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転職に失敗し続けた俺が、異世界で転職成功の極意を掴んで勝ち組目指す  作者: むらさきじゅんぺい
第5章 王位継承 前編

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第43話 国家の審判(三)

「第二ターンの結果――照平、獲得枚数ゼロ、同じくフェリクス、獲得枚数ゼロ」


大競技場に響き渡るゼハクの声に、会場が騒然とする。

それは、歓喜と戸惑いが入り交じったような異質なものだった。


貴族・要人席下段では、バルカス、ジーク、ミカが歓声を上げる。

上段に鎮座する、フェリクスの父、カスピアンはわずかに表情を歪ませる。

しかし、片眼鏡(モノクル)に覆われた目の奥には、この大競技場の誰よりも強く深い怒りが渦巻いていた。


ゼハクが第二ターンについて解説する。


まずはシビル。

シビルに金貨をセットした者はいなかった。


次にギルド。

俺が一枚、フェリクスが十枚セットした。

最初にバーストの判定が行われる。

合計枚数が十枚を越えたため、バーストが発生し、十一枚の金貨は全て没収となった。


最後にナイト。

俺が四枚、フェリクスが十枚セットした。

フェリクスの方がセットした枚数が多いため、俺がセットした枚数との差である6枚の二倍の金貨を俺から奪うことができる。


しかし、ここがフェリクスの誤算だった。


ナイトの判定はシビル、ギルドに続き最後に行われる。

また、ナイトにセットした金貨は、セットした時点で失われる。

つまり、金貨を奪う判定を行う時点で、俺の金貨はゼロ。

奪う金貨がないため、フェリクスの獲得もゼロとなったのだ。


「フェリクス、お前が金貨を手元に残すか、シビルにセットしていたら俺の負けだった......」


ゼハクは審判開始時にこう言っていた。

『最終的に金貨の枚数が多いプレーヤーが勝者となる。ただし、途中でどちらか()()の金貨がゼロになった場合は、その時点で金貨が残っているプレーヤーが勝者となる』と。

つまり、二人の金貨が同時にゼロになった場合、それは勝敗が決する条件にならないということだ。


「ふふっ......何が『容赦なく叩き潰してくれ』だ。俺がナイトに十枚セットするよう仕向けたってわけか......」


フェリクスは自虐的な笑いを見せる。

結果発表の瞬間は取り乱していたフェリクスだったが、すっかり落ち着きを取り戻している。

その表情は腫れ物が取れたように清々しく、目の奥には燃えるような闘志が宿っていた。


「認めよう、照平殿。貴殿も少しはやるようだ。だが、それでも勝つのはこの、フェリクス・ヴァン・サリバンだ」


それは、俺を(おだ)てようなどという打算的なニュアンスを一切含まない、まっすぐな言葉だった。


「あぁ、望むところだ」


俺も、もう相手を見下したり決めつけたりしない。

相手を認め、真っ向からぶつかろう。


――ここからが本当の勝負だ。


改めてテーブルを挟んで俺とフェリクスが対峙する。

その瞬間、ジオラマ上の城がまばゆい光を放ち、城の最上部に新たな駒が出現した。


その駒は華やかなドレスを纏い、頭上には黄金に輝くティアラを付けている。

しかし、その装いとは裏腹に小柄で幼い顔をした姿はどこか頼りない印象を抱かせる。


「......ヴァレリア?」


そう、新たに出現した駒は紛れもなくヴァレリアの姿を模したものだった。


また、駒の出現と同時に、ゼハクが置いた箱から漆黒の炎が上がり、城全体を包み込む。

実際にジオラマが燃えているわけではないが、何かが焦げたような不吉な臭いが漂う。

その様子は、漆黒の炎が審判の敗者を今か今かと待ち構えるような、そんな意思を感じさせた。


それを見ていたゼハクが、フードの奥でその眼を見開いた。


「今この瞬間、国家(エステート)()審判(ジャッジメント)に新たなルールが追加された。シビル、ギルド、ナイトに加えて四体目の駒、『クイーン』が加わる」


「クイーン?!」


大競技場がどよめく。


「クイーンの駒にセットできる金貨は一枚のみ。どちらか一人でもクイーンに金貨をセットした場合、ナイトの効果は発生せず、金貨を奪うことも奪われることもない。ただし、クイーンに金貨をセットしたプレーヤーは、ギルドに金貨をセットすることができない」


やっとルールを理解し始めたところなのに、また複雑になってしてしまった。

クイーンのルールについて考えを巡らせる俺とフェリクスだが、ゼハクの、次の言葉に完全に思考が止まる。


「さらにここで、敗者へのペナルティが発生することが決まった。敗者は漆黒の炎に焼かれ、一生消えない傷を負うことになる。覚悟して挑まれよ」


「ペナルティ?!そんなの聞いてない!」


俺は咄嗟に高座に座るアルベルトを見る。

しかし、アルベルトは俺から視線を外し真っ直ぐ前を見つめていた。

隣に座るヴァレリアは平静を装いながらもアルベルトに何か問いかけている。


目の前に座るフェリクスは、神妙な面持ちで目の前のジオラマを見つめる。

フェリクスはペナルティの話を初めて聞いたというわけではなさそうだ。


一生消えない傷って、なんなんだよ......


その時、一人の男の顔が頭によぎった。


――カスピアン・ヴァン・サリバン


俺はまた背筋が凍りつくような悪寒を感じた。

そして、恐る恐る貴族・要人席のカスピアンを見る。


――ドクン!


こちらに向けて鋭い視線を送るカスピアンと目が合った瞬間、心臓が激しく鼓動する。

その目には王の広間で向けられたものよりもさらに強い憎悪が宿っており、俺は耐えきれず、すぐに視線を外した。


そして、カスピアンの傷が、この国家(エステート)()審判(ジャッジメント)によるものなのだと直感的に悟った。


「さぁ、第三(サード)ターンの開始だ」


ゼハクが宣言する。

そして、俺とフェリクスそれぞれに六枚の金貨を配った。


「第二ターンで両者の金貨が揃ってゼロとなったため、改めて金貨を配る。プレーヤーは互いに金貨をセットせよ」


このターンから増えたクイーンの駒、そして六枚の金貨。

ペナルティも相まってさらに負けられない戦いとなったため、どこに金貨をセットするのが最善か、今は一刻も早く考えを巡らせなければならない局面だ。


......なのになぜだろう。


俺はジオラマ上に突如出現した、ヴァレリアに似たクイーンの駒が、とても悲しげな表情をしているように見えて、目を離すことができなかった。





「よぉぉぉぉしっ!!!!」


第二ターンの結果を受け、観客席に響き渡るほどの歓喜の声をあげたのはバルカスだ。


「これで振り出しに戻ったってことだな。ヒヤヒヤしたぜ」


バルカスの安堵の表情に、隣に座るジークも表情が緩む。


「そうですね、しかし......」


一瞬緩んだ表情がまた引き締まる。

それを見たバルカスの表情も険しくなる。


「ペナルティか......開始の時に説明がなかったから、今回は適用されないんじゃないかと期待したが、そう生易しいもんじゃねぇよな」


「えぇ。照平、何とかあとニターンをうまく乗り切ってくれるといいんですが......」


ジークがふと隣を見ると、ミカが頭を抱えていた。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!駒が増えてさらにわけが分からなくなってきたぁぁぁぁ......」


バルカスとジークが顔を見合わせて苦笑する。


「まぁ確かにそうだな。ジーク、クイーンが増えてどんな影響があるんだ?」


「そうですね......ゲームバランスは劇的に改善されるでしょうね。今まではナイトの効果がかなり強かったですから」


それを聞いたミカの表情がパッと明るくなる。


「おぉ!つまり、クソゲー脱却ですな!」


「まぁ、そうとも言えるな。大雑把な説明だが、ギルドにセットするか、ナイトにセットするか二つの選択肢しかなかったところに、クイーンにセットするという三つ目の選択肢ができたことで、バランスが良くなったんだ。例えるなら......チョキとパーだけだったじゃんけんに、グーが加わったようなものだ」


この説明には流石のミカも納得したように腕を組んで大きくうなずいている。

そして照平に向かって力一杯声援を送る。


「照平殿ーー!グーです!グーを出すんですぞーー!」


その声援は大観衆のざわめきに飲み込まれ、照平の耳には届かない。

しかし、その気持ちが通じたのか、もしくはヴァレリアに似たその駒に魅了されたのか、照平はクイーンのコインスロットに金貨を力強くセットする。


「両者、セット完了。では第三ターンの結果発表を行う」




つづく

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