る!後ろは頼む!」バリアを連続展開。一体、二体と弾き飛ばす。だが数が多すぎる。横から飛びかかってきた一体を船員が撃ち抜く。「クソッ弾が持たねえ!」敵の男がふっと腕を上げると床に倒れていた死体が一斉に跳ね上がる。「無敵か!!」完全な包囲により逃げ場はない。ドージョットは一瞬だけ目を閉じた。(考えろ……俺のバイアは守るだけなのか?)ドージョットは幼少期のことを思い出す。幼少期に父親と始めてみた「キャプテン・アメリカ」あれはドージョットにとって強烈なインパクトを残した「ねぇ!何でキャプテンアメリカは盾しか使わないの!」すると父親は少しだけ考えるように空を見上げてからやさしく笑った。「いい質問だな」子どもの頭を軽く撫でながらゆっくりと言葉を選ぶ。「キャプテンアメリカはね、守ることを一番大事にしてるヒーローなんだ」「守る?」「そう。普通のヒーローは強い武器で敵を倒そうとするだろ?でも彼は違う」父親は手で円を描くような仕草をした。「盾っていうのは本来『誰かを守る』ためのものだよな。自分を守るだけじゃなくて、大事な人や仲間を守るためのもの」子どもは少し考えるように首をかしげる。「でも、それじゃ攻撃できないじゃん」すると父親はくすっと笑った。「いや、あの盾は守るだけじゃないんだ。投げれば攻撃にもなる。だがな」少しだけ真面目な顔になる。「まず守る。それが彼の盾というものに込めた信念なんだよ」「信念…?」「どんなに強い敵が相手でもまずは誰かを守る。自分が傷ついてもな。それがキャプテンアメリカってヒーローなんだ」子どもの目が少しずつ輝いていく。「じゃあ…一番かっこいいヒーローってこと?」父親は即答した。「ああ、すごくかっこいいヒーローだ」少し間を置いてこう付け加えた。「『戦うために強い』んじゃなくて『守るために強い』っていうのがな」子どもは大きくうなずいた。「ぼくもそんなヒーローになりたい!」父親は笑って言った。「なれるさ。誰かを守りたいって思えるなら、もう半分はヒーローだよ」その言葉に、子どもは誇らしそうに胸を張った。「全員、俺の後ろに下がれ!!」「なに!?」「いいから!!」ドージョットはバリアを展開する。今までのような「防御」ではない。思い切り振りかぶるとバリアをフリスビーのように投げつけた「うおおおおおおッ!!」押し寄せてきた感染者の群れをまとめて吹き飛ばした。「……!?」船員が息を呑む。「この使い方……キャプテンアメリカかよ」だがドージョットは膝をついた。「はぁ……っ、はぁ……っ」(意外に切り離して維持させる時の消耗が……でかい……!)男はそれを見て満足そうに笑う。「いいな。その応用力。若い!若すぎる!だがまだ足りない」ゆっくりと近づいてくる。その手がドージョットへと伸びる。「触れれば終わりだ。あーそういえば最後に俺の名前を教えてやる。俺はフリート・コンドラ。元研究者だ。じゃあな自称ヒーロー君!」すると背後からか細い声が聞こえる「……それ以上、近づかないで」背後から声がした。全員が振り向くとそこにいたのはベッドにいるはずの少女リーアだった。「リーア……!?」ふらつきながらもしっかりと立っている。その瞳はさっきまでとは違い異様に澄んでいた。「お兄ちゃんに…近づかないで!」男の表情が初めて歪む。「……面白い!吸収系の少女かぁ!」ドージョットはリーアの前に立つとバリアを展開しリーアに目をやるとフリートを睨む「お前は俺ら兄妹に勝てるかな…」するとフリートはケタケタと笑い死体を4体復活させる「興味深い!是非とも私の研究対象になってくれ!そして私の『究極の研究』のためのデータとなってくれぇ!!!!」




