「トゲトゲ」の「愛」
暁国過去最高降水量を記録したこの日。神代ライアの気分はほぼどん底に落ちていた。学校に行くのもめんどくさいくらいなのに授業を受けるとなると本当に面倒くさい。なので先月のデッドマンズバトルでの副賞として一学期分の成績を保証されているので今日は屋上にある屋内施設に籠ってギターの練習をしていた。「ったくめんどくせー」最近は楽しいことも特に無く心を震わせる物もほぼない。余計な考え事をしながら練習をして気が付けば昼休みになっていた。相変わらず雨は止まない。学食に行こうとも思ったがそんな気分でもない。空腹に耐えて練習をしようとした時、金糸雀ケ原・アテネ・イリアが弁当を持って施設に訪れた。「全く相変わらずですね…今日はサボりですか?」ライアは弁当を受け取るとキスをしギターをどけた「オムライスかぁいいセンスじゃん」「あなたにはこれがいいと思いまして」「どーゆー意味だ!」イリアもカツ丼を食べながら授業ノートのコピーを渡した。「もう…今日はどうするんですか?」「終わりまでこうしてるよ~先生にも申請してる」イリアは少し寂しそうにカツを頬張る「…あなたがいないとつまらないです」ライアはニヤニヤしながらイリアに詰め寄る「寂しいんだぁ~?ふ~ん」「なんですか…もう」2人に少しの間が流れると近くで雷が鳴った「きゃあ!」イリアは咄嗟に翼で自らの身体を覆った「ん~?あ~今日は一日降るっぽいよねぇ~」ライアは翼の中に入り怖がるイリアに寄りかかる。以前なら雷が怖いことをバカにし一週間くらいネタにしているところを、今は恐怖を抑えるために寄り添える関係になっていた。「当たらねぇし大丈夫だよ…怖いなら中入ろうぜ」そう言いながらオムライスを食べ終えイリアの震えていた手を握った。「……放課後どこ行く?どこでもいいよ」「じゃあ……近くの喫茶店がいいです」その後イリアは教室へ戻り引き続き練習をしていた。「……ったく早く晴れねぇかな~」何層にも重なった厚い曇天を見上げ退屈な今日を杞憂した。放課後少し晴れた空の下で2人は歩いていた「んで?喫茶店で何食べるの?」「期間限定のパフェがあるんです。急げば…間に合うかもしれません」イリアは少しだけ足を速めた。濡れたアスファルトに夕焼けが反射して街全体がぼんやりと光っている。「うわ、やる気じゃん」「だって…せっかくですから」その横顔はほんの少しだけ楽しそうで。ライアはそれを見てふっと笑う。さっきまでの退屈が少しだけ遠くなった気がした。「ほら、遅れんなよ」「あなたが言いますか」軽口を叩き合いながら二人は店へと急ぐ。目的の喫茶店は路地裏にひっそりと佇んでいた。古い木製の扉に小さなベル。「ここです」「いつもんとこじゃないんだ。へぇ…雰囲気いいじゃん」ドアを開けるとチリンと乾いた音が鳴る。中は暖かい光に包まれていて外の雨の気配が嘘みたいに静かだった。「いらっしゃいませ」席に案内されイリアはすぐにメニューを開く。「あった…!」「どれ?」彼女が指差したのは、期間限定の「ふわふわスフレパンケーキ」だった。上には季節のフルーツと、とろけるクリーム。「こういうの好きだよねぇ」「なんですか悪いですか」「いや~似合ってると思うよぉ?」少しだけ頬を膨らませるイリアにライアは微笑む。「じゃあ私も同じの食べちゃお」「別のものありますよ?」「いらな~い」イリアは呆れたようにため息をつきながらもどこか嬉しそうに注文を済ませた。しかし期間限定のパンケーキは残り一つしかなかった為ライアは我慢してアイスクリームを頼んだ。しばらくして運ばれてきたパンケーキは想像以上だった。「……でかくね」「……すごいですね」ふわふわで少し揺れるそれにナイフを入れるとしゅわっと音がしそうなほど柔らかい。「いただきます」イリアが一口食べた瞬間「……!」「そんなにぃ?」「美味しいです……!凄い美味しいです!」本気で感動しているその顔にライアは少し目を細める。「…一緒に食べましょう」「いいの?」「一人で食べるには勿体ない大きさですから」フォークで一口すくいライアの方へ差し出す。「ほら」「……あー」わざとらしく口を開けるライアに、イリアは一瞬だけためらい「もう……」小さく呟いて食べさせた。「……ん、確かにめちゃくちゃうまいな」「でしょ?」少しだけ得意げなイリア。その様子を見てライアはぽつりと呟く。「……なんかさ今日雨降ってて良かったかもな」イリアは一瞬きょとんとしてから柔らかく笑った。「そうですね」窓の外ではさっきまでの雨が嘘みたいに上がっていた。濡れた街に夜の灯りが映り始める。「このあと、どうしますか?」「んー……」ライアは椅子にもた少しだけ考え「もうちょい付き合えよ」「…いいですよ。ずっと付き合いますよ」即答だった。「……そりゃどうも」アイスクリームを一口齧りながらライアは静かに笑う。退屈だった一日がいつの間にか少しだけ特別なものに変わっていた。




