第54話 四大貴族
夢で見た、『泣き虫ヘタレ』のリヴェラが、ルメンヴァルの危機を救うべく立ち上がる物語。
そして、オスカーの姿になった俺と、リヴェラの姿になったヴァレリア。
あの夢は知恵の試練へと繋がるプロローグで、俺とヴァレリアはその登場人物となってルメンヴァル王国の危機を救う。
おそらく、それこそが『知恵の試練』の全貌なのだ。
とすれば、クリア条件はクーデターを成功させ、ヴァレリア扮するリヴェラが無事に王になることなのだろう。
……これは、とんでもないことに巻き込まれてしまった。
――ゴホンッ
リヴェラの傍らに控えるグレアが咳払いすると、場の緊張感が高まる。
「皆さまお揃いですので、早速はじめさせていただきます。私、ヴァイスハルト家執事長を務めております、グレアと申します。本日は急なお声かけにも関わらず、ご参集いただき感謝申し上げます」
そう言うと、グレアは一礼し、出席者一人一人の表情を伺うように視線を走らせた。
出席者は俺を含めて全部で七人。
その中には夢の中に出てきた、見覚えがある顔が三人。
まずは、テーブルの最奥、いわゆるお誕生日席に座るのが、この会議の主催者であるリヴェラ・ヴァイスハルト。
その後ろに控える、執事長のグレア。
リヴェラから向かって左隣に座るのは、戦地からの封書を届けた、クリス・ヴァン・サリバン。
サリバンという家名から分かる通り、クリスはきっとフェリクスの遠いご先祖様なんだろう。
髪型や髪色が同じだからか、なんとなくフェリクスに雰囲気が似ている気がする。
そして、初めて見る顔が三人。
先ほど俺がバルカス親方と見間違えたのは、ルメンヴァル採掘協会会長、ドルガス。
俺が不用意に話しかけたせいか、しかめ面で腕を組み、イライラを露骨に表情に出している。
度々、こちらを睨むような鋭い視線を感じるので、気が気ではない。
その隣で偉そうにふんぞり返るのは、関西訛りで俺を一喝した男。
ルメンヴァル王国経済・産業大臣、ナンド・ヴァン・チェンヴァレン。
彼は『ルメンヴァル経済界のドン』などと呼ばれ、ルメンヴァルでは超重要人物のようだ。
ドンだかなんだか知らないが、その偉そうな態度はいかがなものだろうか。
絶対に仲良くなれない自信がある。
そんなナンドとは対照的に、礼儀正しいたたずまいで場を静観するのは、ルメンヴァル王国文化・教育大臣、ルシアン・ヴァン・フィルベール。
ルシアンの第一印象は『いい感じのジェントルマン』だ。
『男は歳を取るほど深みが増す』という言葉を体現したような人物で、五十代に差し掛かろうかというその年輪を、見事にプラス方向に活かしている。
かといって、その容姿に嫌味を感じさせることはなく、謙虚なたたずまいと穏やかな表情は、関わる者すべてに好印象を与えることだろう。
以前、オスカーから聞いた話によると、この時代のルメンヴァル王国では四つの貴族が大きな権力を持っていたのだという。
軍事・外交を担当するサリバン家。
経済・産業を担当するチェンヴァレン家。
文化・教育を担当するフィルベール家。
内政・治安維持を担当するギスカール家。
つまり、ギスカール家以外の三大貴族がこの場に参集し、クーデターに賛同しているということだ。
それは、今ルメンヴァルで反ザルドレッドの気運が高まっていることをありありと示していた。
「堅苦しい話はなしにして、早う本題と行きまひょう。さっきも言いましたけど、うちは忙しいんですわ」
ナンドがねめつけるようにグレアに視線を向ける。
そこに冷静に割って入ったのは、意外にもこの場で最年少のクリスだった。
「ナンド様のおっしゃる通りです。ここからは私が話を進めましょう」
クリスはそう言うと、戦地から届いた封書を懐から取り出した。
その封書は泥にまみれ、所々に血の跡が付いている。
夢の中で一度見ているものの、実際に間近で見ると凄絶な戦地の状況を否が応にも感じさせる。
それは俺だけではなく、ここにいる全員が感じているようで、皆、クリスの挙動に注目していた。
「戦地の最前線で指揮を取る我が父、オルレアンは今回のクーデターを成功させるには二つのことが必要であると考えています」
クリスは参加者全員の表情を伺うように一呼吸おいた後、ゆっくりと話し始めた。
「まず一つ目、連合軍の総大将、アグストリア王と内々に謁見し、無条件での戦争終結を取り付けるとこ。そして二つ目、ルメンヴァル市民の弾圧を主導しているギスカール家当主、バルドル・ヴァン・ギスカールを失脚させること。バルドルがいなくなれば、ザルドレッド王は丸裸です」
なるほど、国の内と外、それぞれに対してミッションがあるわけか。
これでクーデター成功までの道のりがかなり具体的になった。
ルメンヴァル王国の三大貴族、さらにルメンヴァルの国家産業である鉱山採掘業界のトップがクーデターに賛同している。
そして、クーデター成功までの道のりも具体的に示されている。
ルメンヴァル王国の危機を救うというのは、かなり難易度の高いミッションのように思えたが、なんだか希望が見えてきた。
しかし、その希望は早々に崩れ去ることになる。
つづく




