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転職に失敗し続けた俺が、異世界で転職成功の極意を掴んで勝ち組目指す  作者: むらさきじゅんぺい
第5章 王位継承 前編

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第44話 国家の審判(四)

「父上は、いつも何かに怒っていた」


幼い頃の記憶を辿れば、そこに映るのは常に、焦燥感に焼かれ、何かを呪うように眉間に皺を寄せた父の横顔だった。

あの忌々しい、顔の左半分を覆う火傷の痕――。

父が鏡を見るたびに漏らす低いうめき声を、私は「敗北の屈辱」への怒りだと信じて疑わなかった。


ルメンヴァルでも有数の貴族であるサリバン家。

私はその長男として生を受けた。


サリバン家は広大な敷地に立派な家を構え、数十人の使用人を抱える名家である。

裕福な貴族の生まれであることは、しばしば周囲の羨望を一身に集めることとなり、貴族というだけで周りからうらやましがられた。


周囲からの羨望を感じるたびに、私はこう思った。


私の苦しみなど何も知らないくせに......と。


貴族の家に生まれれば、例外なく幼少期から厳しい教育を受ける。

将来、手に入れることが確約されている地位、財産、名誉を考えれば、それに見合う人物になるために当然必要なことだ。


だが、我がサリバン家では......いや、父、カスピアン・ヴァン・サリバンのそれは常軌を逸していた。

私は幼少期から血反吐が出るような努力を強いられてきた。

数々の学問を徹底的に叩き込まれ、失敗すれば痛みをもってその失敗を体に刻まれた。


なぜ父は私にそのような厳しい教育を強いるのか。

それには、父の顔に刻まれた火傷の痕が深く関わっているのだろうと、幼心に感じていた。


――どちらがヴェルサ様の隣に立つに相応しいか。それを決めるべく、アルベルト様と対峙した国家(エステート)()審判(ジャッジメント)


そこで父は敗北し、一生消えることのない傷を負った。

父は自分が果たせなかった、国家(エステート)()審判(ジャッジメント)での勝利を私に託したのだ。


私は自分の運命を呪った。

なぜ私がこのような仕打ちを受けなければならないのだろうか。


私は父を、父に傷を負わせたアルベルト様を、そして国家(エステート)()審判(ジャッジメント)を呪い、呪い、呪い、呪い続けた。


しかし、幼い私がその運命に反発することなど到底できはしない。

父の言うことに従順に従うことが、私が生きていく上で最も()()()で最善の方法だった。


私は常に合理的な手段を選ぶ。

それこそが唯一、(あらが)えぬ運命から私を守ってくれるから――


第三ターンから加わったクイーンの駒。

城の最も高い場所にたたずむその姿は、ただただ無機質で、そこから人間味のようなものは感じられない。


ナイトに金貨をセットすることが最善策だった第二ターンまでとは打って変わり、第三ターンからはギルド、ナイト、クイーンの三すくみ状態となった。


どの駒を選んでも勝率は三分の一。

多くの者はそう考えるだろうが、それは大きな間違いだ。


金貨をうまく()()することで、勝率は三分の二に上げることができる。


照平殿、貴殿に個人的な恨みはないが、この勝負だけは負けるわけにはいかない。





「両者、セット完了。では第三ターンの結果発表を行う」


大競技場が静まる中、動き出したのはナイトだ。

ナイトはこちらを向くと、手に持った聖剣を大きく振りかぶる。

実際に怪我をするわけではないが、二度に渡って受けたナイトからの攻撃は想像を絶する痛みだった。

俺は衝撃に備えて顔の前で腕をクロスさせガードの体制をとり、歯を食い縛る。


その時、クイーンの目に光が宿り、ふわりと宙に浮いたかと思うと、俺とナイトの間に割って入る。

そして、手にした聖杖(せいじょう)を天高くかざすと、聖杖が目映い光を放った。


その光を浴びたナイトは、振りかぶった聖剣を鞘に収め、クイーンに跪いた。


ナイトの効果がクイーンによって無効化されたのだ。


その後、シビルとギルドが所定の動作を行い、俺とフェリクスそれぞれに金貨をもたらした。


「第三ターンの結果――照平、獲得枚数十枚。フェリクス、獲得枚数十二枚」


結果を聞いた観衆は、フェリクスの優勢に歓喜の声を上げる。

ただ、第一ターン、第二ターンと違い、僅差でフェリクスに食らいつく照平を称賛する声が、大競技場のあちらこちらから聞こえてくる。

「あの役人、まさかフェリクス様をここまで追い詰めるとは......」

「もしかしたら今日、本当にルメンヴァルの歴史が変わるかもしれないぞ」


四ターンで勝負が決まるこの審判は、既に佳境に差し掛かっていた。

ここまでの死闘を固唾を飲んで見守ってきたルメンヴァルの大観衆にとって、今や照平はただの役人でも、出自の知れぬ異邦人でもない。

その姿は、ルメンヴァルの頂点に君臨する大貴族に泥臭く食らいつく、民衆の希望となっていた。


そんな大競技場の熱気を背に、ゼハクが第三ターンについて解説を始める。


まずは第三ターンから加わったクイーン。

俺が一枚セットし、フェリクスはセットしなかった。

クイーンに金貨がセットされたことによる効果は二つ。

一つ目、第三ターンでのナイトの効果が無効化され、金貨を奪う、奪われるということがなくなる。

二つ目、俺はギルドに金貨をセットできない。


この時点での金貨の増減は、俺がクイーンにセットした一枚が失われるのみである。


次にシビル。

俺が残りの五枚をセットし、フェリクスはセットしなかった。

俺がセットした枚数の二倍である十枚の金貨を獲得した。


そしてギルド。

フェリクスが四枚セットし、俺はセットしなかった。

最初にバーストの判定が行われる。

合計枚数が十枚を越えなかったため、バーストは発生せず、フェリクスがセットした枚数の三倍である十二枚の金貨を獲得した。


最後にナイト。

フェリクスが二枚セットし、俺はセットしなかった。

フェリクスの方がセットした枚数が多かったが、クイーンの効果により俺から金貨を奪うことはできなかった。


「ギルドに四枚、ナイトに二枚か......フェリクスめ、考えたな」


フェリクスの戦術に感嘆の声をあげたのはジークだ。


「ジーク、どういうことだい?ショウは三分の一の賭けに負けたってことか?」


「結果的にはそうですが、ジークは金貨を分散することで勝つ確率を三分の二にしたんです。照平はギルドにセットしても、クイーンにセットしても、フェリクスに金貨の枚数で勝てなかった」


バルカスが悔しそうに膝を叩く。


「くぅぅぅぅっ!ショウはナイトにセットすれば良かったのか」


「あくまでも結果論ですが......いずれにしても次が最後のターンです。照平は金貨を増やす攻めの戦略をとらなければ勝ちはありません」


ジークは不安げな面持ちで大競技場の中央を見つめる。

その先では、フェリクスがニヤリと口角を上げる。


「照平殿、新たに加わったクイーンに早速セットしてくるとは、なかなか勇敢だ。しかし、この審判は最後に相手より一枚でも多く金貨を所持している者が勝利する。現在の枚数差はわずかに二枚だが、この二枚の差は大きい」


フェリクスの言うとおりだ。

いくら僅差でも、最終的に相手の枚数を上回らなければ勝利はない。

敗者には恐ろしいペナルティが待ち受けている。


次のターンの結果次第で、俺かフェリクス、どちらかが一生消えない傷を負うことになるのか......


俺がそれを受けるなんて絶対に御免だ。

しかし、俺が勝てたとして、フェリクスに傷を負わせることが本当に正しいのだろうか。

カスピアンからの視線を浴びるたびに感じる激しい憎悪の感情。

その憎悪の原因となったであろう深い傷を、また誰かが負うことはあってはならないのではないだろうか。


傷を負った敗者を横目にヴァレリアと共に勝利の喜びを分かち合うなんて、俺にはできない。

きっと、それはヴァレリアだって同じはずだ。


その時、不意に第二ターンの結果が頭をよぎる。


――二人の金貨の枚数を同じにして、引き分けに持ち込めばいいんじゃないか?


しかし、その希望は膨らんだそばからすぐに力なく(しぼ)んでいった。

ナイトが最も強かった第二ターンまでなら、ある程度相手の戦法も読めた。

しかし、第三ターンからクイーンという新たな選択肢が増えてしまった。

緻密に二人の金貨の枚数を合わせるのは、事前に示し合わせない限り不可能だ。


くそっ!何か......何かいい方法はないのか......


第四(ファイナル)ターン開始!プレーヤーは互いに金貨をセットせよ」


考えがまとまらないまま、無情にも、第四ターンの開始が宣言される。


その時だった――


ジオラマ上の城に鎮座するクイーンの駒が目映い光を放つ。

俺は突然の出来事に、そして目の(くら)むようなその光に、思わず目の前に手をかざし光を遮る。


光が消え、改めてヴァレリアに酷似したクイーンの駒を確認すると、先程までの悲しげな表情は跡形もなく消えていた。

代わりに、その表情には自らの宿命を受け入れ、未来を切り開こうとする力強い意志が宿っていた。


その可憐さと純粋さの残る真っ直ぐな瞳が、俺の魂を射抜いてささやいた。


――私に付いてきて



つづく

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