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転職に失敗し続けた俺が、異世界で転職成功の極意を掴んで勝ち組目指す  作者: むらさきじゅんぺい
第6章 王位継承 後編

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第49話 革命の聖女(一)

「――まってまってまって!よりによって、どうしてこうなるのよ!!」


それはまさに、心の底から出た悲鳴だった――


ルメンヴァルの北東部、賑やかな中心部の喧噪から離れたその場所に、木々が神秘的に生い茂る森が広がる。

この森の一角に、ある貴族が住む屋敷がある。


その貴族の名は、ヴァイスハルト。

ヴァイスハルト家はルメンヴァル王家の傍流で、直系ではないものの、ルメンヴァル王家の血を引いていた。


ルメンヴァル国内でも突出した知能を持つヴァイスハルト家は『知恵の民』と呼ばれ、国政とは一線をおきながらも、しばしば市民を助けてきた。

そのため、ルメンヴァル市民から愛され、いつからか人々の心の拠り所となっていた。


そのヴァイスハルトの屋敷の二階から、人目をはばかるように外を覗き見る一人の女性がいた。

その女性こそ、ヴァイスハルト家当主、リヴェラ・ヴァイスハルトである。


リヴェラは長く伸ばした緋色の髪を頭の後ろでまとめ、その姿は一見大人びた印象を受ける。

だが、実際はまだまだ頼りなさの残る二十六歳だ。


リヴェラが二階の窓から階下を覗き込むと、屋敷の前には十数人のルメンヴァル市民が集まっていた。

ある者は腕を組み、屋敷から人が出てくるのを今か今かと待ち構え、またある者はしきりに周囲を警戒している。


ガン、ガン、ガン、ガンッ!!!


これで何回目だろうか。

静まり返っていたヴァイスハルト家の邸宅に、金属音が響いた。

正面玄関の重厚な扉。

その中央上部に据えられた、鉄製の太いリング型のドアノッカーが、外にいる市民の手によって打ち鳴らされているのだ。


「お嬢様、お出になられたらどうです?」


部屋の入口に直立し、あきれ顔でリヴェラにそう諭すのは、執事長のグレアだ。

グレアは六十歳を超える高齢だが、白髪を結い上げ、きっちりとしたスーツを着こなす姿はとても洗練されている。

先々代の時代からヴァイスハルト家に仕える彼女は、リヴェラにとって幼少期からの教育係であり、時に震え上がるほど恐ろしい鬼教師でもあった。

だが同時に、早くに肉親を亡くしたリヴェラにとっては、誰よりも深く信頼し、甘えられる「母親」のような唯一無二の存在でもあった。


「そんなこと、できるわけないじゃない!私が出て行って何になるのよ......『私がザルドレッド王を説得します』とでも言えばいいの?そんなの無理に決まってるわ!!」


――ルメンヴァル王国が建国してから約四百年。

時の王、ザルドレッド・ヴァン・ルメンヴァルは、歴代の王が示してきた外交方針を百八十度転換し、軍隊を使って積極的に他国に侵攻する方針を打ち出した。

ザルドレッドは軍への支出を増やすとともに、徴兵を強化して軍の規模を拡大していった。


隣国に仕掛けた戦争に勝利し、軍需で経済が潤うと、ザルドレッドの政策は国民から支持された。

国民の声を追い風に、ザルドレッドは侵攻の範囲をさらに広げていった。


ザルドレッドの侵攻に対して周辺諸国も黙ってはいなかった。

結託してルメンヴァル包囲網を敷くと、徐々に戦況は悪くなっていく。


包囲網に対抗するため、さらに多くの兵が徴兵された。

また、国内の物資は制限され、軍に優先的に使われるようになった。


多くの人とモノを戦争に奪われたルメンヴァル市民は憤り、ザルドレッドの政策を非難する声を上げるようになった。

ザルドレッドは、これを暴力で厳しく弾圧した。


ザルドレッドの弾圧に対して、市民はなす術がない。

そんな市民が藁にもすがる思いで頼ったのが『知恵の民』として心の拠り所となってきたヴァイスハルト家なのであった。


ヴァイスハルト家は、代々女性が当主となる習わしがある。

不運にも先々代、先代の当主が早くに亡くなったため、まだ若いリヴェラがヴァイスハルト家当主として、市民の陳情を一手に受けることとなってしまった。


「――市民たちは皆、知恵の民であるヴァイスハルト家を最後の砦として頼りにしているのです。それに応えなくていいのですか?」


「最後の砦って......だいたい『知恵の民』って何よ!たまたまどっかのご先祖様がちょっと頭がよかっただけじゃない。私は凡人も凡人、特別な能力なんてもってない!」


そんなやり取りをしていると、しびれを切らした市民たちが、声を上だした。

「リヴェラ様!どうか我々をお助けください」

「ザルドレッド王の横暴を止められるのはあなた様だけです!」


「うぅ......」


リヴェラは敵襲から身を守るかのように、頭を枕で守り、外から見えないように低姿勢でうずくまっている。


「お嬢様、市民たちは命懸けでここに来ているのです。この行動がザルドレッドに知れたらどんな仕打ちを受けるか分かりません。どうか、決断なさいませ」


グレアのその言葉は重く、リヴェラを導くような響きを帯びていた。


「......やっぱり無理!」


リヴェラはグレアから思い切り顔を背けた。

そして、頭に抱えていた枕をそっとベッドに置くと、なるべく低い姿勢を保ちながら部屋の出口へと向かう。

これが格式高いヴァイスハルト家当主の姿だろうか......

グレアはついに頭を抱えてしまった。


「グレア、私は大事な用で外出してるから、今日のところはお引き取りくださいって外の方々に伝えてちょうだい」


「お嬢様!」


「じゃ!そういうことだから!」


リヴェラはグレアが引き留める間もなく、足早に部屋を出ていってしまった。

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