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転職に失敗し続けた俺が、異世界で転職成功の極意を掴んで勝ち組目指す  作者: むらさきじゅんぺい
第5章 王位継承 前編

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第46話 国家の審判(六)

「両者、セット完了。では最後の結果発表を行う」


ゼハクが宣言すると、俺とフェリクスがセットした金貨が光の粒となってジオラマに降り注ぐ。


フェリクスはいったいどの戦術を選択したのだろうか。

対面を見ると、フェリクスがまるで自分が負けるなどとは微塵も考えていないような、自信に満ちた表情で微笑む。


そんな中、俺たちが睨み合う視線の先で、ジオラマの輪郭が歪んだ。

光の粒を全身に受け、まるで命を吹き込まれたように動き出したのはナイトだ。


ガシャッ......ガシャッ......


大競技場に、重厚な鎧が軋む音が不気味に響く。

ナイトはこちらに向き直ると、一歩ずつゆっくりと近づいてくる。

その数は一歩踏み出すごとに増え、最終的に十騎となった。


十騎のナイト......フェリクスは俺のナイトを全力で叩き潰すつもりのようだ。


そのあまりの迫力に俺は息を飲み、後退りしたくなる気持ちをやっとの思いで抑えた。

十騎のナイトから繰り出される斬擊を受けるなんて、とてもじゃないが想像したくない。


「照平殿、これで終わりだ。私のナイトが貴殿のナイトを全力で叩き潰す」


十騎のナイトが一斉に聖剣を胸の前に構えた。


「ゆけっ!我がナイトよ!!私に勝利をもたらすのだ!!」


フェリクスのその言葉を合図に、ナイトが勢い良くこちらに突進してくる。

それを迎え撃つのは俺のナイト――ではない。


地を這う鉄の群れを傲然(ごうぜん)と見下ろすように、ジオラマの頂から一筋の白光が滑り降りた。

凄まじい勢いで迫る鋼の刃の前に、たった一人で立ちはだかったのはクイーンだった。


「......なっ?!クイーンだと?」


予想外の駒の登場に、フェリクスは両手で強くテーブルを叩いて立ち上がった。


クイーンは身長よりも丈のある聖杖をナイトに向けて構えた。

そして何かを呟くと、聖杖が目映い光を放つ。

その光を浴びたナイトは、ピタリと動きを止めると、振りかぶった聖剣を鞘に収め、クイーンに跪いた。


「まさか......なぜそんな勝率の低い戦術を」


狼狽(うろた)えるフェリクスの前にクイーンが堂々と立つ。

そして、俺はクイーンの言葉を代弁するようにフェリクスに語りかけた。


「フェリクス、君は何か勘違いをしているようだ。国家(エステート)()審判(ジャッジメント)はヴァレリアの、つまりクイーンの従者を決める戦いだ。それなのに、クイーンをないがしろにした君の戦術で勝てるはずがない。たとえ勝てたとしても、それでヴァレリアの従者となる資格を得られるとは、俺は思わない」


フェリクスはテーブルにうずくまるように伏せ、固く握った拳でテーブルを叩く。


「そんな......私が負けるだと?」


茫然自失のフェリクスを横目に、システムは淡々と第四ターンの結果を返す。

彼の傍らへ降り注いだ光の粒が、ギルドの配当である六枚の金貨へと形を変えて硬質な音を立てた。

対する俺の元には、シビルにセットした九枚の金貨が二倍である十八枚の金貨となって帰還する。


それは、冷徹な計算がはじき出した勝負の結末だった。


「第四ターンの結果――照平、獲得枚数十八枚。フェリクス、獲得枚数六枚。よって――勝者、照平!」


ゼハクがそう宣言すると、大競技場が歓喜と戸惑いの混じった騒然とした雰囲気に包まれる。

フェリクスは力なく立ち上がり、数歩後退りした後、膝から崩れ落ちその場に座り込んでしまった。


勝ったんだな......ヴァレリア


ジオラマ上のクイーンを見ると、ヴァレリアに似たクイーンは俺に微笑みかけ、こう言ってくれた気がした。


――信じて付いてきてくれて、ありがとう




勝敗が決した次の瞬間、ジオラマを包んでいた漆黒の炎が勢い良く燃え盛る。


ゴォォォッ!!


敗者へのペナルティ、その時がやってきたのだ。

炎は大量の空気を飲み込んだようにジオラマ上で大きくなると、フェリクスに向かって一直線に襲いかかる。


「まずい!このままじゃフェリクスが――」


俺が叫ぶよりも早く、炎が咆哮を上げた。

蛇のようにのたうつ漆黒の炎が、崩れ落ちたフェリクスを丸ごと飲み込まんと牙を剝く。


その絶望的な光景を切り裂くように、男性の太い声が大競技場を貫いた。


「フェリクス!!!」


ドッドッドッ......ドカッ!!


声の主が観客席から飛び降り、勢い良く中央に降りてきたかと思うと、炎とフェリクスの間に割って入り、フェリクスをかばった。


それは俺が最も恐れていた存在――フェリクスの父、カスピアンだった。

その瞳は必死の形相に染まっていたが、俺を睨んだ時のあの憎悪ではない。

なりふり構わず、ただひたすらに息子を思う『父親』のそれだった。


「ち......父上」


フェリクスは予想外の父の行動に驚き、父を一点に見つめていた。


予想外のカスピアンの乱入に、炎は一瞬止まったが、あくまで標的は敗者、フェリクスである。

立ちはだかるカスピアンを四方八方からすり抜け、改めてフェリクスに襲いかかる。


「ダメだ!何か......フェリクスを助ける方法はないか――」


俺がそう心の底から念じた時、今まで沈黙していたブラウズが起動した。


国家(エステート)()審判(ジャッジメント)の勝敗が決したため、ブラウズの使用制限が解除されました』


「......何だって?!ブラウズ!フェリクスを助けたい!助ける方法を検索してくれ!!」


ブラウズはあくまでも人類が把握している情報を検索してくれるだけで、その情報をもとに問題解決するのはこっちの仕事――それは十分分かっている。

しかし、分かっていながら藁にもすがる思いでブラウズに問いかける。


すると、ブラウズは聞き慣れた、しかし全く想定外の回答を導き出した。


『――ヴェルサの未完の研究ノート』


『クイーンに金貨をセットしたプレーヤーは、「クイーンの宝物庫」を使用することができます』


「クイーンの宝物庫?!」


それが何を意味するのか分からない。

しかし、それでフェリクスを助けられるというのならやってみるしかない。


「ゼハクさん!待ってください!!『クイーンの宝物庫』を使います!!」


その言葉に、フェリクスの鼻先まで迫っていた炎がピタリと動きを止めた。


「クイーンの宝物庫だと?」


ゼハクは予想外の発言に眉を潜め考えを巡らせるが、やがて何かに納得したように口元を弛ませた。


「いいだろう。クイーンの宝物庫には現在十三枚の金貨が納められている。照平、そなたはこの金貨を自由に配分することができる」


十三枚の金貨を自由に配分できるだって?!


俺はその言葉にひとつの可能性を見いだしていた。


「さぁ、照平。この金貨をどう配分するか、宣言せよ」


俺は高鳴る鼓動を抑え、慎重に言葉を発する。


「十三枚のうち、十二枚をフェリクスに配分する!」


予想外の発言にフェリクスは目を見開く。


そしてその発言の瞬間、フェリクスの周りをぐるりと囲んでいた漆黒の炎は、大競技場全体を覆うほど大きく燃えたかと思うと、轟音とともに弾けて優しい光の粒となった。

そして、大競技場を包んでいた黒雲の隙間から後光が差し込むと、空に舞った光の粒は、雪の結晶のようにキラキラと輝き、大競技場に降り注いだ。


静まり返った大競技場の中で、中央のテーブルにはスポットライトが当たったように神々しい光が差し込んでいた。

そこには、膝をつき茫然とするフェリクスと、その肩を抱き涙を流すカスピアンの姿があった。


「――フェリクス、すまなかった......私は......私は取り返しのつかない過ちを犯すところだった」


「ち......父上、申し訳......ありませんでした」


フェリクスが力なく応える。


「何を言っているんだ!お前は立派に戦った。謝らなければならないのは父の方だ。危うくお前の人生を奪うところだった........本当にすまない」


カスピアンはフェリクスの体をもう一度力強く抱き寄せた。

その親子の美しい光景を微笑ましく見ていると、カスピアンが突然振り返り、こちらに向かって深々と頭を下げた。


「照平殿、数々の無礼を許してほしい。そして、息子を助けてくれたこと、本当に感謝する。この恩をどう返せばいいか見当もつかない......」


「いえ、そんな!とにかくフェリクスさんが無事でよかった。それに――」


こんなことを言っても不審に思われるだけかもしれないが、なぜか伝えなければならないと思った。


「フェリクスさんを助けたのは俺ではありません。ヴェルサさんがクイーンの宝物庫のことを教えてくれたんです」


それを伝えると、カスピアンは驚いたように目を見開き、慌てたようにジオラマに目線を移す。


「――ヴェル」


そう呟くと、その場に泣き崩れた。

カスピアンの目に写ったクイーンは、優しく微笑む最愛のひとの姿だったのであろうか――


俺とカスピアンのやり取りを遠巻きに見ていたゼハクが、改めて審判の結果を宣言する。


「クイーンの宝物庫の使用により、両者の金貨の枚数が同数となった。よって、審判は引き分けとなる。これにて、国家(エステート)()審判(ジャッジメント)は閉門とする」


その宣言と共に、ジオラマや駒は元の箱に吸い込まれるように消えた。

そして、大競技場のどこからともなく拍手が沸き起こり、大歓声に包まれた。


俺は緊張の糸がほどけて、椅子にもたれ、天を仰いだ。


終わったんだな......





大歓声に包まれる大競技場。

貴族・要人席ではバルカス、ジーク、ミカが立ち上がって喜ぶ。


そんな中、ミカは奇妙なものを見た。


「あれ?......いや、そんなはずはない。でもあれは確かに......」


ミカの斜め下に座る異形の白装束を着た男。

その男が手にしていたのは紛れもなく――




『ヴェルサの未完の研究ノート』だった。



つづく

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