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転職に失敗し続けた俺が、異世界で転職成功の極意を掴んで勝ち組目指す  作者: むらさきじゅんぺい
第6章 王位継承 後編

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第57話 オスカーと鉱山の男たち(一)

カタカタと規則的なリズムを刻みながら、馬車はルメンヴァル北西部の鉱山地帯へと進んで行く。

その両脇をがっちり固めるようにヴァイスハルト家護衛騎士団の騎馬隊が追随する。

騎馬隊と言ってもその数はたったの二騎である。

アグストリア王との契約が成立するまで、ヴァイスハルト家護衛騎士団が表だって動くことは控えた方がいい。

これが今回の作戦を提案したクリスの方針だ。

その方針に従って、俺を含めた三人でドルガスの護衛をすることになった。

俺はドルガスと共に、二騎の騎馬隊に守られた馬車に乗り、窓の外に流れる景色を眺めていた。


鉱山地帯へと繋がるこの道を通るのは二度目だ。

前回は『ルメン・ライム枯渇』という難題を解決するためにヘヴィロック大採掘場に向かったのだった。

思えば、その時はヴァレリアとミカと三人での旅路だった。

馬車での賑やかなやり取りを思い出して、俺は思わず顔が弛んだ。


「そんな顔をするなんて意外だな。懐かしいか?」


斜め前に腕を組んで座るドルガスが、まるで我が子を見るような優しい顔でこちらを窺う。

懐かしい……けど、ドルガスが想像している懐かしさとは確実に意味合いが違っているだろう。

何せ俺は400年後の思い出に浸っていたのだ。

ドルガスの言う『懐かしい』とは、一体どういうことだろう。

もしかしたら、オスカーはリヴェラの護衛任務か何かで過去に鉱山を訪れたのかもしれない。


……分からないことは聞いてみるしかないか。

俺はまだ慣れないオスカーの姿で、それとなく探りをいれてみることにした。


「まぁ、そうだな。ここに来るのは、いつぶりだったかなぁ……」


すると、ドルガスからは豪快な笑い声と共に予想外の言葉が返ってきた。


「ガハハハハ!!お前が黙って逃げだして以来だから、四年ぶりか?」


――黙って逃げ出した?!


「期待して仕事を教え込んだって言うのに……まったく、よく俺の前にのこのこ面(つら)を出せたもんだ」


オスカーさん!何してくれてんの!!

つまり、オスカーはドルガスの元で働いていたけど、ある日突然、黙って居なくなってことか。

オスカーとドルガスの間に、まさかそんな過去があったなんて想像もしなかった。

そりゃ、バックレた元従業員と久しぶりに再開して『親方!』なんて馴れ馴れしく呼ばれたらキレるわ。

しかし、話の内容に反して、それを語るドルガスはどこか楽しそうだった。


「あの、その節は大変ご迷惑をおかけしました……」


おれはひとまずバックレたことを謝罪した。

そして、その謝罪の言葉が自然に口に出せたことに自分でも驚いていた。

俺からの謝罪を聞いたドルガスは一瞬驚いたように目を丸くしたが、何かに納得したようにうなずくと、再び豪快に笑った。


「まぁ、今はヴァイスハルトさんのとこで頑張ってるんだろ?……じゃあ、いいじゃねぇか」


俺はなぜかドルガスのその言葉に目頭が熱くなる思いがした。

本来は俺が謝る筋合いはないんだが、俺も昔、元いた世界で同じことをした。

あの時の俺は余裕がなくて、あのまま働いていたら心が壊れてしまっていたかもしれない。

それでも、何も言わずに逃げ出してしまったことについては申し訳なく思っている。

当時の上司には、親身になって指導してくれたことを感謝しているし、もしできることなら、俺が今異世界で少しずつ周りの役にたてる人間に成長している姿を見てもらいたい。

そして「頑張っているんだね」と一言、言ってもらえたらどれだけ嬉しいことだろう。

しかし、それはきっと叶うことはない。


その事を寂しく感じながら、でもこんな風に過去を振り返る機会を与えてくれた知恵の試練に、今は少しだけ感謝したい気分だ。


「おかげさまで、頑張れてます」


それは、ドルガスの言葉に対して、心の底から出た言葉だった。

それを聞いたドルガスは、俺を包み込むような穏やかな表情で、ゆっくりとうなずいた。


それにしても、ここにきて俺のオスカーに対するイメージはだいぶ変わった。

リヴェラの幼馴染みでヴァイスハルト家護衛騎士団団長。

誰もが見惚れる美しい容姿に卓越した剣の腕前。

そんな一見完璧で、俺からみれば羨ましいステータスの持ち主は、実は以前は鉱山で働き、そしてそこから逃げ出した過去があった。

オスカーとは一体どんな人間なのだろう。

俺はオスカーという得体の知れない人物に不安を感じつつ、それ以上に興味を惹かれていた。


……ん?ちょっと待てよ。

もしかして、俺はこれから過去に黙って辞めた職場に行くってことか?


◇


しばらくして馬車が到着したのはヘヴィロック大採掘場より手前にある鉱山だった。

この時代はこの場所を拠点に採掘をしていたようだ。

ドルガスに促されて馬車を降りると、そこには鉱夫達の熱気が渦巻くこの時代ならではの風景が広がっていた。

この時代には電動の機械が存在しない。

ツルハシを振るい、掘った鉱石は人力で運ぶのだ。

その姿は非効率かつ重労働。

それなのに採掘場は活気に満ち溢れ、その様子は四百年後とは比べ物にならないほどに熱量が高い。

どの鉱夫も目をキラキラと輝かせ、『ここでひと山当ててやろう』という希望とポジティブな野心が感じられた。


馬車から降りたドルガスに一人の屈強な男が駆け寄る。


「親方、お待ちしておりやした。で、例の交渉はうまくいきやしたか?」


するとドルガスの表情が一瞬にして組織を束ねる長のそれになる。

ドルガスはその男に目線だけ向けると、短く指示を飛ばす。


「まぁ想定どおりだ。これから『でかい山』が動く。すぐにみんなを集めてくれ」



つづく

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